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異世界美少女達よ、ぼっちだった俺を攻略できるもんならやってみろ~最強無敵の力はハーレムラブコメに使うらしい~  作者: 白銀天城
三学期末試験最終章

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タキオン・メルトダウン

 最終試験の最中、ヴァンとカムイをどうにかするため、雷光の核を飲み込んだ。胸まで到達したのを確認した瞬間、圧倒的な魔力の本流に人体をかき回される。


「ウオオオオアアァァァ!!」


 白い雷光が目からも口からも溢れ出ていく。最早そういうビームのようだ。


「おいおいあれ大丈夫なのかよ」


「わかりませんが、とてつもない魔力量です」


 全身から制御しきれなかった力が溢れ出し、そいつを体内に押し戻しながら循環させる。雷化は全身を染め上げて変換しているが、虚無の性質は爆縮を続け無にすることだ。つまり本来制御して体に馴染むもんじゃない。


「ウウゥゥ……ガアアアアァァ!!」


 周囲の雪を溶かし、木々を薙ぎ払い、雲を散らして、放出され続ける魔力が施設を荒らす。それでも耐えて虚無をなじませる作業は続く。限界まで高まったいっそ暴力的なまでの魔力をねじ伏せる。


「こいつはやべえな……少し離れるぞカムイ。アジュ! 戦う前から死ぬんじゃねえぞ!!」


「アジュさん! どうか負けないで!」


 返事をする余裕などない。ライジングギアとは勝手が違う。雷になる要領で虚無になるわけじゃない。俺自身を虚無で強化しているのだ。こいつは俺がそう決めたことだ。雷の先を見る必要があると思ったから。


「フウウゥゥ……」


 落ち着いて俺自身と世界をできると信じ込ませる。できないならできるようになれと命令する。願ってはいけない。当然できると信じ込め。俺の中にわずかでも主人公補正があるのなら、傲慢さで世界の理をねじ伏せろ。まずは己の魂からだ。


「オオオォォォ……ラアアアァァ!!」


 やがて胸に紫色の核が固着した。全身を満たす魔力が軽い。嘘のようにクリアな思考がついたり消えたりしている。今までの燃料切れを補うための手段であったが、ちと燃料が膨大すぎたな。


「やれば……できるもんだな」


 シルフィが言っていた。弱いままじゃ俺の横に立てないと。それは俺も同じだ。鎧は最強だ。誰にも負けることはない。だが今回のような試験で隠したままの場合、俺はいつまで生き延びられるかわからない。それじゃつまらない。あいつらと永遠に異世界で遊ぶために、ただ四人で生きるために、俺はもっと自由になる。


「虚無を核とし、爆縮の先、臨界点をさらに超え、超光速によるエネルギーすべてを体内で尽きるまで稼働させ続ける。そうすれば核が消えるまでだけは、俺は無限の燃料で動き続ける」


 ゆっくりと言葉を紡ぐ。未完成の時のような負担はない。手を握って開く。問題なし。これが今の俺の完成形だ。


「これがリベリオントリガー…………タキオン・メルトダウン」


 風に髪がなびく。腰より長く伸びてしまった髪は、紫色に染まって綺麗だった。


「姿は変わったみたいですが……魔力が感知しにくい?」


「おもしれえ、試してみようぜ。かかってきな!」


 ヴァンの声がよく聞こえる。二人の顔も、舞い落ちる雪も、いつもより鮮明に見えた。五感全てが研ぎ澄まされているのだろう。自分がどう動くべきか、動いた結果どうなるのかが無意識に近い形で予見できる。


「いくぞ」


 一歩踏み出し、ヴァンの背後に降り立つ。


「なにっ!?」


 気づいてこちらに攻撃を入れようとするが遅い。既に移動と攻撃は済ませてある。


「ごっ!? がふっ!?」


 強靭な体でもダメージは入るみたいだな。攻撃力も相当上がっている。


「なんだ……? 攻撃が見えなかった!」


 攻撃の瞬間は存在しない。虚無と勇者システムにより過程は消えた。


「ウラア!!」


 黄金剣による正確無比で強力な斬撃が来る。その剣が見える。剣だけじゃない。ヴァンの魔力も、全身動きも、大気の流れすらも感じる。その中から危険だと感じたものを選び、最小限の動きだけで避ける。


