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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
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02 雪の夜、絶望と覚悟 ④

 彼の命を救う方法は、今のところ誰も見つけられていない……けれど、本当はそれを見つける糸口をつかむための『実験』なら、今すぐにでも試すことができる。


 エルはこの大陸に片手で数えられるくらいしか存在しない、錬金術を修めた薬師(エルは『錬金薬師』って呼んでる)であって、その基礎にして必要不可欠な術に『人体の構造を読み取る』ためのものがある。実は術式さえ覚えてしまえば誰でも扱うことの出来る魔法だけれど、これを知っていることは絶対に誰にも教えてはいけないし、安易に使ってもいけないと最初に叩き込まれた。


『どうして?この術があれば、救える人は沢山いるかもしれないんでしょう?』


 人体構造を読み取るってことは、病巣(びょうそう)の場所やその種類の特定の精度が飛躍的に向上するということだと、エルは言っていた。それを知っている人が多ければ多いほど、沢山の人が救えるかもしれないのに、その方法を秘密にするっていうのは何だか(ひと)()めしてるみたいでイヤだった。


『そうかもしれない……だが、リスクが高過ぎる。一つ目の理由は、薬学や医学に携わる者を魔術師連中が忌み嫌っていること。広めようとしても、技術を(はな)から拒否する者の方が多いと断言できるほどに。それが例え、どれだけ人類にとって有用であったとしても。魔術師とは、基本的にそういう連中だ……二つ目の理由は、悪用される可能性の方が残念ながら高いと言うこと』

『悪用……?』


 エルは真剣な表情で、どこか苦しそうな色を瞳に浮かべて頷いた。


『相手の人体の構造を一瞬にして暴けるということは、その人間の構造的な弱点、一言で言えば急所が分かってしまうと言うことだ……あまりお前にこのような話をしたくはないが、綺麗事だけでは生きてはいけまい。分かり易く言えば、相手のどこを突けば効率的に殺せるかが一目瞭然であり、病死と見せかけるなどして暗殺することも容易になるだろう。相手の思考や感情を読み取り、操ることさえ可能となり得る』


 淡々とした声で紡がれる『現実』に、背筋が震えた。そんな可能性があるなんて、確かに考えもしなかったし、考えたくもなかった。


『残念ながらこの世界には、人の生よりも死を望む(やから)が多すぎるという事だ』


 吐き捨てるように告げられた言葉は、エルが見てきた『世界』の過去がどれだけ悲しいものであったのかを考えさせた。人を傷付けなければ生きてはいけない人達のことが、私にはどうしても理解出来なかった。それは私が幸福に生きているからなのか、それすらも……そしてまた、あの底なしの闇に渦巻いていた憎悪と痛みを思い出す。


『だが』


 ぽん、と頭にのせられた大きな手の平の感触に意識をグイ、と引き戻される。いつだってこの手は優しくて、手探りしながらも必死に私を引き上げてくれた。


『お前がそうした世界の在り方に引きずられる必要はない。正しい事のために使いなさい……他者から押し付けられた形ばかりの正義ではなく、己の信じる正しさのために』


 そして、今こそが『その時』だと私は確信していた。


 ライの全身の構造を読み取れば、彼の病気が本当に心臓だけに巣食っているものなのか、それは本当に単なる病なのか、病だとすればどのような種類のものなのかという特定に一歩どころか何歩も近付くことができる。


 エルがそれをしないのは、単純に『出来ない』からだ。エルはライの心臓に巣食っているものが、単なる病気ではなく呪い絡みのものだと考えている。代々彼の家の直系の男子に、時折思い出したみたいに現れて、いつか心臓を凍りつかせて死んでしまうなんて病気が、普通には起こりっこないことくらい私にだって分かる。


 そこで問題になるのがエル自身の方で、あまりハッキリとは話してくれなかったけれど、エルの持っている力の中に呪いを促進させてしまうものがあるらしい。だから、あまり深くまでライに踏み込んで術を使ってしまうと、逆にライの病気が進行してしまったり、それどころかエルにまで呪いの影響が及んで共倒れになる可能性もある。


 エルは一度、ライの左腕を機関で作る時に、苦肉の策でその術を使って左腕だけを『読み取った』らしいけど、それ以上に踏み込めばライが危険だと言っていた。


 だから、私は考えた。エルが使えないなら、私が使えばいい。もちろん、私はライの心臓を食らいつくそうとしている病気とか呪いとかを、この目で見ることが出来たとしても、その種類を特定するなんてことは到底できない。知識も経験も足りなすぎるから。


 でも、エルがいる。何故かライが『君の父君は世界最強の魔法使いなんだから』と胸を張ってみせるエルが、実は他者の記憶に干渉する術を身に着けていることを私は知っている。私がもっと小さい時に、他者の記憶に安易に触れてはいけないと言い聞かされたことがあるからだ。その理由を、エルは『フェアではないから』だと言っていた。


 一方的に記憶を『盗み取る』ことももちろんだけど、人間は自分で意識している以上に沢山のことを覚えてるらしくて、そういう無意識の記憶とか、記憶に結びついている感情だとかを何もかも見ることができる……それこそ、本人すら知らない意識の全てを。それは想像するだけでぞっとすることだけど、それでも今回の話に関して言えばむしろ好都合なことになる。


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