表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
84/277

05 星の導き ②

「ともあれ君は、これまで最も基本的な知識である魔法・魔術の概念について知らないまま、これまで感覚で行使するなどと言う恐ろしいことを続けて来たため、おかしな癖がついてしまっています。それを矯正しなければならない理由は、先刻その身をもって体験して頂いたはずですね?」

「はい……申し訳ありません、マスター」


 私がシュンとして謝ると、どうしてかフィニアス師は視線を泳がせてボソボソと呟いた。


「……分かって頂けたなら、良いのです。では、君がこれまで魔法と上手く付き合って来た理由と、現状ごく簡単な魔法の行使に失敗し続けている理由を、お聞かせ願えますか」


 その言葉に、この二日間でフィニアス師から教わった知識を総動員して、注意された言葉を思い出しながら答える。


「これまではエルが完成させた術句と魔法陣を使っていたし、規模も座標もカンペキに指定されて組み上げられていたから失敗しませんでした。自分で一から構築した魔法を使う時は、魔法をかける対象と自分の意識を繋げていて、直に魔力の経路ができていたから失敗しませんでした」


 そしてフィニアス師から厳命されたこと、その四。よほどの緊急時でもない限り、魔法をかける対象に自分の意識を繋げるのは、絶対にダメ。これは私も身をもって知っていることだけど、例えば意識を繋げた相手が死んでしまったり壊れたりすると、自分にどんな影響が跳ね返ってくるか分からないからだ。


『こちらから簡単に影響を与えられる状況は、(すなわ)ち自身も容易に影響される時であることを知りなさい』


 厳しい声で、骨の(ずい)まで染み込むくらいに繰り返された言葉は、きっともう二度と忘れることはないだろう。そう思いつつ、回答の続きを口にする。


「今は術句も魔法陣も、一から自分で構築しなくちゃいけないし……これまで『魔法』と『魔術』を混ぜ合わせて使っていたから、どちらかだけを使おうとした時に、起こしたい事象をちゃんと考えることが出来てないんだと思います」


 フィニアス師は私の言葉を採点するみたいに宙へと視線を走らせると、小さく頷いて口を開いた。


「現代において一般的に行使されている『魔法』は、かつて『魔術』のみに用いられていた術句や陣を補助的に用いることで、より速さと正確さを求めたものです。ただし『魔法』の本質である『自身の魔力を用いること』また『世界に対して書き加える力』であるという性格が変わることはない。これまで茫洋とした思考のみで行っていた演算に、術句と陣を加えることで明確な指向性を持たせた……画期的な発明ではありますが、所詮はこれまでの魔法技術の延長線上です」


 そこで言葉を切ったフィニアス師は、私に何を伝えるべきか注意深く考える時の表情を浮かべた。


「だからと言って、高度な技術であることに変わりはありませんし、魔法を行使するにあたって想像力の欠如は致命的です。ましてや、基礎を(おろそ)かにするなど愚の骨頂。君からその基礎が抜けているのは、君の父君であるナサニエルを見て育ったからです」

「エルを……?でもエルは、私に『基礎は大事だからしっかりと学びなさい』って、いつも言っていました。勉強の本も、私の進み具合に合わせてくれてて……やっぱり、私の勉強が足りなかったんでしょうか」


 エルはこれまでの知識じゃ学院ではやって行けないと言っていた……それは、こういうことだったのかもしれないと落ち込んでいると、頭の上から深々とした溜め息が降ってくる。目を(またた)かせて頭上を見上げると、フィニアス師が呆れ顔で私を見つめていた。


「ナサニエルにとっての『基礎』が、君にとっての基礎ではなかった、と言うだけの話です。何も君の努力が足りなかったと言うつもりはありませんよ……むしろ君は今まで高度なことをやり過ぎていた訳です。基礎がありませんので砂上(さじょう)楼閣(ろうかく)ではありますが、君とナサニエルがアカシックレコード論について語りながら、ミスリルを精製している光景を目の当たりにした時は、正直に申し上げると目眩(めまい)がしました」

「うん……?」


 フィニアス師が何に目眩を感じているのか良く分からないまま頷くと、更に頭痛を堪えるみたいな表情が浮かべられる。


「……こういう言葉はあまり使いたくはありませんが、アレは所謂(いわゆる)『天才』ですからね。そこを基準に物事を考えると、後々から苦労することになりますよ。彼は魔法陣を複雑化させることで術句の詠唱を極限まで簡略化し、その上で微調整は自らの思考と意志による演算のみで完璧に(こな)してしまう化け物ですので。この意味が、分かりますか?」

「えっと、マスターは『魔術』と『魔法』は基本的には混ぜちゃいけなくて、魔法に術句や陣を使うことはあくまで技術の流用であるし補助的なものだと言ってました。それから人間の頭で魔法を行使する瞬間に、それが世界に対して及ぼし得る影響を全て計算するなんて現実的ではないけど、後先考えずに放つ魔法は非常に危険だから、頭で演算しようなどと馬鹿なことは考えずに術句や陣に任せることを前提として考えなさい、とも」


 考えの道筋は当たっているかな、とフィニアス師を見上げれば『よろしいですよ』と言う風に頷いて、続きを促してくれる。


「エルが使っているのは、どちらかと言えば『魔術』なんですよね?世界を『書き換える』力……でも、一度行使した魔法の影響を意志の力で修正するのは、どちらかと言えば『魔法』だと思います。つまりエルは、マスターが言ってたルールを全部破ってる?」


 思わず顔が引きつりそうになりながら結論を出すと、フィニアス師は何故か満足そうに微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