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第二十三話


港町「サレント」は、魔王討伐の旅を続ける勇者一行にとって休息の地だった。

海風が潮の香りを運び、波止場には漁船が並び、市場では新鮮な魚や貝が賑やかに売られていた。勇者レオン、戦士ガルド、ヒーラーのミリア、そしてリリィは、船旅の疲れを癒すため、数日間この町に滞在していた。

レオンは港の様子を眺め、ガルドは酒場で杯を傾け、ミリアは子どもたちと穏やかに過ごし、リリィは一行と共に宿で静かに過ごしていた。


一行は、リリィの過去を知っていた。影の森の近くの村で老夫婦に育てられていたこと。

そして、その村が盗賊団に襲われ、燃やされ、愛する育ての親が目の前で亡くなったこと。

リリィはその復讐として盗賊団を壊滅させ、以来、感情が薄いまま旅を続けていた。

老夫婦の最期の言葉「強く、優しく生きなさい」を胸に刻みながら、彼女は「正しいこと」を模倣し、魔王を倒す一行に加わった。

レオンは彼女の冷徹さに警戒しつつ、ガルドは豪快に受け入れ、ミリアは優しく寄り添っていた。

さらに、リリィが倒した盗賊団が元帝国兵士であり、魔王との戦いで国に見捨てられた末に盗賊に堕ちたことも知っていた。

その複雑な背景が、彼女の怒りと悲しみをより深いものにしていた。

しかし、サレントの平穏は突如として破られた。

夕暮れが近づく頃、町の外れから喊声が響き、火の手が上がった。

多人数の盗賊団が襲撃してきたのだ。

約50人の粗暴な男たちが、剣や槍を手に略奪と破壊を目的に町へとなだれ込んだ。市場は混乱に陥り、住民たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、衛兵たちが応戦を始めたが、数で圧倒されつつあった。


レオンが剣を抜き、「町を守るぞ!」と叫び、ガルドが長剣を手に「まとめてぶっ潰してやる!」と吼える。ミリアは「私が援護するわ」と魔法の詠唱を始め、リリィは無言でスコップを構えた。一行は即座に戦闘態勢に入り、リリィも仲間と共に町の入り口へ向かった。

