義勇軍に参加することになった
義勇軍と一緒に怪しい敵を倒そう。
「くらえ! ボス直伝、愛と正義の義勇軍スラッシュ!!」
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
このおっちゃん結構強いんだな。敵と剣を軽く一当てして、隙を作って切っていくのが見える。あれ力加減とか難しいやつだぞ。
「くっそなんだよこいつら!? 義勇軍なんて聞いてねえぞ!」
「俺達もお仕事しておこうか。軽くな」
「了解」
軽く魔力を弾丸にして飛ばす。雷は目立つから使わない。あとはカトラスと長巻を使い分けて応戦しよう。
「たいして強くないな……俺でも隙がわかるぞ」
こっちのフェイントや小細工に引っかかってくれる。つまり過酷な戦場にいた経験がないのだろう。もしくはこいつらが下っ端なのか。
「排除完了」
「よっしゃあ義勇軍大勝利!!」
鬨をあげる義勇軍を横目に、正規兵が捕まえた連中を連れて行く。そっちにも被害はないようだな。
「助力感謝する」
「いいってことよ! ボスに感謝しな!」
「ボス?」
「ああ、ボスは姫を守るために義勇軍を結成したんだ」
なんか交渉っぽいのが始まっているので、俺達はそーっと見ていよう。こいつらのスタンスが知れたらそれでいい。
「そうだったか。だがそれなら正規軍に入ればいい。国をよくしていけば、姫も守れるぞ?」
「残念だがそうじゃねえ、ボスは姫に認知されたいんだ。禁断のファンなのさ」
「意味がわからんが、正規軍になりたければいつでも来てくれ。今回のことはきっと城にも報告が行く」
「期待してるぜ!」
軍には入らない。基本的には善行。ボスに求心力あり。荒っぽい口調だが盗賊に堕ちたわけではない。というところか。
「待たせたな。お前らもいい働きだったぜ!」
「ああ、どうせなら義勇軍に入って欲しいくらいだ! どうだい!」
「そいつは悩むな」
いつの間にかボスがいる。自分の持ち場はどうしたのだろう。怪我もないようだし、強さを計るためにも、次があれば近くで見ておくべきかも。
「ボス! もういいんですかい?」
「ああ、全部回って確認してきた。お前らで最後だ。よくやった!!」
この街だけでも結構大きいわけだが、全部確認してここに来るか。超人じゃないにしても早いな。警戒しておこう。
「こちらは敵が少なかった故に問題はない。他に怪我人がいるなら救助したい」
「大丈夫だ。軽い怪我人には薬を渡した。死者はいねえ。賊軍以外にはな」
アフターケアまで考えているのか。いよいよ蛮族じゃなくなってきたぞ。
「よし、このままじわじわと城に近づきながら場所で勇名を馳せる。あとは姫が噂を聞きつけて謁見まで持ち込む! 兵士にもならず、名前を覚えてもらう!」
「なるほど、そうやって姫を口説くんですね! スタイルいいとは聞きますし、ボスのものにしちまうわけですか!」
「バッキャロウ!」
「べばあぁ!?」
おっさんが殴られた。このノリは俺に合わないので静観しよう。巻き込まれたくない。そっちで全部処理してね。
「姫は誰のものにもならねえよ! 男と一緒になっちゃいけねえ! 永遠にオレ達のアイドル! アイドルが男と付き合ってどうする!!」
「確かに」
「すいやせんボス……ファンとして認知されたいってのは建前じゃないんですね!」
「あたりめえだ! くだらねえこと考えてねえで、さっさと出立の準備しろい!」
そして去っていく義勇軍。俺は茶番見せられただけかい。
「すまねえな、あんたら強いみたいだし、しばらく同行してくれるとありがたい。頼めねえか? もちろん報酬は出す」
「結論の前に質問を要求」
「いいぜお嬢ちゃん。トークは信頼を得るには大切だ」
「あなたは今回の反乱を知っていた。その情報経路と、敵の詳しい説明を希望。全ブロックで起きている不和と関係はある?」
イズミの言う通りだ。明らかにおかしい状況が続いていて、情報の精査だけでも厳しいはず。なのにボスは事前に察知して動いた。完全に怪しい。
