面倒事はいっぺんに来ないでください
合宿から帰ったらまた問題が起きていた。俺に安息の日とかないんですか。
「もう解決しただろ」
「元凶を潰せていないのよ。そして妙な動きがあるわ」
作戦を立てるためにフランとミリーに同席してもらっている。二人とも慣れているみたいだし、よい経験になるだろうから頑張れ。俺は何もできないと思う。
「9ブロックから難民が出ているようです。商人や観光客とは違うみたいで」
アオイが報告してくれるが、9ブロックで生活くらいはできるはずだし、出稼ぎに来ていたやつらが逃げるほどの何かがあるのか? チンピラの流入は避けよう。
「入れるなよ? 難民だの怪しい移民だの、全国共通で厄介事だ」
「ですよねえ」
「そいつら監視しておけ。尖兵かもしれん。というか捨て駒」
「ありがちね。移民の盾って感じ。ネフェニリタルはエルフの国だし、そういうの断る伝統にしてるけど……新興国じゃ厳しそうね」
新規参入が厳しい国である、とアピールできるほどの歴史があれば別なのだろう。周囲がエルフばかりだと、違うやつは浮くしな。参考になる。
「移民ってのは労働力にできりゃいいんだろうが、大抵は寄生虫だ。皆殺しにするのが不可能な敵と言っていい」
「言い方はあれだけど、扱いが難しいのは本当ね」
「潜入するにも言い訳が作りやすいですからね」
全員多かれ少なかれそんな認識である。人の上に立つ連中が多いのが功を奏した。敵軍と移民をどう分けるかだが、同情するやつがいると邪魔になるのだ。
「まさか戦闘始めないだろうが……とりあえず警備増やして見張っておけ」
「了解です」
「仕方がないから調査だ。あっちだって仕事はあるはず。なのに別ブロック大移動みたいなことは起きないだろ」
これは誰が計画したことなのか。最低でもそれだけは突き止めよう。
「9ブロックだけじゃなく、5ブロックも調べておきたい。どっちかは俺が行く」
「おひとりでですか?」
「三日月さん連れて行けるか? 警備しなきゃいけない場所があればそっち優先で」
「わたしとイズミちゃんなら一緒に行けるわよ? 簡単な調査でしょう?」
「んー……いやでもなあ……」
またA2型みたいなのが出てきた場合、俺の鎧が知られてしまう。守るのもめんどい。あの件が進展しない限り、こいつらリスクでかいんだよなあ。
「ちゃんと合宿したじゃない。みんな強くなってるのよ」
「まずアジュさんは単独で情報収集とかできるんですか? 知らない人に話しかけて情報引き出せます?」
「無理に決まってんだろ」
「なら同行者が必要でしょ」
ど正論でございます。俺に戦闘以外の対人能力とかないよ。なので同行してもらうことにした。
「ここだよな? 逃げ出した連中が通るのって」
俺・イズミ・ルナ・フラン・三日月さんで変装してやってきた。ちなみに三日月さんの町娘の格好は却下した。女装をするな。俺に着せようとするのもNGだ。
「ええ、ここは8ブロックと6ブロックが侵攻して重なった領地です」
「街道整備したもんなあ。通りやすくしちまったか」
雪が降っているとはいえ、道は整備されて魔物よけもある。兵士もいる。
周囲を見ても、商人とかに紛れる人数が多いだけで、今のところ危険そうには見えない。こりゃ判断に困るね。
「んじゃちょっとお友達にお話聞いてくるねー! おひさー!」
「あれー? ルナじゃん、なんでここいんの?」
「えっとねー」
ルナの知り合いがいるらしい。邪魔しちゃいけないので離れていよう。
「私もフランと行ってくる。何かあれば呼んで」
「サボっちゃだめよ? 怪しい人がいないか見てなさい」
「了解」
フランとイズミも離れていく。こうして三日月さんと並んでいられるうちに打ち合わせしよう。
「さて三日月さん。やばい連中が来た場合ですが」
「超人はオレが対処。それ以上は彼女らを連れて逃げればいいのですな?」
「正解です。エキドナレベルの下級の神格なら一撃なのは知っています。ですが、前回のあれは規格外だ。相性ゲーと言っていい」
「騎士として子供に任せるのは不本意ですが、それは己の未熟さが招いたこと。できることを全力でやりましょう」
強さも精神性も完璧超人なんだよなあ。本当に欠点ないなこの人。だから騎士団長をやれているんだろう。
「ありがとうございます。できる限り頼らせていただきます。俺が戦うのは本当に限界を超えた強敵だけですので」
「アジュくん、戻ったわ。どうやら国王が少し前から不在らしいわよ。兵士も減って、どこかに集まっているみたいなの」
やはり厄介事だな。対策と言ってもどうすべきか、思考を巡らせようとしたら、離れた場所で騒ぎが起きる。剣を抜いているのが見えた。
「喧嘩だ! 誰か止めてくれ!!」
「ああもう三日月さん、ばれないようにお願いします」
「かしこまった」
その場で指を弾いて空気で的確に急所を撃っていく。見事だ。殺してもいない。被害者側を気絶させない配慮もできている。
「あっくーん、お話聞いてきたよー! なんかね、武器とか食料とかが大量に買われてるから、近いうちにまた戦闘になるんじゃないかって噂だよん」
「魔物がいるぞー!」
今度は魔物か。ルナの報告を聞いておきたかったんだが仕方ない。三日月さんに任せよう。
「処理しておきました」
「ご苦労さまです」
「アジュ、9ブロックが8と6に攻めるための軍を再編中。ここを通過する兵もいると聞いた」
また攻めてくるのね。勝算ないだろ。領地も削られたし、二面作戦なんてできるわけがない。兵力でも負けているだろうに、どういう根拠なんだ。
