第三十四話
山脈を越え、先代の勇者が作った街「ルナリス」に辿り着いた勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は、街の入り口で疲れた体を休めていた。
ルナリスは寂れた石造りの街で、崩れかけた塔が中央に立ち、住人の数は少なく、市場は閑散としていた。
風が冷たく吹き抜け、古びた石碑に刻まれた「勇者の遺産」の文字が一行の目に映った。
魔王の手がかりを求めてここまで来た一行は、休息を後回しにし、まずは情報を集めることにした。
レオンが剣を腰に下げ、「街の酒場なら何か聞けるかもしれない。行ってみよう」と提案すると、ガルドが戦斧を肩に担ぎ、「酒があれば何でもいいぜ。喉が渇いた」と笑った。
ミリアは杖を手に、「情報が得られるといいね。リリィちゃんも疲れてるよね?」と優しく尋ねた。
リリィはスコップを手に無表情で「大丈夫。魔王の情報を知りたい」と呟き、一行は街の中心にある酒場「月影の杯」へと向かった。
酒場の扉を開けると、木の香りと酒の匂いが混ざり、暖炉の火がパチパチと鳴っていた。
店内には数人の客――旅人や地元の老人――がテーブルに座り、静かに酒を飲んでいた。
店主は恰幅のいい中年男で、髭を蓄え、鋭い目で一行を見た。
「旅人か。珍しいな、ルナリスに何の用だ?」とぶっきらぼうに尋ねると、レオンが「魔王について知りたい。情報があれば金は払う」と応じた。
一行は木製のテーブルに座り、店主に飲み物を注文した。レオンが「一番高い酒を俺とガルドに。情報料だ」と言い、ガルドが「いいね! 高い酒なら美味いだろ」と笑った。
ミリアが「私はアルコールは苦手だから…果汁をください」と頼み、リリィが無表情で「私も。酒はいらない」と呟いた。
店主は頷き、棚から埃をかぶった瓶を取り出し、レオンとガルドに琥珀色の酒を注いだ。ミリアとリリィには赤い果汁が注がれた木杯が渡された。
レオンが酒を一口飲み、「うまいな。さて、魔王のことだ。北の廃墟、黒い城について知ってるか?」と切り出すと、店主が暖炉に薪をくべながら話し始めた。
「北の方角に元魔王城がある。今は廃墟だよ。先代の勇者が魔王と相打ちになってから、誰も近づかねえ。崩れた石と呪われた空気しか残ってねえはずだ」と。
ガルドが杯を傾け、「じゃあ、今暴れてる魔物はどういうことだ? ヴェルナで魔王の手下に襲われたぜ」と尋ねた。
店主が「そいつらは魔王の手下の生き残りだよ。あるいは、その更に手下だ。先代が魔王を倒した時、全部の魔族が死んだわけじゃねえ。生き残った連中が、力を取り戻そうと暴れてるらしい」と答えた。
ミリアが「生き残り…じゃあ、魔王城にはもう何もないの?」と尋ねると、店主が「そうとも言えねえが…まぁ、これ以上はタダじゃ話さねえよ」と笑った。
レオンが「情報料は払う。全部聞かせろ」と杯を置いた。
一行が話を聞き終え、店を出ようと立ち上がると、店主が「待てよ。お嬢さんたちの飲み物代だ」とミリアとリリィを呼び止めた。ミリアが「え?」と驚くと、店主が低い声で続けた。
「追加の情報だ。魔王の執事兼右腕だった魔物がまだ生きてる。先代の勇者との戦いで負った傷を癒やしてるらしい。北の魔王城に潜んでるって噂だ」と。
一行が息を呑むと、店主がさらに続けた。
「それと、先代の勇者が使ってた盾が魔王城に残ってる。結界になってて、魔王城の中にいる執事の傷の治癒を阻害してるそうだ。執事が動けねえのは、そのせいらしい」
レオンが「魔王の執事…生き残りがそんな大物か」と呟き、ガルドが「結界の盾ねえ。執事が弱ってるなら、今がチャンスじゃねえか?」と笑った。
ミリアが「でも、執事が生きてるなら危険だよ。先代の勇者を倒した魔王の右腕なんだから」と心配そうに言った。リリィは無表情で果汁の杯を置き、「執事を倒す。魔王城に行く」と淡々と呟いた。
レオンが店主に金を渡し、「情報、感謝する。魔王城の正確な場所は?」と尋ねると、店主が「北へ3日、山脈の奥の谷だ。黒い石でできた廃墟が見える。気をつけな、呪われた場所だよ」と答えた。一行は酒場を出て、宿屋に戻り、作戦を立てた。
レオンが地図を広げ、「執事が生きてるなら、後顧の憂いを排除するべきだ。魔王を倒す前に、こいつが復活したら厄介だ」と提案した。
ガルドが「だな。執事をぶっ潰して、盾も回収しようぜ」と頷いた。
ミリアが「盾が結界になってるなら、執事を弱らせてるよね。私たちの力で倒せるかもしれない」と呟いた。
レオンが「決まりだ。ルナリスで補給を済ませて、明朝出発する。魔王城へ向かうぞ」と決断し、一行は準備を始めた。
市場で干し肉、薬草、火打石を買い込み、武器の手入れを済ませた。
朝、ルナリスを出発した一行は、北へ向かう山道を進んだ。
空は灰色に覆われ、風が冷たく吹き抜けた。
レオンが剣を手に先頭を歩き、「執事が弱ってるとしても油断はできねえ。気を引き締めろ」と警告した。
ガルドが戦斧を担ぎ、「弱ってりゃ楽勝だろ。ぶっ潰してやるぜ」と笑った。
ミリアは杖を握り、「結界の盾…先代の勇者の力が残ってるんだね」と呟いた。リリィは狩猟刀を手に無表情で一行の最後尾を歩いた。
道中、魔物の襲撃が何度かあったが、一行の連携で難なく切り抜けた。
リリィの狩猟刀が魔物の首を刎ね、レオンの剣が敵を貫き、ガルドの戦斧が群れを叩き潰した。
ミリアの魔法が援護し、3日目の夕暮れ、魔王城が見えた。
黒い石でできた廃墟が谷の奥に立ち、崩れた塔と壁が不気味にそびえていた。空気が重く、呪いの気配が漂っていた。
レオンが「ここが魔王城だ。先代の勇者が戦った場所…執事が待ってる」と呟き、一行は魔王城へと足を踏み入れた。
魔王の執事を倒し、盾を回収する戦いが始まる予感がした。