「誰からとかは言えねえ。商人とか街の人間とか、むしろ軍じゃねえ普通の連中から聞いてる。兵隊さんに適当なこと言うわけにはいかねえから、どうしたってお硬い確実な情報か、当たり障りのないもんになるんだよ」
「なるほど、雑談みたいな話は出なくなるのか。敵の正体は?」
「わかんねえ。不満を抱えた民衆ってことにしたいんだろうが、煽っているやつがいるはずだ。でなきゃおかしい」
ボスもそこが掴めていないっぽい。学園の試験だからある程度は生徒の自主性とかに任せているのかもしれないが、それでも完全にしっぽを掴めないなんてあり得るのだろうか。
「ではボス殿。次の目的地は?」
「そいつは仲間になってからだな。なあに下っ端にはしねえよ。オレの直轄副将軍でどうだ?」
「いきなり重要ポジションだな」
義勇軍と完全に合流するのは、敵地に入る可能性を考慮すると無謀だ。俺と三日月さんなら二人で殲滅もできるだろうが、こいつら貴重な情報源っぽいんだよなあ。これはかなり悩むぞ。
「オレらは数が多いわけじゃねえし、強いやつは有効活用しなきゃな。まずはお試しで一週間どうだ?」
「新聞の勧誘か。次のターゲットが明日終わりそうなら、今回は協力する。とかでダメかい?」
「うーん……難しい注文だな。だがそっちの剣士は間違いなく強ええ……あーもうしょうがねえな! 次の街に出発するからついてこい! 移動と解決含めて二、三日くらいはかかると思うが、もうしょうがねえと思え!」
長くとどまるつもりはないみたいだ。次の街はそれほど遠くもない。地図はある程度見ておいたから、体力的にも問題はないと計算できる。
「わかった。しばらく頼む、ボス」
「おっしついてこい! 北門で集合のはずだぜ!」
俺達三人は義勇軍と一緒に調べる方向に決まった。一応味方に連絡だけして、衝突は避けよう。方法は簡単だ。三日月さんが光速移動で連絡係に手紙渡せばいい。
「連絡終わりました」
「了解。さて義勇軍に知り合いがいないといいんだが」
幸いにも五十人くらいの軍であり、俺達以外にも加入者がいたのでさらっと入れた。集団行動とか軍属とかもう最悪なほど向いていない俺だが、そこは高待遇かつ三日月さんとイズミを絶対に同行させるという条件でカバーする。
「ボス! 次の街ではあたしらも戦います!」
「おう、今回活躍できなかったやつに挽回の機会をやる!」
これまた意外であったが、普通に女も混ざっている。こういうのって男だらけになると思ったんだが、姫ってのは女にも好かれているのだろうか。オタサーの姫って普通の女と真逆のイメージだが。
「次の街はちょいと辛気くせえ場所でな。9ブロックに近いからか、空き巣みてえな連中までいやがる。そいつらの掃討を任された正規軍に手を貸す。最高のタイミングでな!!」
基本的には漁夫の利というやつだ。だが利益ではなく姫への認知目的で動いている。活動資金は盗賊とか倒せば賄えるレベルの人数だ。そこまで計算に入れているのだろうか。どこまで脳みそ使っているのか想像つかんやつだな。
「こりゃ到着は夜かな。即断即決にも限界がある。しくじったぜ」
「宿はちゃんと取りましょうボス」
「当然だ。各自分散して泊まるように。すぐ事件があれば駆けつけて……」
「ボス、先行させていたやつらが来ます!」
見れば誰かが馬に乗って駆けてくる。三人か。何か焦っているようだ。
「どうした?」
「それが……街から火の手が!!」
よく見れば遠くに煙が上がっている。あれは事件性のある煙だったのか。
「おいおい早くねえか。原因は?」
「強盗団を絞首刑にするとかで、取り戻しに来た強盗団と戦闘になって、いつの間にか火が……」
「落ち着け。兵士は何をやっている?」
「炎と敵の対処に駆り出されてます」
炎に紛れて仲間の奪還をするつもりか。随分仲間思いの盗賊団だな。
