邪魔な横槍を潰せ
ギルド戦当日。学園内で違法賭博やっている連中を捕まえるわけだが、これが結構難しい。やつらは毎日仲良く会ったりしない。当日に集会を潰すしかないだろう。逆に言えば当日は会うしかない。予想外の巨大な取引だ。なあなあで済ますのは無理だろう。そこを狙う。
「フウマの情報によると、怪しい場所は近くの酒場。だが会場で何かするかもしれない。よって酒場での現行犯逮捕組にリリアとシルフィ。会場警護組に俺とイロハを入れる。本職の皆さんの邪魔にならないように、犯人を確保していこう」
「はーい。こっちは任せてね!」
「うむ、妥当じゃな。こっちは衛兵も多い。心配せんでよいぞ」
「むしろこちらの難易度が高いわ。ギルド戦を止めないように、静かに迅速に捕まえていかなければいけないもの」
こっちにも正規の隠密部隊が編成されている。あくまで邪魔しないようにギルド戦を守ろう。早速観客席に混ざって異変を調べていく。
「試合はまだ始まったばかり。いきなり手を出すとは思えないが……」
試合はちょうど前衛部隊が戦闘に入ったところだ。こういう試合ってほぼ見たことないし、できれば仕事抜きで見たかったな。
「既に差し入れに痺れ薬が入っていたわ。油断してはダメよ」
「見境ないなおい」
「そうね、相手は下っ端を使って邪魔さえできればいいのよ。だから……捕まえたわ。こういう敵がいるの」
足元に影に縛られた男が転がっている。手には炸裂弾や銃。間違いなく厄介なやつだ。最速で兵士に引き渡す。
「もう邪魔が入るのか。予想以上に焦っているのかもな」
「そうね、じゃあここでアジュの勘を磨きましょう。もう一人いるわね?」
なんか俺の修行みたいになってきた。周囲を軽く見渡し、それぞれの魔力をぼんやりと図る。右手にやけに集中しているやつがいる。客席の一番前で、闘技場の戦士を狙っているようだ。
「あれか」
「魔力探知がうまくなったわね」
「なんか……客席の結界が弱い?」
普通は客席に魔法が飛んだりしないように、ちゃんと結界が張られているはずだ。見えなくとも存在し、強固に設置されるのだが、なんか足りない気がした。
「狙撃するつもりかしら。だとしたら狙うのはギルマスかエースね」
「だろうな。最初にやったらバレるから、後半の乱戦でやる方がいいだろ」
とりあえず怪しいやつが魔法を発動しようとしているので、気絶させて運ぶ。
「ザコを潰しても意味は薄い。狙撃手を探すぞ」
「……フィールドが妙ね。外から干渉を受けているわ」
イロハのセンスを信じて外へ出る。会場のすぐ近くに小屋があった。
「こんなのあったか?」
中を除いてみると、黒フードの集団が魔法陣に群がっていた。不気味な魔力がうずまき始めている。
「はーっ、エリスタークよ、死ね!」
「呪いはおやめくださーい」
窓ガラスをぶち割って、後頭部に蹴りを叩き込む。驚いている連中に電撃を放ち、ほとんどを無力化した。あとはイロハが縛り上げて終わり。
「くっ、どうしてここがわかった!」
「こんな小屋は五日前までなかったわよ」
「建てたのさ、大の大人ががんばってなあ!」
「ライトニングフラッシュ!」
「ああああ壊すなあああああ!?」
小屋は跡形もなく吹き飛ばした。だがまだ邪気が流れている。なんだこれ。
「ここが壊されても……まだ第六小屋が残っている……」
「第六!? あと最低五個あんのこれ!?」
「ククク……オレ達は止められんぞ……精々足掻けうがあああ!?」
腹が立ったのでクナイで耳を突き刺してやった。犯罪者のカスが調子乗りやがって。皆殺しにして遊びたい。
「詳しく話せ。こいつみたいになりたいか?」
横にいた黒ローブの男の鼻を斬り飛ばす。叫ばれてもうるさいので、しっかり気絶しているやつでやった。
「話す、何でも話すから……」
金で雇われて呪いをかけていたらしい。小屋は闘技場周辺に八個ある。狙撃手のことは知らないが、一流を雇ったとのこと。クソめんどいわボケ。
「情報はすぐ周知されるわ。近場から潰しましょう」
「しょうがねえなもう……」
そして次は三階建ての塔が待ち受けていた。扉の前に門番らしき男もいる。
「フハハハハ! よく来たな。だが最上階までたどり着けなければ……」
「ライトニングフラッシュ!!」
めんどくせえ。魔法で最上階をふっ飛ばす。
「あああああ!? てめえ登れや!」
「雷光一閃!」