「敵兵だ!!」
「少し話が進むたびに敵が出やがって、ソシャゲのステージ攻略じゃないんだぞ」
ここまで騒げば兵士も多く駆けつける。俺たちの仕事もないだろう。こっちの兵士はちゃんと敵を倒しているし、民間人を守っている。いい仕事だ。それなりに多く給料払っているはずだからね。
「よくわからない敵が出たぞー!」
「敵なのはわかるんだな」
ゴーレムと四足歩行の魔物が出た。だがうちの連中の敵じゃない。目に見えて動きがよくなっている。なんなら気を抜くとちょっと見えない。
「木々の間に爆弾が!」
「もう呪いだろこれ」
解体班が到着して作業をしている。その間にまた敵が出る。こっちにけが人が出ていないことが唯一の救いだ。
「なんか動く不吉っぽい人形が置いてあります!」
「オカルトに舵を切るんじゃない!!」
その人形は動きだしたので燃やした。そしてまた魔物が来る。
「背中に爆弾と人形をくくりつけた魔物が!」
「混ぜんな!! 三日月さん!」
「処理完了です」
三日月さんに任せれば負けはない。だが戦力を逐次投入してどうするのだろう。
敵の狙いが読めない。これじゃあ負け続けるだけだ。
「命令出しているやつが近くにいないかチェックしろ。明らかに負けること前提だぞこれ」
「了解」
そこから半日くらいぽつぽつと襲撃があるが、どこに行っても大規模な進撃の痕跡はない。本当に意味がわからんことばかり続く。
「人が多いし、誰が敵かまではわかりませんでしたね」
「捕まえたものから取り調べはしていますが、金で雇われたか洗脳かで、あまり有益な情報はありません」
「これは……どこにどれだけの兵士が来るか調べている?」
城に戻って全員で襲撃された場所を地図に書き込んでみる。別に重要拠点じゃない。そもそも食料庫とか民間人の居住エリアとかは厳重な警備だ。ザコが入れる守備状況じゃないけど、これは少し意図が不明だ。
「なるほど、アジュさんの言うことも一理あるのかもしれません。こちらの戦力調査なのかも」
「だがそのために自軍の駒が減るんじゃ意味なくないか? 9ブロックはもうそれほど隠し玉がある場所じゃないだろ」
「まったく別の勢力がいる?」
アカシックレコードはほいほい姿を表さないだろう。存在が知られること自体が禁忌なのだ。だからこんなガキの小競り合いに参加してくるはずは本来ないのだが、本当に目的がわからん。
「報告! 6ブロックと9ブロックが大規模な戦闘を始めました!!」
「9ブロックが攻めたのか?」
「はっ、全軍にて突撃しているのことです」
「…………全軍?」
今更玉砕覚悟ってこと? ありえないだろ。そんな潔い連中じゃない。
「少々面妖なことに巻き込まれたようですな、サカガミ殿」
「三日月さん?」
「先日9ブロックと戦った国境付近の砦ですが、兵士がいないようなのです」
「いないってどういうことです?」
「言葉通りです。この目で確認してきましたが、砦にもその周辺にも兵士がおりません。そちらの伝令が正しいのであれば、本当に全軍で突撃しているのかと」
ありえん。絶対にありえん。仮に俺たちが9ブロックを攻めないと判断したとしても、全軍でぶつかる理由がない。失敗すれば詰むし、勝っても旨味がない。実質的に9ブロックを放棄しているのと同じだ。
「どうします?」
「6と9が戦っているなら、勝つのは6のはずだ。俺たちは防御を固めよう」
「報告! 9ブロックの兵が、5ブロックから進軍しています! 狙うは6ブロック!!」
「はあ?」
5ブロックは戦争禁止区域……いやそれは解除されたんだっけ。だとしても2ブロックの領地だろ。
「どうなっている? 同盟でも組んだのか?」
「9ブロックの兵士が、5ブロックを通過して挟撃をかけました!!」
「武器や食料をあらかじめ用意しておいて、5ブロックを通過したら受け取って9ブロックの兵隊に戻る。ということでしょうか」
「それなら5ブロックで戦闘はしていない……屁理屈がうまくなりやがったな」
こういうことができる集団とは思えなかったが、裏に誰かいるのだろうか。だとすれば2ブロックはこれを見過ごすのか。
「6ブロックは落ちませんよね?」
「わからん。ほぼ負けはないはずだが……リリアの陣地への防波堤になってもらわんと困る」
「ちなみに救援も難しいです。街道に移住希望の難民が多くて……どかすにも一苦労です。兵が通れる場所を狙っているようにキャンプされています」
「邪魔くっせえ……いや、これ込みで仕組んだな」
こちらへの牽制をしているのだろう。だがどうして? 6ブロックだけなら勝てる保証でもあるのか?
「個人で9ブロックの城へ潜入するというのはいかがです? 真意を問いただすのです」
「あんまり行きたくないんだよ。治安悪そうで関わりを避けたいだろあんなの」
「攻め込んだとみなされて、領地になっても困りますね」
「間違いなく邪魔」
俺たちに押し付ける算段かも知れないし、まあ動くべきじゃないな。
「まずは自分の国をちゃんとしよう。次の特典で建てる施設についてとか、そろそろ考えていくべきだろ」
「報告! 7ブロックから援軍要請です!!」
「はあ? 7ってクレアだろ? 必要か?」
「報告! 6ブロックより使者が来ています!!」
「いっぺんに来るなや……」
間違いなく厄介な何かが起こっている。だがどうするべきだ……一応同盟国だし、クレアに援軍は出したい。6ブロックの用事次第だな。
「どもッス。最近よく会いますね」
ガンマだった。まだ話が通じそうでいいな。とりあえず聞いてから決めよう。