「ここか」


 一番拳の通りそうな場所を選び、今度は普通に殴りにいく。それでも俺の中では最も速い右ストレートが出せた。


「ちいぃ! やりやがるぜ!」


 黄金剣でガードしたか。だがその剣がわずかに溶けている。すぐ修復するだろうが、それでも多少は通用することがわかった。


「どうなってやがんだそれ」


「積み重ねだよ。今までの集大成さ」


 リベリオントリガーは全身強化魔法。

 ライジングギアはそこからさらに雷化して魔力で満たされた状態。

 さらにマックスアナーキーは勇者システムによる改変と選択。

 タキオンメルトダウンは全部を混ぜて昇華した。


「僕でも見えない。光速に到達したんですね」


「いいや、それはできない。俺は超人じゃない」


 光速を普通に超えるのはまだ無理だ。これは手順の省略でしかない。

 ヴァンまで移動する。攻撃する。その手順を虚無により完全に溶かす。これにより擬似的にだが光速勢と渡り合うのだ。


「俺はめんどくさがりのインドア派だ。できない努力も、無駄な消費も抑えて、できることで裏道をいくのさ。競争で追いつけないなら、最初からゴールにいればいい」


 しれことの戦いで概念と全能について学ぶことができたのも大きい。思えば俺の魔法や戦法は必要に応じて生み出している。戦闘経験やギルメンとの生活がヒントを産み続けているのだろう。


「そうかい。ならオレはそれより速くゴールに着くだけだぜ!!」


 さらにヴァンの魔力が上がる。純粋な量だけでも超人レベルだな。


「いくぜウラアアァァ!!」


 より研ぎ澄まされた大振りが来る。半身だけ捻ってかわし、横から剣に触れてみる。ヴァンの魔力で強化されているからか、あまり溶けなくなっていた。


「なるほどな」


「いつまで実験している余裕があるかな!」


「その攻撃は避け終わった。時間は消して作るさ」


 追撃は行動前に避けた。ヴァンの後ろから蹴りを放つ。まだ通常攻撃と終了攻撃の切り替えが甘いな。もっと深く虚無に浸ろう。


「見えてるぜ!!」


 ヴァンの体が大爆発し、爆炎と土煙が舞う。なるほど、こうまで場が荒れると読みが複雑になるのか。だが膨大な魔力は探知も楽だ。少し距離を取って観察しよう。


「爆炎滅多斬り!!」


 炎を纏った一撃必殺技の乱舞が来る。もっとできることを試したい。楽しくなってきたぜ。


「タキオンウイング」


 背中から巨大な翼が現れる。翼は自由に形を変え、無限軌道によってヴァンを襲う。その過程すらも虚無は爆縮してエネルギーに変え、事象を消滅させる。

 これなら自分に当たる部分だけ敵の攻撃を消しつつ追撃可能だ。


「うがああぁぁ!!」


 見える攻撃と終了した攻撃がランダムに飛ぶのは、そういう知識がないと回避ができない。ヴァンの知識と経験に依存するが、一応効くようだ。


「この程度でお前が倒れると思っちゃいないぞ」


「あたりめえだ。こっからオレも本気でいくぞおおおぉぉ!!」


 周囲が完全にヴァンの魔力で塗り潰された。ヴァンの空間の中で、俺だけが虚無により影響を受けていない。


「全開炎殺弾!!」


 巨大な炎の弾が無数に飛んでくる。いいだろう、飛び道具対決だ。

 手から虚無を滲み出させ、数滴ほど前方に飛ばす。


「タキオンブラッド」


 光速手前ほどの速度で突っ込むそれは、火炎弾に触れると完全に飲み込んで消していく。それでも速度は衰えず、ヴァンへと直行した。


「ちっ、厄介だな。ならこいつはどうだ!!」


 ヴァンが消える。直感で腕を前に出す。右腕に強い衝撃が起き、体が後方へ流れる。とてつもない威力だ。この速度と威力は。


「光速突破したか」


「見えてんのか?」


「原理は秘密だ」


 強化による思考と五感の発達に加え、勘のよさを極限まで高めることで攻撃位置の予測と対応を可能にしている。結局見えないのは同じだが、来る方向さえわかればいい。防ぐくらいはできるさ。


