第四十五話
帝都「アルテミス」の通りは、魔王を倒した後の平和な雰囲気に満ちていた。
勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は王宮での休息を終え、帝都の街を散策していた。レオンとガルドは戦術家クロノスの調査に出かけ、リリィとミリアは二人で街を歩いていた。
帝都の通りは賑やかで、商人たちが商品を並べ、子供たちが笑いながら走り回っていた。
リリィは白いワンピースを着て、スコップを手に持ち、白銀の髪が陽光に輝いていた。
紫の瞳は無表情だが、ミリアがそばにいることで心が穏やかだった。ミリアが「リリィちゃん、この通り、いろんなお店があって楽しいね! 何か食べたいものある?」と笑顔で尋ねると、リリィが「…ミリアが選ぶなら…食べる」と呟いた。
二人が通りを歩いていると、リリィが突然立ち止まった。
彼女の視線の先には、石造りの門を持つ学校があった。
門の看板には「アルテミス第二学校」と書かれている。
商人や下級貴族の子供たちが通う学校で、帝都では有名な教育機関だった。リリィが「…学校」と呟き、じっと門を見つめた。
ミリアが「リリィちゃん、どうしたの? この学校、気になるの?」と尋ねると、リリィが「…昔…ここで…育ててくれた人が…先生だった」と呟いた。ミリアが「育ててくれた人? リリィちゃんの家族のこと?」と尋ねると、リリィが「…うん。老夫婦…エドとリナ…私の…家族」と呟き、無表情のまま学校を見つめた。
紫の瞳に、微かな懐かしさと悲しみが宿っていた。
ミリアが「リリィちゃん、エドさんとリナさんのこと、もっと知りたいな。学校で誰か覚えている人がいるかもしれない。行ってみようか?」と提案した。
リリィが「…うん。ミリアと一緒なら…行く」と呟き、二人は学校の門をくぐった。
学校の校庭では、子供たちが元気に走り回り、先生たちが授業の準備をしていた。
ミリアが近くの先生に「すみません、昔この学校で先生をしていたエドさんとリナさんという老夫婦を知っている方はいませんか?」と尋ねると、先生が「学園長なら知っているかもしれません。長くこの学校にいますから」と答えた。
二人は学園長室に案内された。学園長は60代くらいの女性で、穏やかな笑顔が印象的な人物だった。
彼女が「ようこそ、アルテミス第二学校へ。私は学園長のマリエッタです。どのようなご用でしょうか?」と尋ねる。
ミリアが「実は、昔この学校で先生をしていたエドさんとリナさんのことを知りたいんです。
リリィの育ての親なんです」と説明した。
リリィが「…エドとリナ…優しい人…だった」と呟く
マリエッタが「ああ、エドとリナ! もちろん覚えています。素晴らしい先生たちでした。子供たちに慕われていて、厳しいけど優しい教育者でした」と微笑んだ。
彼女が「今はどうしているんですか? 元気にしていますか?」と尋ねると、リリィの表情が一瞬曇った。
リリィが「…エドとリナ…もういない」と呟いた。マリエッタが「え…?」と驚き、ミリアが「リリィちゃん…」と心配そうにリリィを見つめた。リリィが無表情のまま、淡々と過去を語り始めた。
「…私、エドとリナに拾われた。影の森の村…辺境に住んでた。二人…優しかった。エドは…字を教えてくれた。リナは…料理を教えてくれた。…家族だった」リリィの声は抑揚がなく、感情が感じられないようだったが、ミリアはその言葉の裏に深い感情が隠れているのを察した。
リリィが話を続けた。
「…森で…盗賊に会った。悪い人たち…私を襲った。私…殺した。ナイフで…三人、倒した。…でも、心…動かなかった。…私、変だと思った」マリエッタが「そんな…小さな子が…」と呟き、ミリアが「リリィちゃん…」と呟いた。リリィがさらに話を続けた。
