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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
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06 優しい魔法の使い方 ①

 

幕間


 声が、聴こえる――

 私を揺り起こす手と、その温もり

 あの優しい歌だけが、静かに響き続ける

 これが夢だと、とうの昔に知っていた

 故にこそ、目覚めたくないと切に願った


 それでも幾度となく、容赦のない朝が来て

 この朝を乗り越える術は、既に私の手を離れ

 天窓の狭間から空を見上げ、ただ無事を祈るのみ

 愛し子は――そして貴女も、どうしているだろうかと


 約束の鳥の羽音を、ひたすらに待ちわびる

 旅の果て、この塔の上で独り――待ち続けている



 *



06 優しい魔法の使い方


 それが、幸福であるのかどうか。

 それは私にとっては、ひどく難解な問題だった。

 その温もりが、手を伸ばすまでもなく隣にあると、気付く時までは。



 *



「マスター、今日は大猟ですよー!聞いて下さい、ハクビシンが狩れたんです!キノコも沢山とって来たので、シチューにしましょうっ!」

「それは、今日もご馳走(ちそう)で大変結構ですが……相変わらず、雰囲気は無邪気なのに絵面(えづら)は凄まじいですね」


 とれたてホヤホヤなハクビシンの尻尾(しっぽ)をつかんでウキウキと帰って来た私に、フィニアス師は第一声からそんな『呆れましたね』って感じで言葉を落とした。


「もう……マスターだってお肉、好きでしょう?」

「まあ、そうですね。ウサギの餌よりは、よほど」


 フィニアス師の言う『ウサギの餌』には、野菜どころか穀物全般まで含まれている事を知った時には、もう言葉もなくて。旅に出て初めて知ったけど、フィニアス師は基本的に肉以外のものを口にしない、とんでもない偏食家だった。ただ、味とか見た目にこだわる事はなくて、むしろ食事に頓着(とんちゃく)しなさすぎで心配になるくらいだったりして。


 私がフィニアス師の食生活に危機感を抱いたのは、まず間違いなく旅に出て最初の夕食の出来事のせいだった。なんとフィニアス師は、私が狩って来たキジバトを(さば)いている最中に『ヒョイっ』と、しかも生のままでつまみ食いしてしまった。それがあまりにも自然だったから、うっかり流しそうになったけれど、相手は兄さん達みたいな獣じゃなくて人間なんだということにハッと気付いた時にはもう遅い。


『ほう……冬にしては、悪くない味ですね』

『っちょ、ちょっと何してるんですかマスター!』


 フィニアス師は、私が何を慌てているのか分からない、とでも言うような顔で目を(またた)かせた。


『少々、作法(さほう)に欠ける振る舞いだったでしょうか……失礼、君がそこまで怒るとは思わなかったものですから』

『いえ、そこじゃないですっ!これ、生肉ですよ?』

『珍しく、食物が美味(おい)しそうに見えたもので。つい』


 つい、で済ませられる話ではないと、ブンブン首を横に振ってもフィニアス師は分かってくれなかった。


『野生の獣は、そのままだと寄生虫とか菌とか色々ついてて、人間には危険なんです。生で食べるなんてもっての他ですよ』

『むしろ私は、君が寄生虫や菌の概念を有しながら、森で普通に生活していたことに驚きを禁じ得ないのですが……ともあれ、後で解毒(げどく)すれば良いではありませんか』


『そういう問題じゃありません!マスターは何か口にするたびに解毒薬のんだり、解毒の魔法をかけたりするつもりですか?』


 私が問い詰めると、フィニアス師は何故か『仕方がない』と言うような顔で、小さく息を吐いた。


『現にそうしておりますが』

『え……』


『ああ、君の調理技術や殺意を疑いなどしませんよ。ただ宮中などにおりますと、気を抜いた瞬間にサクリとやられる、などと言う事も珍しくありませんので。長年染み付いた習性のようなものです、お気になさらず』


 そんな、とっても気になる言葉と共に、ニッコリ微笑(ほほえ)まれてしまえばどうしようもない。


(人間の口に、生肉は合わないってエルも言ってたのに……)


 王宮って場所にいると、フィニアス師みたいになってしまうんだろうか。殺意がどうとか怖い事をサラリと言っていたし、王宮はとても恐ろしい所なんだろうと思った。

 そんな事があってからと言うものの、とにかく私はマスターの食生活を改善しなければならない、なんて義務感に駆られて毎日真面目に料理をしている。そのおかげなのか、初めての旅と野営で心配していた体調を崩したり、お腹を空かせたりなんて事にはならずに済んでいるけど。


「しかし、そうしている所を見ていると、森の乙女(おとめ)ではなく野生児と言った方が正確であるように思えて来ますね」


 私が今日も元気よくハクビシンを捌いていると、フィニアス師は腕組みをしながらしみじみと言った。


「せめて、狩人って言って下さいマスター……あんまり意地悪言うと、マスターのご飯だけ抜きにしますからね。きっと全部、ロロ兄さんとナジークがキレイに食べてくれますよ」

「……私はただ、君が森で生まれ育ったと言うのが、誇張のない真実であるのだと再確認していたまでの事です」


 言い訳というよりも、ずっと真剣な表情で呟いたフィニアス師に、私は思わず首をかしげた。







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