アジュ・三日月VS輪廻生物
三日月さんと一緒に変な女を倒そう。殺気どころか生物の気配がないから、逃げられると俺か三日月さんくらいしか追いかけられない。ここで確実に始末するぞ。
「悲しいことですね。食事の邪魔をされて、一緒に生まれることも拒否されて。ああ、なんてことでしょう」
『トーク』
少し気になったのでイノに声を飛ばしてみる。
「俺だ。6ブロックの兵はどうした?」
『今から正門に突撃をかけるところよ。合図にも反応しないから、これでだめなら壁をよじ登るしか……』
「来るな! 三日月さんが戦闘中だ! 誰一人正門に近づけるな。俺がいいと言うまで全軍後退して待機だ。死ぬぞ!」
ギリギリ突撃前だったらしい。全滅は避けられたか。あっぶねえなマジで。
『どういうこと? こちらの超人も加勢させる?』
「いらねえから戻れ! 邪魔にしかならん! 余計なことはせずじっとしていろ! いいな!!」
鎧の事情も敵の事情も話すわけにはいかないし、本当にめんどい。さっさと倒してしまおう。
「遠隔魔法? にしては術式が見えませんね。とりあえず潰しますか」
女の腕力に任せた横薙ぎを、拳を打ち付けて弾き返す。爆風と轟音が響き、周囲の建物を破壊していく。
『今の音は何!?』
「いいからどっかいけ!! 通信終わり!」
衝撃を味方軍に届かないように捌く必要がある……ああもう邪魔くっせえな。
正門は特殊な概念で覆われているみたいだから、そっちの壁を背にすれば、いやそれで壊れたら戦闘見られる……めんどいわボケ!!
「だから他人がいる環境は嫌いなんだよ!」
光速を百億倍くらい突破して動く。下級神レベルならこれでも普通に対応されそうだけど。
「私がそれくらいできないとでも?」
普通に領域に入ってきた。マジでめんどくせえこいつ!
「おっと、オレの相手はどうした?」
「おやおや、超人も捨てたものではありませんね。私と切り結びますか」
今も三日月さんと激しい切り合いを続けている女だが、武術の動きではないな。
「身体能力と魔力が異常に高いが、それだけだ。オレの剣をいつまでしのげるか」
「生身の人間とは違うのです。今の私は権能だけで言えば神である。こうしてあなたの剣で切られても」
女はわざとらしく踏み込み、首を半分ほど切断されている。だが血が出ない。
「死という概念は発動しない。人体の破壊と死を分けました」
すぐにくっついてしまう首。これはめんどい。こういうの多いんだけど、俺の敵はもうずっとこんなタイプなんだろうか。もっと楽に倒せるやつでお願いします。
「二人同時は無理だろ? 一気に潰す!」
「承知!」
左右から同時に女へと攻撃を当てる。受けた両腕は消し飛び、それでも何かによって防がれている感覚がある。
「無駄ですよ。生まれるまでもない」
咄嗟に距離を取って回避した。今間違いなく殴ってくるという気配と風圧が来た。
「腕があるという概念が優先されます。実体が消えようと、腕の概念はあるのですから攻撃はできます。これにより不死にすら届く」
「だが殺せる。オレは神仏であろうと関係ない」
「そう、ならば剣を壊しましょう」
女の槍が剣とぶつかり、剣はまるで腐り落ちるように崩れていく。
「さあどうします? 肝心の武器はもうありませんよ」
「問題ない。複数まとめ買いしてある」
同じ剣が出てきた。少しだけ俺と女の動きが止まる。
「いやいやいや、そんな雑に出てくるものですかね?」
「なんならそのへんに落ちているものでも構いません。オレの剣は市販のやつなので、代用が効きます」
「第一騎士団長ですよね? オーダーメイドの凄い剣じゃないんですか?」
「それはできない。職人と同僚に怒られるんだ。リクが怒る。もうめっちゃ怒るのです。面倒極まりない」
「……つまり?」
「力いっぱい振ると必ず壊れる。第一騎士団長の剣というオーダーだととても値が張る。よって怒られる。だから市販の剣を魔力で補強して使っている」
強すぎて剣が追いつかないのね。俺も鎧を着ていると理解できる。武器って案外壊れるんだよね。
「最終的に安物に魔力を乗せて使うのが最効率と判断した」
俺もソードキーがなかったらこうなっていたのだろうか。他人事とは思えんな。
『ソード』
「これ貸します」
擬似的に魔力で作った黄金剣をそこら中に突き刺す。好きに使ってくれていい。これで戦力アップだろう。さっさと決着つけようぜ。
「かたじけない。いざ!」
「近づかせなければいいだけのこと」
四方より同時に槍が飛んでくる。魔法陣の中から瞬間転移してくるようだが、今更遅れを取るほどではない。
「無駄だ! 散れい!」
三日月さんの剣が深々と突き刺さるが、女はそのまま素手で剣を掴んで固定した。
「一緒に散りましょう」
光の柱が立ち上り、女を包んで消していった。三日月さんはなんとかギリギリで離脱している。
「自爆? これで我らの勝利というわけでもなさそうだが」
「あいつらの命は無限だ!」
こちらに飛んでくる超威力のビームを殴り消し、飛んできた方向を見ると。
「その通り。僕のこと知ってるの? A2型を倒したのは君達?」