「があああああああ!?」
門番もぶっ倒した。よし、これで一個攻略。さくさくいこう。
「今回かなり雑ね」
「ぶっちゃけめんどい。まだまだあるんだぞ」
「私も正直飽きるわ」
次は闘技場近くの浮いている一軒家だ。地面ごと浮いている。
「浮かべる理由は何だよ」
「はっはっはっはっは! これで入ってこれまい!」
「ライトニングフラッシュ!」
だが家ごとすいーっと移動され、しかも結界でダメージを軽減された。
「ふはははは! どうだこの機動力は! ばーかばーか!」
「殴れ」
影の拳が浮遊住宅を丸ごと殴り飛ばした。瓦礫が飛び散り、ザコも飛び散っていく。少しだけ気が晴れた。
「ザコに追い撃ちのサンダースマッシャー!」
「ぎゃああああああ!?」
「地味にイラッと来たわボケ」
完全崩壊した浮遊拠点をあとに、次に向かうのは闘技場の内部だ。地下室へ向かうと呪いのお札がびっしり貼られている。
「はいはい焼けばいいんだろ!」
電撃で全部焼くと、封じ込められていた邪気が化け物になっていく。
「無駄よ」
イロハが光速で処理してくれるから気にしない。あとはどうやって狙撃手を見つけるかにかかっている。試合を見に戻ってみたら、雪山フィールドでエリスタークと、敵大将ミルドリースが戦っている。
「ははっ、相変わらずちまちました動きね! 観客が盛り上がらないじゃない!」
「これはスマートでクールな戦闘というんだよ。派手なだけが戦闘じゃないぜ」
ド派手な爆発が起こり、雪崩がフィールドを染めていく。だがエリスタークは氷の壁を出して雪崩の流れを変えて的確に処理していった。
「そこだ!」
エリスタークの魔弾は炎。そして回転しつつえぐりこむように進む。高威力の貫通弾がミルドリースまで届き、腕を負傷させる。
「精度が上がったね!」
「ふっふっふ、これが特訓の成果だ!」
観客席で目にすると見ごたえのあるバトルだ。それはそれとして。
「あのアホな特訓、結果出ちゃったな」
「マリアの苦労は続きそうね」
少し同情しながら捜査続行。魔力反応が見つからない。狙撃の仕方が違うのか?
「まずいな、急がないと」
フィールドはマグマと雪が混ざり、荒れた大地が増えていく。どんどん遮蔽物が消えていって、さらに選手をスポットライトが追う。サドンデスモードか。
「……ん?」
ライトの当たった部分の雪が溶けている気がした。
「ライトだ。ライトのシステムと威力を調べるんだ。地面が焦げるくらい熱いやつを探せ」
すぐにイロハの影がライトを追う。全てに包囲網が敷かれると、いくつかのライトの威力がおかしいことに気づく。
「これじゃ致命傷にはならないわ」
「最後に不意打ちができればいいんだろう。殺す必要はない」
ライトはそれぞれの位置からスタッフが操作している。スタッフは全員同じ服と帽子だ。一人で複数操作しているやつもいる。束ねれば結構な熱さだろう。
「いけない、そろそろ決着よ」
エリスタークとミルドリースが中央で撃ち合いを始める。お互いに足を止めて最大魔法を放つ気だろう。つまりこちらの時間がない。しょうがない、敵が優秀であることを祈ろう。修理費は学園持ちで頼む。
「クナイが足りない。影で五本作ってくれ」
質問することなく瞬時に作ってくれる。おかげで間に合いそうだ。
「はあああああ!!」
「でりゃあああああ!!」
魔力の波がぶつかり合って中心で止まる。力が拮抗しているのだろう。つまり動けない。実行に移すなら今だ。
「ライトニングジェット!!」
スタッフに当たらないように、それぞれ担当者がついているライトを破壊した。あとはそのうちの一人に移動する。
「終わりだ!」
剣を振ると、袖に隠していた杖で受け止められた。放たれるはずの魔力は、俺の攻撃を防ぐ魔法の剣として使用される。
「ぐっ……なぜわかった」
「プロなら作戦は二重三重にするもんだ。ライトが破壊され、瞬時に次の行動に移ったのはあんただけさ」
「そんな方法で……ぐはっ」
敵が優秀であろうと、イロハの速度に追いつくことはない。イロハがこちらに気づいた瞬間には、敵は気絶した。
「はあ……とりあえずミッション達成かね?」
試合はエリスタークの勝利で終わった。横槍が入ることなく決着が付き、闘技場が歓声に包まれる。
「お疲れ様、かっこよかったわよ」
「そうかい」
あとは違法賭博の胴元がどうなるかだけだな。