「防いだってことは、こいつはくらっちゃまずいんだろ?」


 ヴァンの右拳には、全魔力が結集していた。防御を捨てた完全なる一点突破だ。あれなら今の俺の体に触れても消滅しないだろう。


「攻めて攻めて攻めまくる! 勝つまでなあ!!」


「タキオンファング」


 右手から虚無をじわりと出して、鋭利な牙へと固める。これが剣の代わりだ。


「ここからは力比べだ」


「オレの得意分野だぜ?」


「だから試すのさ」


 全霊の力を持って右腕を振る。衝撃でヴァンの背後の景色がすっきりした。なるほどな。周囲を軽く消すくらいは可能か。


「次はぶつけてみようじゃねえか!!」


 ヴァンの黄金剣は破壊しても即座に再生する。確か神の作った特別な剣だったな。相変わらず俺の弱点盛り合わせみたいなやつだ。だがおかげで気にせず打ち合える。


「ツアアアアリャアアァァ!!」


「ちゃあありゃあああああぁぁ!!」


 一秒に数千の乱打が続いていくが、攻撃をくらうごとに僅かだが集中が乱れる。落ち着け。五感を極限のままで乱すな。勘が鈍れば対応は遅れるぞ。未来予知に近いほどに相手の動きを読め。読んだら攻撃を置いておけ。思考を止めるな。相手の十でも百でも先を読んで斬りかかるんだ。


「そこだ」


 俺の袈裟斬りがヴァンに受け止められる。だがそれは実は三発目だ。一発目と二発目は既に過程を省略して選択してある。ガードできたのは三発目だけ。


「うぐっ!?」


 正面に斬撃を二発終わらせて未来に置いてから、ゆっくりと死角を移動して背後へ回る。背中に向けて横薙ぎに一発。これは当たってもかわされてもいい。本命は見えないローキックによる足へのダメージ。それがヒットしたのを見る前にジャンプして頭上を取る。


「ちょろちょろしやがって!」


「まだここからさ」


 上空から振り下ろすタキオンファングは虚無で置いておく。ヴァンの正面に着地して無数の見える左ジャブを放つ。そいつを防いで注意が逸れれば、置いておいた斬撃の結果としてヴァンの体に傷がつく。


「がっ……やるじゃねえか!!」


 血が拭き出そうともヴァンは死なない。やはり頑丈である。とてつもなくタフだ。だからこそ実験台にできるので、とてもありがたい。


「攻撃が当たらなくなってきやがった!」


「お前の挙動と攻撃の癖さえ読めればいい。その強化魔法、威力は増しても俺ほどの無茶はできないと見た」


「お前さんと同じことできるやつは少ねえぜ」


 ダメージにより鈍った一撃が来る。完全に見切り、黄金剣の刃に乗った。


「んなっ!?」


 胸から手のひらへと核のエネルギーを供給させ、一気に解き放つ。


「タキオンバースト」


「うおおおおああああぁぁぁ!!」


 白と紫の混ざった火柱が上がり、ヴァンを中心とした巨大なクレーターができる。


「あと半分というところか。燃料も計算する必要があるな」


「まだまだああぁぁ!!」


 クレーターの中心から爆発的な魔力が渦巻く。本当にタフだな。


「オラオラオラオラオラ!!」


 炎の斬撃と爆発する魔力弾が乱舞する。だがすべて見えている。これなら対処可能だ。手に虚無を集中。核からの供給により溶かす力を増加。最小面積で魔法を受け止めて消す。


「らしくないな」


 こんな攻撃で俺に傷はつかない。体表に纏っている虚無すら貫けないだろう。ならさっきの一点集中攻撃のほうが可能性は上がる。それがわからないほどヴァンはアホじゃない。なら必ず意図がある。