彼女の紫の瞳に微かな光が宿った。

燃える家々、叫び声、血の匂い――それは、かつての村の記憶を呼び起こした。リリィの胸に、静かな怒りと悲しみが再び灯った。

「リリィ、無理するなよ」とレオンが声をかけると、彼女は無表情で頷き、「斬る」とだけ答えた。

ガルドが「アイツらならお前が一番だな」と笑い、ミリアが「そばにいるからね」と優しく言う。リリィはスコップを握り直し、一行と共に盗賊の群れへ突進した。

戦闘が始まると、レオンは剣技で先頭の盗賊を切り倒し、衛兵たちに指示を出しながら戦線を維持。

ガルドは長剣で盗賊を薙ぎ払い、血と汗にまみれて豪快に笑った。

ミリアは炎と雷の魔法で集団を焼き払い、混乱を広げた。

そしてリリィは、二振りの狩猟刀を手に取り、一振りで盗賊の首を刎ねた。

血が噴き出し、地面が赤く染まっても、彼女は表情を変えない。

ナイフを抜き、別の盗賊の腹を刺し、冷徹に命を奪った。

盗賊たちは「何だこいつ!」「化け物か!」と叫びながら後退し始めるが、リリィは容赦なく追い詰めた。

彼女の頭には、燃える村と老夫婦の最期が繰り返し浮かんでいた。

それでも感情は表に出ず、ただ刃を振るう。戦闘は一時間ほど続き、盗賊団は半数以上が死に、残りは逃げ散った。

町の入り口は血と死体で埋まり、衛兵たちは疲れ果てて膝をついていた。


レオンが剣を収め、「皆、無事か?」と確認し、ガルドが「ちっ、逃げ足の速いやつらだ」と吐き捨てる。

ミリアは「町は守れたね」と息を整えた。一行は一息つき、戦場を見渡したその時、リリィが一人の盗賊を捕らえていた。

彼女は戦闘の混乱の中で、逃げ遅れた盗賊をスコップで殴り倒し、気を失ったその男の襟首を掴んでいた。

突然、リリィの紫の瞳から涙が溢れた。

彼女は盗賊を見下ろし、膝をついて泣きじゃくった。

「どうして…どうしてこんなことするの!?」

彼女の声は掠れ、感情が溢れ出していた。

レオンが「リリィ!?」と驚き、ミリアが急いで駆け寄った。

リリィは盗賊の襟首を掴み直し、取り乱しながら叫んだ。

「おじいちゃんとおばあちゃんを…目の前で殺したよね!? 村を焼いて、みんなを…どうして!? 本拠地はどこ!? 教えてよ!」

彼女の頭に、老夫婦の死の光景がフラッシュバックしていた。

燃える村、家の中で腹を刺され血を流す老夫と老女。

二人が「リリィ…強く、優しく生きなさい」と言い残し、息絶えた瞬間。

リリィの小さな手が老夫婦を掴み、「行かないで」と泣き叫んだ記憶が、鮮明に蘇っていた。

彼女は盗賊にすがりつくように詰問し、涙が止まらなかった。

盗賊は意識が朦朧としながら、震える声で呟いた。

「山の北…廃墟の砦だ…もう、やめてくれ…」

その言葉を聞き、リリィは手を離し、盗賊が地面に崩れ落ちた。

彼女は立ち尽くし、涙を拭いながら震えていた。

レオンが近づき、「リリィ、無理するな」と肩に手を置くと、彼女は小さく首を振った。

「必要だった…終わらせなきゃ」


ガルドが「アイツら、お前にとって特別だもんな」と呟き、ミリアが「辛かったね、リリィちゃん」と優しく抱きしめた。

リリィはミリアの腕の中で小さく頷き、「おじいちゃんとおばあちゃん…また死なせちゃった気がして…」と呟いた。

レオンが「違う。お前は町を守ったんだ」と静かに言うと、リリィは紫の瞳を上げ、「ありがとう」と小さく答えた。

その夜、宿に戻った一行は町の指導者たちと話し合った。盗賊団の襲撃は周辺でも続いており、「また攻めてくる可能性がある」と衛兵隊長が警告した。

レオンが「なら、本拠地を叩いて壊滅させるしかない。リリィが情報を取ってくれた」と提案し、ガルドが「まとめて片付けてやる」と拳を鳴らす。

ミリアが「リリィちゃんのおかげね。でも、無理しないで」と言うと、リリィは「大丈夫」と呟いた。彼女の声には感情が薄かったが、仲間たちの支えが微かな温もりを与えていた。

翌朝、一行は盗賊の本拠地へ向かう準備を始めた。

衛兵隊長が「援軍を出す」と申し出、レオンが「協力感謝する」と握手を交わした。

盗賊団の残党は約30人。

砦は防御に適した地形で、油断はできない。ガルドが「正面からぶち破るぜ」と意気込み、ミリアが「私が援護する。リリィは…?」と尋ねると、「斬る」とだけ答えた。

山道を進む一行と衛兵たち。

廃墟の砦が見えると、盗賊たちが迎撃の準備をしていた。

弓矢が飛び、罵声が響く中、戦闘が始まった。レオンが剣で先陣を切り、ガルドが長剣で敵を叩き潰す。

ミリアの魔法が門を焼き払い、衛兵たちが突入する。

そしてリリィは、スコップを手に持つと、仲間と共に敵陣へ突き進んだ。

彼女の戦い方は冷徹だった。

スコップの刃で首を刎ね、ナイフで腹を裂く。

血が飛び散り、悲鳴が響いても、動きを止めない。

だが、その瞳には涙の跡が残っていた。盗賊の一人が「やめろ!」と叫んだが、リリィは無言で胸を貫いた。レオンが「リリィ、俺たちがいるぞ!」と叫び、ガルドが「アイツらを片付けてやろうぜ!」と援護する。

ミリアは魔法で彼女を支え、「リリィ、無理しないで」と声をかけ続けた。

戦闘は短時間で終わり、盗賊団は壊滅した。砦は血と死体で埋まり、生き残りは一人もいなかった。レオンが「これでサレントは安全だ」と息を整え、ガルドが「楽勝だったな」と笑う。ミリアは「リリィのおかげね」と呟き、リリィはスコップを肩に担ぎ、「終わり」とだけ言った。


その夜、サレントに戻った一行は町民から感謝された。

盗賊団の脅威が消え、町は平穏を取り戻した。衛兵隊長が「あなたたちのおかげだ」と頭を下げ、町民たちは勇者たちを称賛した。リリィは静かにスコップを握り、仲間たちと宿に戻った。


宿で休息を取る中、レオンが「リリィ、あの盗賊に泣いてたのは…過去のせいか?」と尋ねた。

彼女は無表情で答える。

「わからない。でも、必要だった。本拠地がわかれば、もう誰も死なない。おじいちゃんとおばあちゃんみたいに。正しいことをした」

ミリアが「正しいかどうかは…リリィちゃんの心が決めるよ。私たちはそばにいるから」

と優しく言い、ガルドが「アイツらを潰して、少しは気が晴れたか?」

と肩を叩く。

リリィは首を振る。「わからない。でも…終わった。おじいちゃんとおばあちゃん、喜んでるかな?」

レオンが小さく微笑み、「きっと喜んでるさ。お前が強く生きてるって知ったらな」と言う。ミリアが「優しく生きるのも、少しずつ覚えていけばいいよ。一緒にね」と手を握り、ガルドが「魔王を倒せば、優しくする時間も増えるだろ」と笑った。

リリィは紫の瞳で仲間たちを見つめ、「ありがとう」と呟いた。その声には微かな温かみが混じり、初めての感情が小さな波紋を広げていた。

リリィは盗賊が元帝国兵士であり、魔王との戦いで国に見捨てられたことを知っていた。彼女の怒りは盗賊だけでなく、魔王や国にも向かっていたのかもしれない。

だが、感情が薄い彼女にとって、それはまだ漠然とした感覚でしかなかった。

それでも、仲間たちの支えが、彼女の心に新たな目的を芽生えさせていた。魔王を倒す旅が、彼女の悲しみと怒りを昇華する道になるかもしれない。

サレントを後にする一行の旅は続き、港町の夜空に血の匂いが薄く漂っていた。


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― 新着の感想 ―
26行目に「ガルドが戦斧を手に」とあるのですが39行目では装備を持ち替えた描写もなく「ガルドは長剣で盗賊を薙ぎ払い、」となっていました。 毎回細かい指摘をしてすいません。
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