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第二十五話


魔王討伐の旅は、勇者一行を迷いの森へと導いた。深い霧と歪んだ木々が絡み合うこの森は、魔王の手先が潜む危険な領域だった。

レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィは、魔王の気配を追って森の奥へ進んでいた。木々の間を抜ける風が不気味に唸り、足元の苔が湿った音を立てる中、一行は慎重に進んでいた。だが、突然の魔術の波動が彼らを襲った。

黒い霧が広がり、空間がねじれ、レオンとガルドは一瞬にして姿を消した。残されたミリアとリリィは、目の前に現れた魔術師と対峙することになった。

魔術師は瘦せた体に黒いローブをまとい、杖から紫の煙を放ちながら不気味に笑った。「魔王の敵か…お前たちをここで葬ってやる」と低い声で呟き、魔法を繰り出した。

ミリアは杖を構え、光の魔法で応戦し、リリィはスコップを手に素早く動いた。スコップの刃が魔術師の魔法障壁を切り裂き、ミリアの光弾が敵を牽制する。二人の連携は鋭く、魔術師を追い詰めたかに見えた。

リリィの紫の瞳には感情がなく、ただ冷徹に刃を振るう姿は、まるで機械のようだった。ミリアは「リリィちゃん、気を付けて!」と声をかけながら、援護に徹した。

だが、魔術師は狡猾だった。

杖を一振りすると、地面から緑色の霧が噴き出し、ミリアの体に絡みついた。

「痺れ薬だ…動けなくなるぞ」と魔術師が哄笑する中、ミリアは膝をつき、「くっ…体が…」と呻いた。手足が重くなり、杖を握る力さえ失われ、彼女は地面に崩れ落ちた。

リリィはミリアを庇おうと前に出たが、痺れ薬の霧が彼女にも及び、動きが鈍くなった。

スコップを握る手が震え、足がもつれて膝をつく。

彼女の無表情な顔に、初めて疲労の影が浮かんだ。

魔術師は冷たく笑い、「お前たち、魔王に挑むには弱すぎる」と呟き、リリィに近づいた。

ミリアは動けないまま、魔術師がリリィを嬲るように痛めつける光景を目の当たりにした。魔術師は杖を振り、リリィの小さな体に雷撃を放った。

「あっ…!」とリリィが小さく声を上げ、体が痙攣して地面に倒れた。魔術師はさらに杖を振り、鋭い風の刃でリリィの白いワンピースを切り裂き、彼女の白磁のような肌に傷をつけた。

血が滲み、リリィの銀髪が地面に広がる。彼女は無表情のまま、紫の瞳で魔術師を見つめたが、痛みに耐えるように体が震えていた。

「リリィちゃん!」とミリアが叫んだが、痺れ薬に縛られた体は動かず、ただ見ているしかなかった。魔術師は「このガキ、感情もないのか? 面白い玩具だ」と嘲り、リリィの腹に蹴りを入れた。リリィは「うっ…」と小さく呻き、地面を転がった。彼女の過去――盗賊団に老夫婦を殺され、感情が薄いまま戦ってきたこと――を知るミリアは、胸が締め付けられる思いだった。リリィの小さな体が傷つき、血に染まる姿に、涙が溢れた。「やめて…リリィちゃんを…!」と叫んだが、声は霧に呑まれ、魔術師には届かなかった。

魔術師はリリィをさらに痛めつけ、スコップを手に持つ彼女の手を踏みつけた。「武器を握る手が震えてるぞ。もう終わりだ」

と冷たく言い放ち、杖を振り下ろした。紫の魔力が渦巻き、リリィの胸に突き刺さるように雷撃が放たれた。

リリィは「ぐっ…!」と呻き、体が跳ねて地面に倒れ込んだ。血が口元から流れ、彼女の紫の瞳が虚ろに揺れた。ミリアは「リリィちゃん! 動いて…お願い!」と叫んだが、リリィの体は動かず、ただ震えるだけだった。

魔術師は杖を高く掲げ、「これで終わりだ」と呟いた。

紫の魔力が集中し、トドメを刺す一撃がリリィに向けられた。ミリアは動けない体で必死に手を伸ばし、「だめ…リリィちゃんを…!」と叫んだが、痺れ薬の効果は消えず、指先さえ届かない。

リリィは無表情のまま、地面に横たわり、魔術師の攻撃を待つように目を閉じた。

彼女の小さな体は血と土にまみれ、かつての冷徹な戦士の姿は見る影もなかった。

魔術師が杖を振り下ろした瞬間、霧が一瞬揺れ、時間が止まったかのように感じられた。

ミリアの視界に、リリィの倒れた姿と魔術師の冷酷な笑みが焼き付いた。

彼女の心は絶望に呑まれ、「ごめんね…守れなくて…」と呟いた。

リリィの過去を思い出し、彼女が老夫婦の死を乗り越えて戦ってきた強さが、こんな形で終わるのかと悔しさが溢れた。だが、ミリアにはどうすることもできず、ただ涙を流して見つめるしかなかった。

霧の中で、魔術師の笑い声が響き、リリィの体が最後の光に包まれる寸前だった。

一行が分断されたレオンとガルドはどこにいるのか。

助けが来るのか、それともこのまま終わりを迎えるのか。

迷いの森の静寂が、二人の運命を冷たく見下ろしていた。


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