第五十七話
帝都アルテミスに戻った勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は、クロノスを倒した後も、リリィの正体に関する謎を解くために動き続けていた。
クロノスの最後の言葉「お前はこちら側の存在だ、人とは相容れない存在だ」が一行の心に重く響き、リリィがホムンクルスと人間のハーフではないかという疑念が深まっていた。
レオンとミリアは、帝都の魔法研究施設で得た資料を基に、リリィの過去を探るための調査を続けていた。
帝都の図書館は、今日も静寂に包まれていた。
高い天井には古いシャンデリアが吊るされ、窓から差し込む薄暗い光が本棚を照らしていた。
レオンとミリアは図書館の奥のテーブルに座り、魔法研究施設から持ち帰った資料を再び広げていた。
ミリアが「…ホムンクルスと人間の遺伝子培養…兵器として大量生産…」と呟きながら、紙を一枚一枚めくっていた。
レオンが「リリィの過去に関わる情報がもっと必要だ。
クロノスの言葉が頭から離れない」と呟き、剣を手に持った。
宿屋では、リリィがガルドと一緒に過ごしていた。
ガルドが「リリィ、俺と一緒に訓練するか? クロノスを倒したんだ、次はもっと強くなるぜ!」と笑うと、リリィが「…ガルド、ありがとう。訓練…する」と呟き、無表情のまま小さな笑みを浮かべた。
彼女の紫の瞳には、純粋な信頼が宿っていたが、レオンとミリアはその裏に隠された真実を知るために動き続けていた。
図書館で資料を読み進めていると、一人の男がレオンとミリアに話しかけてきた。
男は背が高く、黒髪に青いローブをまとった若い魔法使いだった。レオンが「誰だ?」と鋭い目で男を睨む。
男が「失礼しました。私はユンゲと申します。先日、魔法研究施設でリーダーの指示で資料をお渡しした者です」と呟き、軽く頭を下げた。
ミリアが「…ユンゲさん? 覚えてるわ。どうしてここに?」と尋ねると、ユンゲが「ホムンクルスのことで…気になることがあって、お話をしたいと思いまして」と呟き、少し緊張した様子で二人を見つめた。
レオンが「…話せ。リリィの正体に関わることなら、何でも聞く」と呟き、椅子に座るようユンゲに促した。
ユンゲが「ありがとうございます。少し長い話になりますが…ホムンクルスの歴史からお話しします」と呟き、静かに語り始めた。
図書館の薄暗い光の中で、ユンゲの声が静かに響いた。
ユンゲが「ホムンクルスの研究は、帝国が先代の勇者が活躍していた時代に始まりました。魔王や魔物に対抗するために、ホムンクルスを兵器として利用しようとしたのです」と呟き、話を続けた。
「ホムンクルスは魔法と錬金術で作られる人工生命体ですが、大きな弱点がありました。寿命が短いこと…長くても3年程度しか生きられないのです。帝国はその弱点を克服しようと、ホムンクルスと人間の交配実験を始めました」
レオンが「…人間とホムンクルスの交配? そんな禁忌の実験が…」と呟き、剣を握る手に力がこもった。
ミリアが「それで…どうなったの?」と尋ねる。
ユンゲが「いくらかの成果を上げました。ホムンクルスであることを伏せて、実戦に投入された個体もいました。一定の戦果を上げていましたが…魔王側にその存在を察知され、当時の研究施設が破壊されてしまったのです」と呟いた。
ユンゲが「その時、長寿命化には成功した個体がいくつか作られていました。しかし、戦闘能力ではあと一歩及ばず、兵器としては不完全と判断され、保管されていました。その中の一人が…行方不明になったのです」と呟き、少し声を潜めた。
レオンが「…行方不明? それが…リリィと関係があるのか?」と呟き、ユンゲを見つめた。
ユンゲが「はい。正式な資料とは別に、乱雑に書かれたメモ書きが残されていました。そこには、その個体――リリィと思われる子について、詳細が書かれていたのです」と呟き、懐から一枚の古びた紙を取り出した。
ユンゲが「このメモ書きには…こう書かれていました」と呟き、紙を広げて読み上げた。
「長寿命化には成功したが、戦闘能力が不完全な個体。兵器としての利用は難しい。せめて普通の子として生きられるように、辺境の村の近く、影の森に封印した。リリィを真っ直ぐに育てられる存在が現れた時に封印が解けるように設定した」と呟き、紙をレオンに渡した。
ミリアが「…影の森に封印…リリィちゃんを真っ直ぐに育てられる存在…」
と呟き、緑の瞳に驚きの色が浮かんだ。
レオンが「つまり…リリィはホムンクルスと人間のハーフで、長寿命化の実験の産物だった。そして、影の森で封印されていた…?」と呟き、紙を見つめた。
ユンゲが「そうです。そして今、リリィがこうして出歩いているということは…封印が解けた、つまり、彼女を真っ直ぐに育てられる存在が現れたということです」と呟き、静かに微笑んだ。
レオンが「…エドとリナだ。リリィを育てた老夫婦だな」と呟き、ミリアが
「リリィちゃん…エドさんとリナさんに愛されて、封印が解けたんだ…」
と呟き、涙をこらえた。
ユンゲが「リリィは、帝国の実験の産物ではありますが、こうして立派に育った。彼女を育てた人々、そして今、彼女を支えるあなたたちのおかげです」と呟き、立ち上がった。
ユンゲが「これ以上、私が知っていることはありません。リリィが幸せに生きられることを願っています」
と呟き、そそくさと図書館を出て行った。レオンが
「…待て、もっと詳しく…!」
と叫んだが、ユンゲの姿はすでに消えていた。
ミリアが
「レオン…リリィちゃんの過去が、少しだけ分かったよ。彼女は…兵器として作られたけど、エドさんとリナさんに愛されて、人間として生きてきたんだ」
と呟き、紙を手に持った。
レオンが
「そうだな…。クロノスの言葉、『こちら側の存在』というのも、ホムンクルスとしての出自を指していたのかもしれない。だが、リリィは俺たちの仲間だ。過去が何であれ、彼女はリリィだ」
と呟き、剣を握る手に力を込めた。
ミリアが
「うん、リリィちゃんを守るためにも、もっと調べよう。彼女がこれからも幸せに生きられるように」
と呟き、決意を新たにした。
レオンとミリアは宿屋に戻った。
部屋に入ると、リリィがガルドと一緒に窓辺に座り、外を眺めていた。
ガルドが
「お、帰ってきたぜ! リリィ、よかったな!」
と笑うと、リリィが「…ミリア、レオン、おかえり」
と呟き、無表情のまま二人を見つめた。
ミリアが「リリィちゃん、ただいま。
私たち、ちょっと面白い話を聞いてきたの。また今度話すね」と笑うと、リリィが「…うん。ミリア、嬉しい」と呟き、小さな笑みを浮かべた。
レオンとミリアは、リリィの過去を知ったことで、彼女への想いをさらに深めた。
リリィがホムンクルスと人間のハーフであること、兵器として作られた存在であること、そして愛情を受けて育ったことで封印が解けたこと――その全てが、リリィという少女の純粋さを物語っていた。
一行は新たな決意を胸に、リリィと共に未来を歩み続けるのだった。




