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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
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02 雪の夜、絶望と覚悟 ⑤

 私がライの病気をこの目で見る。エルが私の記憶を通して、ライを見る。私に分からなくても、エルなら分かる。それは、コレ以上にない最高の解決法だと思った。


『絶対にダメだ』


 一年前、聞いたこともないくらいに硬い声で言い切ったライは、ひどく冷たい表情をして私を戸惑わせた。


『っ、どうして……ライの命が助かるかもしれないのに』

『そんなもの、君の安全と天秤にかけたら考えるまでもないよ』


 そんなもの、と言う声があまりに投げやりで、言葉を失った私にライは溜め息を吐いた。


『ネイトから聞いて知ってるでしょ。そして、賢い君なら理解しているはずだよ。人体の構造を読み取る魔術は、その情報量の多さから術者にかなりの負担がかかる。僕の場合はそれだけじゃなくて、呪いが君の身体とか魂にまで影響を与えるかもしれない』

『そんなのっ』

『例えほんの僅かな可能性でも』


 静かな声が、私の反論を遮った。それだけで、私は何も言い返すことが出来なくなってしまった。覚悟が、足りなかったのかもしれない。病と、人生と、向き合ってきた時間も密度も、何もかも。


『君が傷付くかもしれないような方法を使ってまでして、繋ぎとめなきゃいけないほど価値ある命じゃないんだ』


 そんな言葉で、納得なんてできるわけがなかった。それなのに、何一つ言い返すことのできない自分が悔しくて仕方なかった。言葉はあまりに軽くて、もろくて、その瞳の前には何の価値も持たなくて。何より、ライにとって生き続けることは決して救いなんかではないのだと、はっきりと理解してしまったから。


 もう、あの時なにも言えなかった、小さくて弱いままの私じゃない……ううん、本当は何も変わってなんかいなくて、一歩も進めてすらいないのかもしれないけれど。


 それでも、願う。


「私が旅に出るとしたら、まだもう少し先の話だもの。それまでライが生きてなかったら、そもそも私を守るなんてできないけど、どうする?」


 嘘を()く時は、少しの真実を混ぜて話すこと。相手が嘘だと気付いていても、頷かせるような条件を。最後の決め手はタイミングと呼吸。全部、ライ自身が私に語って聞かせてくれたこと。エルは『詐欺師のテクニックを子供に教えるな』って怒ってたけど。


 私が旅に出る本当の理由……この世にいる全てのスプリガルを見つけ出して、その剣を破壊するって目的は、エルにも言ったことがない。世界を見て回りたい、ユーリとの約束を果たしたいって言うのは本当だけど、きっとそれ以上に(だい)それたことだと思うから。


 そんなものを抱え込んでいるのに、他人の……ライの命まで背負えるのか、なんて。そんな覚悟があるとは口が裂けても言えないし、自分はどうしようもなく欲張りな人間だと思う。目につくもの、何もかもを拾い上げないと気の済まない、ただの子供だ。


 ただ、ほんの少しでも長くライが生きていてくれるなら、その可能性があるなら私は諦めない……諦めたくない。私を守ってくれるかどうか、なんてどうだっていい。ただ、もしもそれがライの生きる理由の一つになるなら、そんな言い訳がないと生きていけないって言うのなら。


(何だって、使う)


 生きていて欲しい。ライのため、なんて綺麗な言葉で飾らなきゃ認められないほど子供じゃない。私のため……私の世界が優しくて幸せな場所のままであるために、ライには生きていてもらわなくちゃいけない。そういうこと。


 私の心がどれだけ伝わったのかは分からないけれど、ライはしばらく私を見つめた後に渋々……本当に仕方なく、って感じで頷いた。


「……それで君が納得するなら」


 ライが溜め息混じりに落とした言葉に、私は頷いてエルの方を向いた。エルはまだ迷うように瞳を揺らしていて、眉を寄せて私を見つめた。


「リア、分かっているのか」

「……私に自分を呪いから守るための力が足りないことも、魔法を完全に使いこなすだけの実力がないことも分かってる。でも、出来るだけ早くなくちゃダメなの」


 手遅れになってからでは、何もかもが遅い。ライの左目は、もうほとんど見えなくなっているのだと聞いた。時計の針は容赦なく進んで、命は流れる水のようにこぼれ落ちていく。


「エルだって、私なら同じことをしたでしょう?エルにとってライが大事な人であるように、とっくの昔に私の大切な『家族』でもあるの」


 私の言葉に、エルではなくライが息を呑む音が聞こえた。今までに私が口にしたどんな言葉よりも、ライが動揺しているのが何だかおかしくて。私からすれば、何をいまさら、って感じなんだけどさすがにそれは口にしない。自分の方がよっぽど『親友の娘』に自分の人生をかけて、目的も分からない旅に同行しようなんてとんでもないことを言ってるのに、それには気付いていないらしい。


「……術句(じゅつく)は頭に入っているのだな」


 エルがポツリと落とした確認の言葉の意味を理解した私は、勢いよく顔をあげて頷いた。


「大丈夫。言葉は問題ないし、魔法陣もそればっかり何十回も描いてたから」


 そもそも、エルが改良に改良を重ねているから、かなりシンプルな魔法陣に仕上がっている。気をつけなくちゃいけないのは方角と時間、金星の位置くらいのもの。それに術句、とは言っても『言葉』で紡がれた魔法は、私にとって唱えるって言うよりも話すのと同じ感覚で、あんまり身構えるようなものでもない。



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