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第二十八話

迷いの森での戦いは、リリィに深い傷を残していた。魔王の手先である魔術師に襲われ、痺れ薬で動きを封じられたミリアの前で、リリィは嬲るように痛めつけられた。雷撃と風の刃が彼女の小さな体を切り裂き、血と土にまみれて倒れ込んだ。

だが、二つの黒い影が現れ、魔術師を倒し、リリィとミリアを救った。

小柄な影がリリィの傷を癒し、ミリアを導いてレオンとガルドと再会させた後、影は霧とともに消えた。

リリィは気絶したまま、ミリアの腕の中で静かに眠っていた。

森の中の小さな木造の小屋で、リリィは夢を見ていた。意識が薄れ、痛みが遠のく中、彼女の心は現実から離れ、不思議な世界へと迷い込んだ。



リリィの目の前に広がるのは、迷いの森とは異なる、奇妙で静かな場所だった。

霧はなく、空は薄い灰色に染まり、風が木の葉をカサカサと鳴らしていた。

最初に目に入ったのは、赤い色をした大きな門のようなものだった。

まっすぐな二本の棒に、横に一本が乗っかっていて、飾り気はないのに、なぜかそこを通ると別の世界に足を踏み入れるような気がした。リリィは無表情で立ち尽くし、紫の瞳でその門を見つめた。少し緊張しながら、彼女はゆっくりとその下をくぐった。

門を抜けると、風が冷たく頬を撫で、木々のざわめきが耳に響いた。

少し歩くと、目の前に不思議な建物が現れた。屋根がふわっと曲がっていて、上に草みたいなものや黒い板みたいなものが敷き詰められていた。屋根の端には、尖ったものや短い棒がちょこんと乗っていて、それが何なのかさっぱりわからなかったけど、なんだか大事なものっぽい雰囲気だった。

壁はただの木でできていて、色も塗られてないみたいで、触ったらザラザラしそうだった。建物自体が地面から少し浮いていて、下に石が並んでいるのも変な感じで、「これ、どうやって立ってるんだろう?」とリリィの頭がぐるぐるした。

周りには高い木がたくさんあって、静かで、どこかひんやりした空気が漂っていた。

道の脇には、石でできた変な形のものが立っていて、上に穴が空いてるのもあった。

何に使うのか全然わからないけど、全部が一緒にそこにあるのが自然な感じがした。

リリィは立ち尽くして、その見たこともない場所をじっと見つめた。

初めて目にするその建物は、なんだか厳かで、でも素朴で、ずっと昔からそこにあったような気がした。

胸の奥がざわざわして、怖いような、懐かしいような、よくわからない気持ちが湧き上がってきた。

リリィはスコップを手に持ったまま、ゆっくりと建物に近づいた。

彼女の小さな足音が苔の上に響き、風が銀髪を揺らした。

建物の中からは何の音も聞こえず、ただ静寂が広がっていた。

リリィは無表情で立ち止まり、紫の瞳で周囲を見回した。

「ここ…どこ?」と呟いたが、声は風に呑まれて消えた。彼女の心はいつも通り感情が薄く、ただ目の前の光景を観察するだけだった。

だが、胸のざわめきは止まらず、何か大切なものがここにあるような気がしてならなかった。

そうしていると、リリィの目の前に一人の少女が現れた。

白い上着と赤色のスカートのようなズボンを履いたその少女は、リリィと同じくらいの背丈で、長い黒髪が風に揺れていた。

少女は無言でリリィに近づき、突然彼女を抱きしめた。

リリィは一瞬体を固くしたが、少女の腕から伝わる温かさに、奇妙な感覚が流れ込んできた。

それは、かつて育ててくれた老夫婦に抱きしめられた時の感覚に似ていた。

おじいちゃんの大きな手、おばあちゃんの優しい声が、頭の中に蘇った。

「おじいちゃん…おばあちゃん…?」とリリィが呟くと、少女は無言で頷き、さらに強く抱きしめた。リリィの胸に熱いものが込み上げ、紫の瞳から涙が溢れ出した。

彼女は感情が薄いはずなのに、なぜか涙が止まらなかった。

「どうして…泣いてるの?」と自分に問いかけたが、答えは見つからない。

ただ、少女の温もりが、彼女の心に深い安堵と懐かしさをもたらしていた。

リリィは少女の背中に手を回し、小さく震えながら抱きしめ返した。


リリィが目を覚ますと、木造の小屋の中だった。

目の前には、ミリア、レオン、ガルドの心配そうな顔があった。

彼女はベッドに横たわり、破れたワンピースの上にミリアのローブがかけられていた。頭の中にはまだ夢の余韻が残り、胸のざわめきが消えていなかった。リリィは無表情で起き上がり、紫の瞳で仲間たちを見つめた。

「リリィちゃん! よかった、目が覚めた!」とミリアが駆け寄り、リリィの手を握った。

レオンが「大丈夫か? 気絶してたぞ」と静かに尋ね、ガルドが「ちっ、魔術師の野郎にやられたんだろ? 俺がぶっ潰してやりゃよかったぜ」と拳を鳴らした。

ミリアはリリィの額に手を当て、「熱はないみたい…でも、眠ってる間に涙を流してたの。不思議に思ってたんだよ」と優しく言った。

リリィは自分の頬に手を触れ、確かに涙の跡を感じた。

「泣いてた…?」と呟き、夢の中の少女と老夫婦の温もりを思い出した。

彼女は無表情のまま、「夢を見た。変な場所にいて…赤い門と、曲がった屋根の建物があって…少女が私を抱きしめて…おじいちゃんとおばあちゃんみたいだった」と淡々と語った。

その声には感情がほとんどなかったが、ミリアにはリリィの言葉に微かな揺れがあるように聞こえた。

ミリアはリリィの手を握り直し、「そうなんだ…その夢、リリィちゃんにとって大事なものだったのかもね。眠りながら涙を流すなんて、きっと心が動いたんだよ」と優しく宥めた。

レオンが「赤い門と曲がった屋根…聞いたことのない場所だな。魔王の手先と関係あるのか?」と眉を寄せ、ガルドが「夢なら夢だろ。リリィが無事ならそれでいいぜ」と笑った。

リリィはベッドに座ったまま、紫の瞳で仲間たちを見つめた。

「わからない。でも…温かかった。おじいちゃんとおばあちゃんが、強く、優しく生きなさいって言ったの、思い出した」と呟いた。

ミリアはリリィの銀髪を撫で、「その気持ち、大切にね。泣いてもいいんだよ、リリィちゃん。私たちがそばにいるから」と微笑んだ。

リリィは無表情で頷き、「ありがとう」と小さく答えた。

小屋の中は暖炉の火がパチパチと鳴り、仲間たちの声が静かに響いた。

リリィの夢は、彼女の無感情な心に小さな波紋を残していた。

赤い門と不思議な建物、少女の抱擁が何を意味するのかは分からない。

だが、老夫婦の記憶と仲間たちの支えが、彼女を魔王討伐の旅へと再び立ち上がらせた。

小屋の外では、迷いの森の霧が薄れ、次の戦いを予感させる風が吹いていた。


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