第四十七話
魔王とその右腕である執事を倒し、帝国の都「アルテミス」に平和が戻った。勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は帝都で休息を取っていた。
勲章の授与式でリリィが襲撃され重症を負うというトラブルがあったものの、リリィは無事回復していた。
レオンとガルドは新たな敵である戦術家「クロノス」の調査に出かけていたが、ミリアとリリィは帝都の街で束の間の穏やかな時間を過ごしていた。
帝都の中心街は活気に満ちていた。
石畳の通りには色とりどりの看板が並び、商人たちが大声で客を呼び込んでいた。
焼き立てのパンの香りや、鍛冶屋の鉄を打つ音、子供たちの笑い声が響き合い、街全体が生命力に溢れていた。
ミリアが「リリィちゃん、今日はいろんなお店を見て回ろうね!」と笑顔で言うと、リリィが無表情で「…うん。ミリアと一緒なら…楽しい」と呟いた。
ミリアは帝都で有名な魔法使いだった。
魔王討伐のメンバーとして帝都から出発した彼女は、住民たちにとって知られた存在だった。
長い金髪に優しい緑の瞳、穏やかな笑顔が印象的な彼女は、通りすがりの人々から「ミリア様、おかえりなさい!」と声をかけられていた。
ミリアが「ありがとう! ただいま!」と手を振ると、住民たちが笑顔で応えた。
一方、リリィは途中の辺境の村で勇者一行に加わった少女で、帝都の住民たちにはほとんど知られていなかった。
小柄で華奢な体躯に白銀の髪、白磁のような白い肌、紫の瞳が気品を感じさせたが、実年齢よりも幼く見える容姿から、住民たちは「ミリアがどこかで拾ってきた孤児だろう」と噂していた。
リリィが無表情で淡白な物言いをするため、冷たい印象を与えることもあったが、ミリアと一緒にいる時の彼女はどこか純粋無垢な雰囲気を漂わせていた。
二人はまず、パン屋の店先に立ち寄った。
店主が「ミリア様、いらっしゃい! 新しいパンが焼けたよ。試してみるかい?」と笑顔で言うと、ミリアが「ありがとう! リリィちゃん、どれがいい?」と尋ねた。リリィが無表情で棚を見回し、「…これ…丸い…何?」と呟くと、店主が「それはシナモンロールだよ。甘くて美味しいよ」と答えた。
リリィが「…シナモンロール…食べる」と呟き、ミリアが「じゃあ、二つください!」と笑った。
二人がシナモンロールを手に持つと、リリィが一口かじり、「…甘い…美味しい」と呟いた。無表情ながら、紫の瞳に微かな光が宿り、初めて見るものに興味深げな様子が伺えた。
ミリアが「よかった、リリィちゃんが気に入ってくれて」と穏やかな笑顔でリリィを見つめた。
通りすがりの老婆が「ミリア様、妹さんかい? 仲が良くて微笑ましいね」と言うと、ミリアが「ありがとう! 妹じゃないけど、大切な仲間なの」と笑った。
次に二人は、アクセサリー店に立ち寄った。店には色とりどりの髪飾りや指輪が並んでいた。
ミリアが「リリィちゃん、この髪飾り似合いそう!」と紫色の花の髪飾りを手に持つと、リリィが「…ミリアが選ぶなら…付ける」と呟いた。
ミリアがリリィの白銀の髪に髪飾りを付け、「可愛い! リリィちゃん、似合ってるよ!」と笑うと、リリィが「…ミリア、嬉しい」と呟き、初めて小さな笑みを浮かべた。
店主が「なんて可愛らしいお嬢さんだ! ミリア様、いい子を連れてるね」と感心し、二人が微笑ましく見えた。
さらに二人は、広場で大道芸人のパフォーマンスを見物した。
火を吹く芸人が炎を上げると、観客が拍手喝采を送った。
リリィが「…火…すごい」と呟き、興味深げに紫の瞳を輝かせた。ミリアが「リリィちゃん、面白いよね。私たちの魔法とはまた違う技だね」と笑うと、リリィが「…うん。ミリアと一緒…楽しい」と呟いた。
二人の姿は、まるで仲の良い姉妹のようで、広場の住民たちも微笑ましく見守っていた。
