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第十一話


魔王を倒す旅の途中で立ち寄った町の宿屋で、一行は休息をとっていた。その夜、ミリアはリリィを連れて宿の裏手にある小さな浴場へと向かった。木造の浴場は簡素だが清潔で、湯船からは湯気が立ち上り、仄かな木の香りが漂っていた。ミリアが

「リリィちゃん、一緒にお風呂入ろうね。旅の疲れを癒さないと」

と優しく微笑むと、リリィは無言で頷き、紫の瞳を静かに湯船に向けた。二人は服を脱ぎ、白いワンピースと青いベストを脱いだリリィと、ミリアのローブが浴場の隅に置かれた。リリィの白い肌と銀髪が湯気の中で幻想的に映え、ミリアの柔らかな笑顔がその光景を和ませていた。

湯船に浸かると、ミリアが「気持ちいいね」と呟き、リリィも「うん」と小さく答えた。熱い湯が二人の体を包み、旅の疲れを溶かしていく。

ミリアはリリィの隣に座り、彼女の銀髪を指で梳きながら、ふとある考えが頭をよぎった。リリィの異様な身体能力と感情の薄さ。宿で一人考えを巡らせた時から、彼女の謎が気になっていた。ヒーラーとして、魔法で人の体を調べる術を知るミリアは、リリィの許可を得て少し探ってみることにした。

「リリィちゃん、ちょっと魔法で体を見てみてもいい? 疲れが残ってないか心配だから」

と優しく尋ねると、リリィが「うん、いい」と無感情に答えた。

ミリアは目を閉じ、掌に淡い光を灯した。癒しの魔法を応用した探査術だ。彼女の手がリリィの肩に触れ、光がリリィの体に広がった。ミリアは集中し、リリィの体内を魔法で走査した。筋肉、骨、血流——全てが異常なほど完璧だった。普通の少女ならありえない強靭さと回復力。だが、それだけではない。ミリアの魔法がリリィの深部に触れた瞬間、彼女の眉がピクリと動いた。体内に流れる魔力の脈動が、通常の人間とは異なる波長を示していた。「魔法の才能…?」ミリアは驚きを隠せず、さらに探った。すると、リリィの血に微かな異質な要素が混じっていることに気づいた。それは純粋な人間のものではなく、何か人工的で、非自然な気配を持っていた。

ミリアの手が止まり、光が消えた。彼女は目を丸くしてリリィを見た。

「リリィちゃん…あなた、魔法を使える才能があるよ。それに…あなたの血、純粋な人間じゃない。少しだけ、何か別のものが混じってる…。」

リリィは湯船の中でじっとミリアを見つめ

「別のもの?」と首を傾げた。ミリアの頭に、レオンが酒場で考えたのと同じ言葉が浮かんだ。

「ホムンクルス」。魔法と錬金術で作られる人工生命体。白い肌、白銀の髪、異なる瞳の色——リリィの特徴と一致する。だが、ホムンクルスの寿命は短いはず。それを超えるリリィの存在に、ミリアは一つの可能性に行き着いた。「あなた、もしかして…ホムンクルスと人間のハーフなのかもしれない…。」


その言葉に、ミリアは驚愕した。湯船の水面が小さく揺れ、彼女の手が震えた。

「そんな…ありえない…。」

錬金術の禁忌とされる実験が成功した例は聞いたことがない。だが、リリィの異常な力と感情の薄さ、魔法の才能、そして血の異質さ。それらが全て繋がる。ミリアは息を呑み、リリィに目を向けた。

「リリィちゃん、あなた…老夫婦に拾われる前のこと、覚えてる?」

彼女の声には動揺が混じっていた。リリィは湯船の中で膝を抱え、静かに考え込んだ。紫の瞳が水面を見つめ、長い沈黙の後、彼女は呟いた。

「よく…覚えてない。」

ミリアはリリィの言葉を待ち、湯気の向こうで彼女の小さな声が続いた。

「おじいちゃんとおばあちゃんに会った時、私、小さかった。森にいた。寒くて…お腹すいてた。おじいちゃんが私を見つけて、家に連れてってくれた。おばあちゃんが温かいスープくれた。それが…最初。」

リリィの声には感情がほとんどなく、ただ事実を並べるだけだった。ミリアは目を細め、「それ以前は?」と尋ねた。リリィは首を振った。

「わからない。森にいる前…何も覚えてない。暗くて、冷たいだけ。」

その言葉に、ミリアの胸が締め付けられた。リリィの記憶が途切れている。それはトラウマか、それとも…彼女が「作られた」存在だからか?

ミリアは湯船の中でリリィの手を握った。「リリィちゃん…あなた、もしかしたら誰かに作られた子なのかもしれない。それで森に捨てられて、老夫婦に拾われたのかも…。」リリィはミリアの手の温もりを感じ、静かに答えた。「作られた…?」ミリアが頷き

「うん。ホムンクルスって、魔法と錬金術で作られる命なの。あなたにはそれに似た何かがある。でも、人間の血も混じってるみたい…。」

リリィは湯船の水面を見下ろし、

「それが…私?」

と呟いた。彼女の声に困惑はなく、ただ静かな疑問だけがあった。

ミリアはリリィの肩を抱き、優しく言った。

「何であれ、あなたはリリィちゃんよ。私たちの大事な仲間。おじいちゃんとおばあちゃんに愛されて育った子。」

リリィはミリアの腕の中で小さく頷き、「うん…ありがとう」と呟いた。だが、ミリアの内心は驚愕と混乱で渦巻いていた。ホムンクルスと人間のハーフ。もしそれが本当なら、リリィは禁忌の実験の産物だ。誰が彼女を生み出したのか? 帝国か、それとも別の誰かか? 老夫婦はその秘密を知っていたのか? 疑問が次々と湧き、ミリアの心を乱した。

湯船から上がると、ミリアはリリィの髪をタオルで拭きながら、彼女を見つめた。「リリィちゃん、このことは…レオンたちにはまだ言わないでおこうね。私がもう少し調べてみるから。」リリィが「うん」と頷くと、ミリアは微笑んだ。だが、内心では決意が固まっていた。リリィの過去を探り、彼女が何者かを確かめたい。ヒーラーとして、仲間として、リリィを守るために。浴場の湯気が薄れ、二人は部屋に戻った。リリィの秘密はまだ解けないが、ミリアの心に新たな使命が刻まれた瞬間だった。


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