「しょうがねえ、助けに入る! 予定前倒し! 走れるやつだけついてこい! お前はそれ以外をまとめて、街の外で待機!!」
「ラジャー!」
「ってわけだ、ミツキ、ザジ、イズナ、一緒に来い。音速くらい突破できるな?」
「一応は」
「よっしゃ行くぜ!!」
俺達とボスを含めた十五人で街まで猛ダッシュ。疲れるからこういうのやめて欲しい。途中で三日月さんにおんぶしてもらって事なきを得た。すごいぜ騎士団長。
「煙の発生源が多いな。こりゃやべえぞ」
「てめえらそこで止まれ! ここは通行禁止だぜ」
わらわらとザコが湧いてきた。敵ザコって世界に無数にいるよね。なんで死滅しないんだろう。不思議である。
「おめえらこの街を襲った強盗団か?」
「だと言ったら?」
「消えろゴミクズ」
ボスの一振りで十人ほどのザコがちぎれ飛ぶ。マジギレだな。ザコがたいそうびびっていらっしゃる。
「オレたちゃ正義の義勇軍! 大義と正義と姫のため! てめえらまとめてぶっ潰す!!」
「ミツキ、俺はイズナと行く。できるだけ先に単独行動で市民を助けろ。敵は義勇軍が相手をする」
「かしこまった。騎士として狼藉は看過できん」
三日月さんは音もなく消えた。これで市民が虐殺されることは減るだろう。
「ボスライトソード!」
ペンライトみたいな光る剣を両手の指に挟んで八刀流でぶん回している。いやあれ指痛いだろ。普通の剣より短いけど、絶対重いはずなのに、ボスはどんどん敵を切り裂いていく。踊っているようにすら見える。
「はいはい! ほいほい! L! O! V! E! ひーめ!!」
「ふざけてんなら帰れボス!!」
「大真面目だぜ!! うっしここ終わり! おめえらオレに続け!!」
本当に全滅させやがった。しかもかなり早かった。その事実がきもい。
「姫の土地を汚す奴らに天誅を!!」
勢いよく街の中へと突っ込んでいくボス。いや罠とかあったらどうするんだよ。
「イズミ、罠に警戒してくれ。ボスはまあ、死にゃしないだろ」
「了解」
「生きとし生ける民は未来の姫のファン。その命、散らすことは許さねえ! ボスボンバー!」
ださい必殺技名を叫びながらドロップキックかましているボス。それでも三人ぐらいまとめてぶっ飛ばしているから、やはり強いのだろう。強いやつって自由だよね。
「排除開始」
イズミの目の前に巨大な鉄球が現れる。どことなく揺れ動いている気がして、注意深く観察しようとすると、鉄球が鉄の腕となって敵へと伸びた。
「うわああぁぁ!?」
「なんだこれ!? 剣じゃ切れねえ!?」
「アジュの戦闘とリリアの案を形にした。攻防一体錬金アーマー」
イズミの背中に鉄の腕が二本生えている。これライジングギアっぽい動きだな。それを錬金と鉄を流体にすることで再現したのか。
「問題は魔力消費が激しくて目立つ。遠くまで飛ばせない。2メートルくらいが限界。自由に伸ばせるアジュは凄い」
「急に褒めたな。あんなもん慣れりゃできる」
「それでも体を鉄にはできない。この程度の敵には有効」
イズミ自体の速度と手際も上がっている。間違いなく合宿の成果だろう。
「やっぱり疲れる。アーマー解除。今は風に乗る」
ふわりとイズミの体が浮かび、予測できない軌道で敵の首をはねていく。
「効率よく、最短で、かつ時にはフェイントを混ぜる。リリアに叩き込まれた。今の私は超人クラス以外ならどんな体勢からでも死角を突ける」
「よしいいぞ。そのまま頑張れ。俺も一応働くから」
流石に燃え始めている街でふざけているつもりはない。近くの敵を魔法で潰しつつ、チャンスを逃さず切り裂いて一撃離脱。ヒットアンドアウェイ戦法は完全に体に染み込んでいる。
「ザジ、イズナ、あっちに広場がある! 敵も大量だぜ!!」
「はいはい、どう攻める?」
「オレこっち、お前らあっち。合図するから同時に広場に魔法ぶっぱ。殲滅完了。オッケー?」
「オーケイ」
「任務了解」
さてさてできる限り手っ取り早く殲滅しよう。マジで洒落にならん状況だしな。