「消耗戦か」


 おそらく俺にスタミナがないこと、核という燃料があることから燃料切れを狙っているのだろう。ならばこちらは早期決戦を開始する。

 タキオンファングの出力をさらに上げ、ヴァンのいる位置を把握して振る。これは一定の距離であれば障害物も空間も飛び越え、ターゲットを確実に切り裂き終える必殺技だ。


「虚空一閃」


 現在の時空間から消え、敵に到達する。いわば瞬間移動する紫の斬撃で空間が歪み、大量の火花が散れば、相手に触れた虚無が斬り裂き爆裂を開始する。


「うおおおおおぉぉぉ!!」


 ヒット。だが手応えは薄い。警戒すると同時に赤く巨大な弾丸が迫る。中には真っ赤に染まったヴァンがいた。俺に必殺技を撃たせて特攻をかけてきたか。

 避けようとするがカーブしてこちらへ迫る。これはくらうときつい。俺自身を可能な限り虚無へと浸し、移動先へと瞬時に移動を開始。なんとか逃げた。


「見つけたぜ! 波動激烈斬!!」


「なんだと!?」


 なぜか移動先に血塗れのヴァンが来た。あの突進してきた赤いヴァンはフェイクか。ガードが間に合わない。前方に虚無の壁を構築。まさに津波のように押し寄せる炎と爆発を耐え続ける。


「ぐぐぐぐ……タキオン……」


 タキオンバーストで潰せると思ったのも束の間。背後から赤いヴァンが迫る。


「しまっ……」


 やるしかない。残りのエネルギーを両手に収束。限界まで圧縮してから前後に解き放つ。残りエネルギーが不安だが、攻撃くらって死ぬよりマシだ。


「タキオンメルトアウト……フルバースト!!」


 もう敵がどうなっているのか、今この空間がどんな形なのかもわからないほどの力がぶつかりあっては混ざって消えていく。

 ヴァンはもう喋る気力すらない。精神力だけで動いている。畳み掛けるなら今しかない!


「だああありゃあああぁぁぁ!!」


 この先がどうなろうが知ったことか。俺がここまでやって負けて終わるのも気に入らない。全部出しきれ。限界を越えろ。負ける可能性もエネルギー切れの未来も消しちまえばいい。


「これで……終わりだああああぁぁぁ!!」


 視界が紫一色に染まる。激しく燃え盛るお互いの技が消え、ヴァンがゆっくりと倒れるのを見た。そして俺も地面へと倒れ伏す。


「アジュさん! ヴァンさん!」


 もう起き上がる力もない。呼吸すらおぼつかない。全身が痛いのか消えているのかすらわからん。感覚があるのかないのかはっきりしない。


「二人ともしっかり!!」


「カム……イ……」


 なんとか声を絞り出す。このままだとここで何時間眠るかわからない。意識が途切れる前に伝えなければ。


「アジュさん! 喋れますか!!」


「右ポケット……鍵がある……」


「鍵? そうか! これですか?」


 すぐ見つけてくれた。最後の力を振り絞って掴み、腕輪に挿す。


『ヒーロー!』


 鎧が発動し、無限の魔力と永遠に続くスタミナがやってくる。


「はー……すまん助かった」


 起き上がるともう雪国だとは思えない、凹凸しかない更地になっていた。


「やりすぎたかね」


「アジュさん、回復したんですか?」


「鎧を着ている間はな。さてヴァンだが、生きているかー?」


 反応がない。おや? 死んでいないだろうな。血だらけでもう意味わかんない状態でぴくりとも動かないぞ。


「これ死んで……」


「いやいやいや、まだ脈も呼吸も………………あっ、ありました!」


『リバイブ』


 流石に死ぬ危険があるので回復してやる。ついでに俺も癒やす。死ぬし。


「これで目が覚めりゃ復活するだろ」


「いつもながら反則ですねその力」


「これがなきゃ死ぬからな。俺の生命線だぞ」


 とりあえず何も考える気にならん。仰向けに寝転ぶと、雲ひとつない空が広がっていた。もう寝そう。いいや寝ちまおうかな。

 ぼーっとそんなことを考えながら、運営のアナウンスを待つのであった。

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