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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
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03 いつかの記憶と託した願い ②

「さっき言ってた『完全数』って何?」


 私は「ああ」と、いつものように質問に答える。


四則(しそく)演算(えんざん)は教えたな?」

「うん。足す、引く、かける、割るだよね」

「ああ、世に言う加減乗除だが……それは理解しているものとして話を進める」


 リアが頷いたのを確認し、私は言葉を続けた。


「約数、と言うものを教えねばならない。例の完全数の中で、最も小さい数とされる数字『6』を例に挙げる……6を割り切れる数を全部言ってみなさい」


 あまり計算を得意としないリアが、軽く表情を引きつらせながらも指折り数える。


「えと、1かける6と、2かける3で……1・2・3・6」

「まず、それが約数だ」

「……自分を割り切れる数?」


 私が頷くと、リアもふむふむと分かったような顔で頷いた。


「次に、約数から6だけを除いて足してみなさい」


 これは簡単だったようで、すぐに答えが出る。


「1たす2たす3で……あっ」


 どうやら法則性に気付いてくれたらしいリアが、パッと顔を輝かせる。こう言う、素直に学びを喜ぶ表情が、ひどく愛らしいと思うのは時折フィニアスに言われる『親馬鹿』と言うものなのだろうか。


「6になった!」


 私は彼女の柔らかな髪を撫でてやりながら、口元が緩むのを感じた。


「それが完全数と言うものだ」

「自分以外の約数を足す……エルの言った496もそうなるの?」

「ああ。試してみるか?」


 そう言ってニヤリと笑って見せれば、リアは必死になってまた指折り数え始める。


「1かける496でしょ、2かける248でしょ……3は……3は?」


 しばらくウンウンと(うな)っていたリアは、やがて肩を落とすとしょんぼりとした顔で私を見上げた。


「降参……」

「少し難しかったか。1・2・4・8・16・31・62・124・248……そして496だ。496を除いた九つの数を足せば496になる」


 暗算の計算量に追いつけず目を白黒しているリアに、笑って空中に魔力で計算式を綴ってやれば、今度は計算できたらしく(きら)めく瞳で満面の笑みを浮かべる。


「すごいすごい!本当に496になった!」

「時折こう言った美しい数字を見つけると、数学も面白いものだ。実生活に役立つかと問われれば首を傾げざるを得ないが」


 私が苦笑すると、リアはぶんぶんと勢いよく首を横に振った。


「でも、エルは496って数字を見て、完全数だって気付けたんでしょ?いつも『世界を構成する法則を見つけ出すことが、錬金術の使命だ』って言ってるし、役に立たないことなんてきっとないよ」

「……そう言われると、少しは救いがあるのだが」


 そう、誰もが気にも留めないような瑣末事(さまつごと)であっても、小さな証明を積み重ねて行く他には無いのだろう。もっとも、完全数のような数学の証明などは、偉業のうちに数えられるのだろうが。


「そうやって一つずつ気付いたこと、いつもみたいに記録してくしかないんじゃないかな」


 その言葉に、私はハッと息を呑んだ。そうして、己が焦りのあまりに視野狭窄に(おちい)っていたことに、ようやく気付かされた。そうだ、いつでも私はただ、何事も愚直に積み重ねることで成し遂げてきた。

 たかだか500程度の魔法陣が何だと言うのだろうか。錬金術の基礎実験のことを考えれば、そんな試行回数などものの数にもならない。頭の中に存在するイメージをただ紙の上に写し取り、情報を読み取り、そこに法則を見出す。そうしてようやく解呪の手法を考えることが出来るのではないか。手順を間違えていたに過ぎない、と一度気付いてしまえば気は楽になった。


()すべきことを、為すのみ、か……」


 ポツリと私が落とした言葉に、リアがニコリと微笑んだ。私は感謝の意をこめて、くしゃりと彼女の髪を撫でると、すぐに作業へと取りかかった。この膨大な魔法陣を書き()めるならば、もはや本の形態にしてしまった方が良いだろう。写本ではなく正本の製作であるならば、本来は職人に任せるものだが、今回は内容が内容であるだけに簡易的なものを自分で作る他にあるまい。どのみち、私と……リアくらいしか読む者などいないのだから、体裁(ていさい)を取り繕っても仕方ない。要するに、今は早用が()く事が第一である。


 この際、高価な紙が勿体(もったい)ないなどとは言っていられないため、ここぞとばかりに大量のストックを惜しげなく使ってしまうことにする。


(コデックスとスクロールならば……特徴を見比べるならば、やはりコデックスか)


 写本・正本の形式として、一般的には近年生まれた冊子形態のコデックスが好まれるものの、グリモワールと称される魔導書の類は長大な術句を書き残すことが多く、更にコデックスよりも封印をかけやすいと言う利点から未だに巻物形式のスクロールが好まれる傾向にある。しかし今回の件に関しては、文章ではなく図像を主とする故に冊子形式が好ましい。


 正円ばかりを書くのだから、正方形でも構わないかと考えがかすめるものの、やはり後から他の情報を書き込めないことは不便だと考え、まあコデックスならば裏表が書き込めるからなと少しばかり倹約に気を遣っておく。


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