帝都の住民たちは、ミリアとリリィの姿を見て心温まる思いを抱いていた。市場で果物を売る女性が「ミリア様、いい子を連れてるね。どこかで拾った孤児かい?」と尋ねると、ミリアが「ううん、リリィちゃんは私の大切な仲間なの。一緒に旅をしてきたのよ」と笑った。
女性が「へえ、そうかい。ミリア様らしいね。優しい子だ」と呟き、リリィをじっと見つめた。
リリィの無表情な顔と淡白な物言いは、冷たい印象を与えることもあった。
果物屋の女性が「この子、ちょっと怖い顔してるね。孤児だったから、辛い目にあったのかい?」と呟くと、ミリアが「リリィちゃんはね、感情をあまり表に出さないだけなの。でも、すごく優しくて純粋な子なのよ」とフォローした。
リリィが「…ミリア、ありがとう」と呟き、女性に小さな笑みを向けると、女性が「…おや、笑うと可愛い子だね。ミリア様、しっかり育てておくれ」と笑った。
住民たちは、リリィが勇者一行の一人で、魔王討伐に大きく貢献した戦士だとは微塵も考えていなかった。
彼女の小柄で華奢な体躯、幼いといっても過言ではない容姿から、「ミリアが引き取った孤児」と誤解していたのだ。
市場の男が「ミリア様、あんな小さな子を連れて旅なんて大変だっただろう。よく魔王を倒して戻ってきたね」と言うと、ミリアが「うん、リリィちゃんがいてくれたから頑張れたの」と笑った。
男が「へえ、いい子だね。ミリア様の癒しになったんだろう」と呟き、リリィの実力を知る由もなかった。
だが、その実、リリィは勇者一行の中でも突出した戦士だった。リリィが一行に加わってからの戦績は、レオンやガルドを上回っていた。
魔物や賊を倒した数は数百に上っていた。
彼女の狩猟刀は、見た目とは裏腹に恐るべき武器となり、敵を容赦なく叩き潰していた。
さらに、リリィが勇者たちと出会う直前の過去は、帝都の住民たちが想像もできないものだった。
リリィは元々軍に所属していた兵士たちが結成した盗賊団に襲われた村の生き残りだった。
その盗賊団は、辺境の村々を襲い、略奪を繰り返す凶悪な集団だった。
リリィは村が襲われた夜、たった一人で盗賊団に立ち向かい、スコップを手に数十人の兵士を壊滅させたのだ。
彼女の無感情な表情の裏には、過酷な過去と圧倒的な戦闘力が隠されていた。
帝都の住民たちが微笑ましく見つめる目の前の少女が、そんな過去を持つ戦士だとは誰も想像していなかった。
リリィがミリアと一緒にパンを食べ、髪飾りを付け、大道芸に見入る姿は、純粋無垢な少女そのものだった。
彼女の紫の瞳が初めて見るものに輝き、小さな笑みを浮かべるたびに、住民たちは「なんて可愛らしい子だ」と心から思った。
夕暮れ時、二人は帝都の中心にある噴水広場で一休みしていた。
ミリアが「リリィちゃん、今日一日楽しかったね。
いろんなものが見られてよかった」と笑うと、リリィが「…うん。ミリアと一緒…楽しかった」と呟いた。ミリアがリリィの白銀の髪を撫で、「リリィちゃん、笑ってくれると本当に嬉しいな」と穏やかな笑顔を向けた。リリィが「…ミリア、好き」と呟き、無表情ながらも小さな笑みを浮かべた。
噴水の水音が響く中、広場の子供たちが「ミリア様、遊ぼう!」と駆け寄ってきた。
ミリアが「もちろん、いいよ!」と笑い、子供たちと追いかけっこを始めた。
リリィは噴水の縁に座り、ミリアと子供たちをじっと見つめた。
「…ミリア、楽しそう」と呟き、紫の瞳に微かな温もりが宿った。
子供たちの一人がリリィに「お姉ちゃんも遊ぼう!」と手を差し出すと、リリィが「…遊ぶ」と呟き、子供の手を取った。
リリィが子供たちと一緒に走り回る姿に、住民たちが「ミリア様の妹、意外と元気だね」と笑った。
夕陽が帝都をオレンジ色に染める中、ミリアとリリィは手を繋いで家に戻った。
ミリアが「リリィちゃん、また明日も出かけようね」と言うと、リリィが「…うん。ミリアと一緒なら…どこでも行く」と呟いた。
二人の絆は、帝都の穏やかな一日を通じてさらに深まった。
だが、クロノスの影は静かに迫っており、彼女たちの平穏な日々は長くは続かない運命だった。




