第六五話
帝都アルテミスの街は、夕暮れから夜へと移り変わり、石畳の通りには薄暗い街灯の光が揺れていた。数日前、ロザンナとショッピングを楽しんだ記憶が私の心に残っていた。
市場の色とりどりの露店、彼女の赤い瞳が輝く笑顔、パンやアクセサリーを手に取る優雅な仕草――すべてが温かい余韻を残していた。
私は宿屋の部屋で、白いワンピースを着たまま窓辺に立ち、外の静寂を見つめていた。紫の瞳がガラスに映る無表情な顔を捉え、心の中では「…ロザンナ、姉。楽しい」と呟いた。
スカートに隠した狩猟刀の感触が、安心感を与えていた。
ミリアは隣で魔法書を読み、レオンとガルドはテーブルで作戦会議の続きをしていた。暖炉の火が部屋をオレンジ色に染め、木製の床に揺れる影が穏やかな雰囲気を醸し出していた。だが、私の胸の奥には、微かな不安が残っていた。
「…また、来る?」と私は考え、ロザンナとのキスの記憶が頭をよぎった。あの夜明けの約束が、私を眠らせなかった。
突然、ドアが軽くノックされた。心臓が一瞬跳ね、レオンが剣を手に立ち上がった。「…誰だ?」と彼が低い声で呟き、ガルドが大剣を握ってドアに近づいた。ミリアが魔法書を閉じ、杖を手に持った。
私の紫の瞳がドアを見つめ、「…ロザンナ?」と心の中で呟いた。ドアが開くと、霧の中から漆黒の黒髪と赤い瞳のロザンナが現れた。優雅なローブを纏い、穏やかな笑顔を浮かべていた。心がざわめいた。「…来た」と私は呟き、立ち上がった。
レオンとガルドが一気に警戒度を上げた。レオンの鋭い目がロザンナを睨む。
「…お前、暗殺者だな。リリィに近づくな」と剣を構えた。
ガルドが「くそっ、一昨日戦った奴だ! 何の用だ!?」と叫び、大剣を振り上げた。
部屋の空気が一変し、暖炉の火が不気味に揺れた。私の心は動揺した。「…敵じゃない…?」と私は考え、ミリアの反応を待った。
ミリアが「待って! 二人とも落ち着いて!」と叫び、杖を下ろしてロザンナの前に立った。緑の瞳が鋭く光り、「ロザンナ、何の用? リリィに危害を加える気なら、許さないから」と厳しい声で尋ねた。ロザンナがクスクスと笑い、優雅に頭を下げた。
「ご心配ありがとうございます、ミリアさん。今日は危害を加えるためではありません。リリィと話がしたいのです。彼女に、命の危機が迫っていることを伝えたい」と彼女が言った。その言葉に、心が凍りついた。「…命の危機?」と私は呟き、紫の瞳がロザンナを捉えた。
リリィの視点 -
ロザンナが部屋の中央に立ち、赤い瞳で私を見つめた。心がざわめいた。
「…姉さん。危ない?」と私は考え、彼女の言葉を待った。彼女が深呼吸し、「リリィ、座って。重要な話だ」と呟いた。
暖炉の火が彼女の黒髪を照らし、優雅な影を床に落とした。レオンとガルドが警戒を解かず、ミリアが私のそばに寄った。心が温かくなり、「…仲間、近くに」と私は呟いた。
ロザンナが話し始めた。
「数ヶ月前に、私が所属する暗殺者ギルドに、ローブを目深に被った人物が訪ねてきた。リリィの人相書きを渡し、この人物を殺して欲しいと依頼してきたのだ」と彼女が言った。心が跳ね、「…私、殺す?」と呟き、紫の瞳がロザンナを捉えた。彼女が続ける。
「ギルドは最初、私のことかと慌てた。
だが、ローブの人物の話では、名前も髪や瞳の色も違うことが分かった。ギルド長は疑問を抱き、リリィが辺境の村で、何の変哲もない帝都の学校の元教師に育てられた少女だと知り、殺す必要があるのかと考えるようになった」と彼女が説明した。
ミリアの視点 -
ロザンナの言葉に、私の頭が混乱した。「…リリィちゃんを殺す依頼!? 誰が!?」と心の中で叫び、杖を握る手に力がこもった。
暖炉の火が部屋を照らす中、彼女の赤い瞳が真剣に私たちを見つめた。
レオンが「…詳しく話せ」と低い声で促し、ガルドが「暗殺者ギルドか、クソったれな」と呟いた。私の胸は不安で締め付けられ、「リリィちゃん…こんな危険が近づいてたなんて」と涙がこぼれそうになった。
ロザンナが「依頼人の正体は分からず、リリィの調査を進めることにした。
だが、数日後、リリィの村が盗賊団に襲撃され、壊滅。村人も全滅した報告が上がってきた」と語った。
その言葉に、頭が真っ白になった。
「…村が!? リリィちゃんの育ての親が…!」と呟き、ミリアの目が涙で潤んだ。
ロザンナが「数日後、ローブの人物が再訪。村が壊滅し、生き残りがないと報告すると、口元がニヤリと歪み、依頼料を置いて去った」と続けた。
心が凍り、「…誰だ!? リリィちゃんを狙う奴は…!」と怒りが湧いた。
リリィの視点 -
ロザンナの言葉が、私の心に重くのしかかった。
「…村、壊滅? エドとリナ…?」と私は呟き、紫の瞳が揺れた。
辺境の村での記憶が蘇る。エドの優しい笑顔、リナの温かい手――それが盗賊団に奪われたのか。
胸が締め付けられ、「…悲しい」と初めて心が動いた。
ロザンナが「魔王を倒した仲間にリリィがいたことを知り、悪い予感がした。すべてを話し、調査を続けてきた」と続けた。心が混乱した。
「…姉、助ける?」と私は考え、彼女の赤い瞳を見つめた。
ミリアの視点
ロザンナの告白に、私の心は恐怖と怒りでいっぱいだった。
「リリィちゃんの村が…育ての親が…! ロザンナ、なぜ今言う?」と呟き、彼女を睨んだ。
ロザンナが「リリィを助けたい。暗殺者としての過去は捨てられないけど、妹を守りたい」と語った。
レオンが「…信じられるか?」と疑問を投げかけ、ガルドが「クソッ、騙されてるかもな!」と叫んだ。
私の胸は葛藤で揺れたが、リリィの無表情な顔を見た瞬間、決意が固まった。
「リリィちゃんを守る。ロザンナ、真相を確かめるよ」と私は呟き、杖を握った。
リリィの視点
ロザンナが私の手を取る。
「リリィ、危険はまだ続く。だけどあなたの姉として守る」と呟いた。
心が温かくなり、「…姉さん、ありがとう」と私は答えた。ミリアが「リリィちゃん、私も一緒に守るよ」と笑い、レオンとガルドが頷いた。暖炉の火が部屋を照らし、仲間の気配が私の心を支えた。
「…約束。生きる」と私は呟き、紫の瞳に決意を宿した。
ロザンナの赤い瞳が私を見つめ、双子としての絆が深まった。




