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第二十六話


魔術師がリリィにトドメをさそうとした刹那、霧が揺れ、二つの黒い影がリリィと魔術師の間に割り込むように出現した。

影は黒いもやに全身を覆われ、顔や服装の特徴を隠していたが、異様な存在感を放っていた。

一つはリリィと同じくらいの身長――約150cm――で、先端に円型の輪っかがついた棒状のものを手に持っていた。

もう一つはリリィよりも大柄で、黒いもやの上からでも筋肉質な体躯が明らかで、拳闘士のような構えをとっていた。

魔術師は二つの影に杖を向け、「何!?」と叫んだが、影の出現に一瞬困惑した。


二つの影が動いた瞬間、魔術師は杖を振り、紫の雷撃を放った。

だが、小柄な影が棒状のものを振るうと、雷撃が当たった瞬間に消滅した。

魔術師は「何!? 魔法が…!」と動揺し、後退した。大柄な影がその隙に距離を詰め、拳を魔術師の腹部に叩き込んだ。

「ぐはっ!」と魔術師が呻き、体が吹き飛んで木に激突した。その後は一方的だった。

小柄な影が魔術師の放つ魔法を次々と棒で消し飛ばし、大柄な影が拳で魔術師を殴りつけた。

魔術師は「やめ…!」と叫ぶ間もなく、大柄な影の拳が顔面に直撃し、地面に倒れ込んだ。


二つの影は戦闘不能になった魔術師をしばらく見つめ、確認するように立ち尽くした。

ミリアは動けないまま、その光景を呆然と見つめていた。

影の動きは人間とは思えないほど流麗で、魔術師を圧倒する力は圧巻だった。

魔術師が完全に動かなくなると、二つの影はリリィとミリアの方へ向き直った。

小柄な影がリリィに近づき、棒状のものを地面に置くと、彼女の体に手を翳した。

黒いもやから淡い光が放たれ、リリィの傷がみるみる癒えていく。

血が止まり、肌の傷が消え、彼女の呼吸が安定した。

ミリアはその様子に驚愕した。

それは自身が使うヒールの魔法に似ていたが、仕組みが根本的に異なっていた。

ミリアのヒールは光の魔力で肉体を修復するが、影の術は黒いもやから放たれる未知の力で、まるで時間を巻き戻すように傷を消していた。

小柄な影はリリィの回復を終えると、ミリアに近づき、同様に手を翳した。

ミリアの体に温かい感覚が広がり、痺れ薬の効果が消え、手足が自由になった。

ミリアが立ち上がると同時に、二つの影は霧とともに消えていった。

黒いもやが溶けるように薄れ、森の静寂が戻った。ミリアは気絶しているリリィに駆け寄り、「リリィちゃん!」と抱きしめた。

リリィの小さな体は傷が癒えていたが、意識はまだ戻らず、ミリアの腕の中で静かに眠っていた。

ミリアは茫然としながら、消えた影のことを考えた。あの二人は何者だったのか。魔王の手先ではないことは確かだが、その力と目的は謎のままだった。

霧が薄れ、ミリアはリリィを抱きしめたまま森を見渡した。

レオンとガルドはまだ戻らず、二人の運命は霧の向こうに隠されていた。ミリアはリリィの銀髪を撫で、「助かったよ…ありがとう、誰か分からないけど」と呟いた。

リリィの無表情な顔に、微かな安堵が浮かんでいるように見えた。

魔王を倒す旅は続くが、この森での出来事が一行に新たな謎を投げかけた。

ミリアはリリィを抱え、仲間との再会を信じて立ち上がった。


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