女じゃなくなっている。けれど間違いなくあいつだ。A2型を知っている。
「何の話か理解できぬが、仲間がいるなら諸共斬り捨てるのみだ」
「なら本気を出してあげる。人では到達できない領域というものがあるのさ」
さらに速度を上げて接近戦を挑んでくる。魔力の短剣二刀流のようだが、明らかに武術の動きだ。最小限の動きで斬撃を避け、的確にカウンターを仕込んでいく。
「うぐっ、ぬう……僕の攻撃について来れるんだね。君も超人なのかな?」
「俺はごく普通の一般人だ」
いい加減面倒だ。一瞬で数兆の拳を叩き込み、俺と三日月さんの真ん中へ送る。
「ちぇえりゃああぁぁ!!」
「うがあっ!? ぬがああぁぁ!!」
「援護いたします」
二人して男に蹴りを入れてぶっ飛ばす。空中に飛ばしてあとは魔力波で追い打ち開始だ。
「消えやがれ!!」
「渾身の斬撃、お見せしよう!!」
俺のビームと三日月さんの飛ぶ斬撃で粉微塵にしていく。
これで終わればいいのだが。
「あーあ、やってらんね。まさかアタシまで呼ばれるなんてさ」
また違う見た目だよ。髪の長い成人女性みたいだ。もう態度がうざい。
「ねえねえ、6ブロックが心配? ならばこういうのはいかが?」
魔力の塊が槍から迸り、上空に溜まっていく。間違いなく6ブロックの狙撃用だ。
「やめろボケ!!」
壁を超えて発射される光弾を、なんとか先回りして蹴り返す。
「お前もう最悪だぞ!!」
「早期決着しかありませんな。復帰しなくなるまで斬らせていただく!!」
超人ですら見きることは難しい斬撃の嵐が飛ぶ。
「甘い甘い甘い。あんたの攻撃は慣れてきたよ!」
余裕のある表情で撃ち落としながら懐へと入っていく女。こいつ戦闘に慣れてきている。マジかよ中身どうなっているんだお前。
「死んじゃえ! とみせかけてどーん!!」
さっきよりでかい光球が6ブロック軍と8ブロック軍方面に飛んでいく。
「やめろアホ!」
三日月さんが6ブロック方面へ行ってくれたので、俺が8ブロックへ行く。
光よりも早く動いて切り裂けばいい。処理完了したら、さっさと戻って……。
「アジュ! そっちどうなってる!」
ホノリとボスが駆けてきている。ああもうめんどいな。少し遠くに兵士も見える。これ接敵させたらやばいな。
「下がれ! 死ぬぞ!!」
「なんだ敵か? オレらもここ制圧し……」
追加の光速光弾が飛んでくる。めんどくせえ、光弾の七十兆倍くらいの速度で拳の圧を飛ばして処理完了。
「……たらそっちの援護に行ってやろうか? 今なんか光った?」
「気のせいだ!」
よし、誰も認識できていない。ホノリなら事情を理解してくれる。
「ホノリ、マジでヤバイ。合宿のあれが強化されて出た」
「全軍後退!!」
「おいおいどうしたってんだ?」
「いいから! 俺いいって言うまでこれ以上進入禁止! 結界張っとけ死ぬぞ!」
また飛んでくる魔法を撃ち落としながら帰還すると、三日月さんと男が絶賛切り合い中だった。止めてくれていたらしい。
「お待たせしました!」
男に蹴りを入れて参戦。数発殴ったところで距離を取られた。
「くうぅっ、痛いじゃないか!」
「一度殺しましたが、あれになりました」
「了解」
ここまで手間がかかるなら、こいつの生態観察はおしまいだ。痛みを除去できなくなっているようだな。
「情報でも引き出せないかと思ったが、これ以上は俺のストレスがやばい。死んでもらうぞ」
「死んでも何度だって生き返るんだよ?」
「それができないように調べる時間だったんだ」
長々と戦っていたのは、こいつの体内がどうなっているか可能な限り探るため。
「王都に二匹。別時空に一匹いるな? それで全部か?」
「なにっ?」
明らかに動揺している男。鎧と剣で探れないほど難解じゃなかったぜ。
「同タイプすぎるのが仇になったな。改良紐づけ斬りを試してやる」
製造過程と転生システムが同じなのだろう。剣に魔力を込め、鎧の力を乗せ、徐々にリミッターを外す。
「その前に殺してやるさ! 燃えつきろ!」
王都を巻き込むような苛烈な炎が巻き起こり、周囲の被害などお構い無しで俺へと迫る。
「それはできない相談だ。人外にも生きる権利はあろうが、貴様のような殺し壊すだけの存在を、騎士として認めはしない」
三日月さんの剣が巻き起こす風で、炎が一箇所に集められて天へと登る。
ついでだ、派手に必殺技キーも追加してやるよ。
『ホゥ! リィ! スラアアアッシュ!!』
「消えてなくなれえええぇぇぇ!!」
凝縮された浄化の光が、一筋の閃光となって女を両断する。
「消える……世界が、生まれ、ない……そんな……そんなことが……」
光の粒子が空へ舞い、消え去った。まるで何もなかったかのように静まり返る周囲を見ながら、鎧によって確実に全機撃破したことを感じ取る。
「完全除去完了だ」
「お見事にございます」
「お疲れ様です。これであとは城にいるはずの9ブロックの連中だけでしょう」
ここから軍を王都に入れて城に攻め込む必要がある。
まだまだ油断はできないが、それでも厄介な実験生物がいなくなったことはいい知らせだろう。もうひと頑張りで……終わるといいなあ。




