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第二十七話


迷いの森の霧は、深い静寂に包まれていた。勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は、魔王の手先である魔術師との戦いで分断され、ミリアとリリィは危機に瀕していた。

魔術師の痺れ薬に縛られ、ミリアは動けず、リリィは嬲るように痛めつけられていた。

だが、魔術師がリリィにトドメを刺そうとした瞬間、二つの黒い影が現れ、魔術師を圧倒的な力で倒した。小柄な影が魔法を消し、大柄な影が拳で魔術師を打ちのめし、二人はリリィとミリアを回復させて霧とともに消えた。

ミリアは気絶したリリィを抱きしめ、茫然と森を見つめていた。

リリィの小さな体は傷が癒え、静かに眠っていたが、意識は戻らない。

彼女の銀髪は血と土で汚れ、白いワンピースは破れていたが、紫の瞳を閉じた顔には微かな安堵が浮かんでいるように見えた。

ミリアはリリィの額に手を当て

「助かったよ…ありがとう、誰か分からないけど」

と呟いた。だが、霧の中での出来事が頭を離れず、あの二つの影が何者だったのか、なぜ助けてくれたのか、答えが見つからないままだった。


ミリアは立ち上がり、リリィを抱えたまま周囲を見回した。

レオンとガルドは分断された先でどうしているのか。

森の奥から聞こえる微かな魔物の咆哮が、二人だけでは危険すぎることを示していた。

「レオンたちと合流しないと…でも、どうすれば…」とミリアは思案した。

霧が視界を遮り、方向感覚さえ失いそうだった。リリィの軽い体を抱きながら、ミリアは杖を握り直し、進むべき道を模索した。

その時、ミリアのすぐ横に、黒い影が音もなく立っていた。

ミリアは一瞬息を呑み、杖を構えて警戒した。

だが、その影をよく見ると、先ほど自分たちを助けた二つの影のうち、小柄な方に雰囲気がよく似ていた。

黒いもやに全身が覆われ、顔や服装の特徴は分からないが、身長はリリィと同じくらい――約150cm――で、先端に円型の輪っかがついた棒状のものを手に持っていた。

影は静かに立ち、ミリアをじっと見つめていたが、先ほどの戦闘時の鋭さはなく、どこか大人しい様子だった。

ミリアは警戒を緩め、杖を下ろした。

「あなた…さっきの…?」と呟いたが、影は答えず、ただ静かにそこにいた。

ミリアは影の意図を探るように見つめたが、黒いもやに隠された表情は読めなかった。

どう話しかけるべきか悩んでいると、小柄な影がゆっくりと手を伸ばし、ミリアの服の袖をちょこんと掴んだ。

そして、軽く引っ張り始めた。

その動きは控えめで、まるで小さな子が親を導くような仕草だった。

ミリアはその様子から、「ついて来て欲しいのかな?」と感じ取った。

影が敵意を持っていないことは、先ほどの救出で明らかだった。

ミリアはリリィを抱え直し、「わかったよ。案内してくれるのね」と優しく呟き、小柄な影についていくことにした。

影はミリアが動くと、ゆっくりと歩き出し、霧の中を進んだ。

ミリアはリリィの体をしっかりと支え、影の背中を見つめながら森の奥へ進んだ。

霧が濃く、足元の苔が滑りやすい中、ミリアは慎重に歩いた。

小柄な影は時折振り返り、ミリアが遅れていないか確認するように立ち止まった。

その仕草に、ミリアは不思議な安心感を覚えた。

「あなた、優しいのね。誰なのか分からないけど…ありがとう」と呟いたが、影は反応せず、ただ黙々と進んだ。

リリィの呼吸は安定しており、ミリアの腕の中で静かに眠っていた。彼女の無表情な顔に、戦いの疲れが残っているように見えた。

しばらく歩くと、霧が薄れ、小さな木造の建物が現れた。

ミリアにとって初めて見るその家は、森の中にひっそりと佇み、丸太で組まれた壁と苔むした屋根が自然と溶け込んでいた。

家の前には、見慣れた二つの姿――レオンとガルド――が立っていた。

レオンは剣を手に周囲を警戒し、ガルドは長剣を肩に担いでいた。二人はミリアとリリィを見つけると、駆け寄ってきた。

「ミリア! リリィ! 無事か!?」とレオンが叫び、ガルドが「遅えぞ! 心配したんだからな!」と笑った。

ミリアはリリィを抱えたまま、「レオン! ガルド! 会えてよかった…!」と涙声で応えた。

レオンがリリィの状態を確認し、「気絶してるのか…何があった?」と尋ねると、ミリアはこれまでの出来事を話し始めた。

「魔術師に襲われて…痺れ薬で動けなくなって、リリィちゃんが痛めつけられて…。

でも、二つの黒い影が現れて魔術師を倒して、私たちを助けてくれたの」とミリアが説明すると、レオンが眉を寄せ、「黒い影?」と呟いた。

ガルドが「俺たちも変な魔物に襲われたが、何とか切り抜けた。

そいつらが助けたってのか?」と首を傾げた。ミリアは頷き、「そうよ。そして、この影に導かれてここまで来たの」と言い、振り返った。


だが、小柄な影はすでにいなかった。

霧が薄れる中、黒いもやが溶けるように消え、どこにも姿は見えなかった。ミリアは驚き、「え…? さっきまで…」と呟いた。

レオンが周囲を見回し、「確かに何かいた気配はある。だが、もういないな」と剣を収めた。

ガルドが「何だそりゃ? 助けてくれたのはいいが、気味が悪いぜ」と笑った。

ミリアはリリィを抱きしめたまま、茫然としていた。

「あれは…なんだったの?」と呟き、消えた影のことを考えた。

先ほどの戦闘での鋭さと、袖を掴む優しい仕草。

ヒールに似た回復の術と、黒いもやに隠された正体。影が何者で、なぜ助けてくれたのか、ミリアには分からなかった。だが、リリィと自分が生きていること、そして仲間と再会できたことが、彼女の心を温かくした。

レオンが「ここで休んで、リリィが目を覚ますのを待とう。魔王の手先がまだいるなら、備えが必要だ」と提案し、ガルドが「腹減ったぜ。何か食えるもんあるかな」と家の周りを探り始めた。

ミリアはリリィを家の中に運び、木製のベッドに寝かせた。

リリィの小さな体は静かに眠り、紫の瞳は閉じたままだった。

ミリアはリリィの銀髪を撫で、「目を覚ましたら、みんなでまた旅を続けようね」と優しく呟いた。

霧が晴れ、迷いの森に微かな光が差し込んだ。

一行は再会を喜びつつ、謎の影の存在に戸惑いを隠せなかった。

あの影は魔王の敵か、味方か、それとも別の目的を持つ者なのか。

答えは霧の向こうに隠されたままだったが、リリィとミリアを救った事実は、勇者一行に新たな希望を与えていた。

魔王を倒す旅は続き、森の静寂が次の試練を予感させていた。


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