第三十五話
ルナリスで魔王の執事に関する情報を得た勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は、北の山脈を越え、夕暮れ頃に魔王城に到達していた。黒い石でできた廃墟は谷の奥にそびえ、崩れた塔と壁が不気味な影を落としていた。
空気が重く、呪いの気配が漂う中、一行は魔王城の入口――半壊した鉄の門――をくぐり、内部へと足を踏み入れた。レオンが剣を手に「気を抜くな。執事が潜んでるはずだ」と呟き、ガルドが戦斧を担ぎ、「いつでもぶっ潰すぜ」と笑った。
ミリアは杖を握り、「結界の盾がどこかにあるはずだね」と呟き、リリィはスコップを手に無表情で「執事を斬る」と淡々と答えた。
城内部は荒れ果てていた。
石の床はひび割れ、壁には苔が生え、天井の一部が崩落して夕陽が差し込んでいた。
埃と腐臭が漂い、人はおろか魔物の気配すら感じられなかった。
レオンが「静かすぎる…何かおかしい」と眉を寄せると、ガルドが「廃墟だからじゃねえか? 執事がいるなら出てきやがれ」と叫んだ。
声が反響し、石の破片が床に落ちる音が響いた。
ミリアが「気をつけてね。罠があるかもしれない」と警告し、一行は慎重に奥へと進んだ。
長い廊下を抜け、一行は大きな部屋に辿り着いた。部屋の中心に円形の石床が残り、その中央に地面に突き刺さるように置かれた盾があった。
盾は古びて錆びついていたが、銀色の表面に複雑な紋様が刻まれ、先代の勇者の遺物であることが一目で分かった。
周囲は壁を残して地下深く崩れ去り、暗闇が広がっていた。
レオンが盾に近づき、「これが結界の盾か…確かに魔力を感じる」と呟いた。
ガルドが「下が見えねえな。深そうだぜ」と崩れた床の縁を覗き込み、ミリアが「盾が執事を弱らせてるなら、ここにいるはずだよね」と呟いた。
リリィは無表情でスコップを手に部屋を見回し、「気配がある」と呟いた。
その瞬間、部屋の奥から重い足音が響き、巨大な斧を持った牛型の魔物が現れた。身長3メートルを超え、黒い毛に覆われた体、赤い目が輝き、角が鋭く突き出ていた。
「グオオオ!」と咆哮を上げ、魔物が斧を振り上げて一行に襲いかかった。レオンが「来たぞ! 構えろ!」と剣を抜き、ガルドが「でけえ牛だな! ぶっ潰す!」と戦斧を振り上げた。
戦闘が始まった。
牛型の魔物は斧を振り下ろし、石床を砕いた。
レオンが横に跳び、剣で魔物の脚を切りつけたが、厚い皮膚に刃が浅くしか入らなかった。
ガルドが「硬えな!」と叫び、戦斧で魔物の側面を叩いたが、魔物は怯まず斧を薙ぎ払った。
ミリアが「炎よ、焼き尽くせ!」と火球を放ち、魔物の毛を焦がしたが、動きを止めるには至らなかった。
リリィはスコップを狩猟刀に変形させ、魔物の背後に回り込んだ。彼女は無表情で間合いを詰め、狩猟刀で魔物の膝裏を切り裂いた。
血が噴き出し、魔物が膝をついた。
一行はやや苦戦しながらも連携で対抗した。
レオンが魔物の注意を引き、ガルドが戦斧で頭を狙い、ミリアが魔法で援護した。
リリィは素早い動きで魔物の急所を突き、ついに狩猟刀を首に突き刺した。魔物が最後の咆哮を上げ、倒れ込むと、一行は息を整えた。
レオンが「やったぞ」と呟き、ガルドが「しぶとい野郎だったな」と笑った。
ミリアが「みんな無事でよかった」と安堵した。
一安心した瞬間、部屋の奥から轟音が響き、巨大な鉄のハンマーが飛んできた。ハンマーはミリアを直撃する軌道で、レオンが「ミリア!」と叫んだ。
だが、リリィが即座に反応し、ミリアの体を押して床に倒した。
ハンマーはミリアを掠め、代わりにリリィを吹き飛ばした。
彼女の小さな体が宙を舞い、崩れた床の縁を越え、暗闇の深淵へと落ちていった。
「リリィちゃん!」とミリアが叫び、ガルドが「くそっ!」と駆け寄ったが、間に合わなかった。
レオンが「リリィ!」と叫び、崩れた床の縁を覗き込んだが、底の見えない闇が広がるだけだった。
その時、部屋の奥から新たな気配が現れた。
黒いローブを纏い、片腕が異様に長い魔物――魔王の執事兼右腕――が姿を現した。
顔は骸骨のようで、目は赤く輝き、左腕に傷跡が残っていた。
「先代の盾が…私の力を削いでいる…だが、お前たちを殺せば…魔王の復活が…」と低い声で呟き、執事が鉄のハンマーを手に持った。
レオンが「執事か! リリィを助けたいが…お前を倒すのが先だ!」と剣を構えた。
ガルドが「リリィが落ちたままじゃねえ! 早く片付けるぞ!」と戦斧を振り上げ、ミリアが「リリィちゃん、生きてて…!」と涙を浮かべながら杖を握った。
一行はリリィを助けに行きたい気持ちを抑え、執事との戦いに全力を注ぐしかなかった。
執事がハンマーを振り下ろし、石床が砕けた。レオンが「盾の結界が効いてるはずだ! 弱点を突け!」と叫び、一行はリリィの生存を祈りつつ、執事に戦いを挑んだ。
執事の攻撃は重く、一撃が部屋を揺らした。レオンが剣でハンマーを受け止め、ガルドが戦斧で執事の脚を狙った。
ミリアが「光よ、敵を貫け!」と光の矢を放ち、執事の体に突き刺さったが、執事は怯まず反撃した。
一行はリリィの不在を感じながらも、執事を倒すために全力を尽くした。
彼女が生きていることを信じ、戦いは激しさを増していった。