「…村に帰ったら…もっと悪いことがあった。盗賊団…村を襲った。みんな…死んだ。エドとリナ…守ってくれた。でも…死んだ。…エド、刺されて…リナ、エドを庇って…死んだ。…最期、私が看取った。…墓、作った。…二人、私を守って…死んだ」
リリィの声が微かに震えた。
彼女が「…私が…もっと強ければ…守れた。…悔しい」と呟くと、マリエッタが「なんて…辛い経験を…」と呟き、ミリアが「リリィちゃん…」と呟いた。
リリィがさらに話を続けた。「…盗賊団、許せなかった。私…一人で…盗賊団、壊滅させた。…ナイフで…全員、倒した。…でも、エドとリナ…戻らない。…私が…弱かったから…死んだ」
リリィの紫の瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
彼女は無表情のまま涙を流し、自分が泣いていることに気づいていなかった。
リリィが涙を流していることに気づき、ミリアが「リリィちゃん…泣いてるよ」と呟き、そっとリリィの頬に触れた。
リリィが「…泣いてる…? 私…泣いてる…?」と呟き、初めて自分の感情に戸惑った。
彼女の心が、エドとリナを失った喪失感と悲しみでぐちゃぐちゃになり、抑えていた感情が溢れ出していた。
「…エド…リナ…ごめん…私が…弱かった…ごめん…」リリィが呟き、涙が止まらなくなった。
彼女は無表情のまま泣き続け、ミリアが「リリィちゃん…もういいよ。もう頑張らなくていいよ」と呟き、リリィを抱きしめた。
リリィが「…ミリア…温かい…」と呟き、ミリアの腕の中で泣き続けた。
マリエッタが「リリィさん…こんなに想ってくれる娘に恵まれたエドとリナは、幸せだったと思いますよ。あなたが盗賊団を倒したのも、二人のために戦ったからですよね。あなたは立派な子です」と優しく慰めた。
リリィが「…幸せ…? エドとリナ…幸せ…?」と呟き、マリエッタが「はい、きっとそうです。あなたがこんなに愛してくれているんですから」と微笑んだ。
ミリアがリリィの頭を撫でながら、「リリィちゃん、エドさんとリナさんは、リリィちゃんがこんなに想ってくれて、きっと喜んでるよ。私も…リリィちゃんが大好きだから、こうやってそばにいるよ」と呟いた。
リリィが「…ミリア…ありがとう…ミリア、好き」と呟き、ミリアの腕の中で泣き続けた。
リリィはしばらく泣き続けたが、ミリアの温もりとマリエッタの優しい言葉に心が少しずつ癒やされていった。
涙が止まると、彼女は無表情に戻ったが、紫の瞳には微かな安心感が宿っていた。
リリィが「…ミリア、マリエッタ…ありがとう」と呟くと、ミリアが「リリィちゃん、泣いてもいいんだよ。私、いつもそばにいるから」と笑った。
マリエッタが「リリィさん、エドとリナはあなたを誇りに思うはずです。もしよければ、彼らの墓に花を供えに行きませんか? 私も一緒に行きますよ」と提案した。
リリィが「…うん。花…供えたい。…ミリア、一緒に行く?」と尋ねると、ミリアが「もちろん、リリィちゃんと一緒に行くよ」と笑った。
その後、リリィとミリアはマリエッタと共に、影の森の村にあるエドとリナの墓を訪れた。リリィが墓の前に白い花を供えた。
「…エド、リナ…私、強くなった。…ミリアがそばにいてくれる。…もう、泣かない」と呟いた。ミリアがリリィの手を握り、「リリィちゃん、これからも一緒に頑張ろうね」と笑った。
リリィはエドとリナの死を乗り越え、ミリアとの絆をさらに深めた。
彼女の心には、エドとリナへの愛と、ミリアへの信頼がしっかりと根付いていた。帝都での出来事は、リリィに過去と向き合う勇気を与え、新たな一歩を踏み出すきっかけとなった。




