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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第1章―嘆きの旅人―
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02 歩み始めた幸福 ③

「エル、だ」

「エルー?」


 酒よりマシだ、と思いながら頷くと、彼女は空中に片付けていた宝石の一つを私に差し出した。


「……私にくれるのか?」

「あい!」


 私は一瞬だけ迷ったものの、そっとリアの手から宝石を受け取った。


「頂こう……ありがとう、リア」


 そう告げて、少し大きめのガラス球の中に水の宝石を入れ、球そのものを丸みの帯びた立方体の形に成形する。それを棚の低い段……リアの目にも見えるような目立つ位置に置いてやる。


《イペンドレ》


 性質を固定させる言葉を口の中で呟く。これで、恐らくは水に戻ってしまうこともないだろう。


「ここに置いておくことにしよう」


 振り返ってリアに告げれば、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて頷いた。その笑顔を見るためだけにも、何だってしてやりたいと思うのだから、己も変わったものだと考えさせられる。だが、悪い変化ではないだろう。

 そう言えば、と不意に自分が先程までしていた作業のことを思い出す。作業台を振り返れば、記録簿は開きっぱなしで、空中には銀の入った球体が浮きっぱなしになっていた。これではリアに片付けをしろと注意できないではないか、と苦笑して私も自分の片付けに注力することにする。


 作業台の上に開きっぱなしになっている記録簿や、積み上げられた書物を棚の方に投げて戻していく。位置を覚え込まされている魔導書は、どれもが迷いなく在るべき場所へと吸い込まれるようにして収まっていく。

 足元の木箱を開けると、リアが急いで近寄って来て覗き込み、隙間なく敷き詰められた小さなガラスの立方体の輝きに歓声を上げる。彼女はこれがお気に入りだ。これまで幾度となく繰り返してきた実験の成果であり、既に何箱も同じようなストックは存在する。


 様々な金属に加える熱や圧力を変えながら、一つ一つ性質を丁寧に剥ぎ取ったものであり、これらの成果を元に測定器具を作成することが当座の目標ではある。今は光の反射率の測定が目的であるため、金属光沢という性質のみを剥ぎ取るなどと言う、自然界ではおよそ考えられない実験を行っているのだが……

 他のものと同じように銀と光の入ったガラス球を立方体に変形させ、ラベルを貼り付けて箱に放り込む、はずが途中でリアに奪われてしまう。


「リア、これは遊ぶものでは、っ!」


 少し目を離していた隙に、積み木遊びが始まっていた。


 それも、よほど気に入ったのか光の封じ込められた立方体ばかりを選び、それらを楽しそうに積み上げていく。いや、ガラスとは言え落としても割れるような代物ではないから、危険性はないものの複雑な心地がする。


(まあ、良いか。片付けも終わっているようだし)


 気付けば水の宝石も、私が魔法で保護して飾ったもの以外は、綺麗に部屋の中から消えている。積み上げられた光の立方体は、箱となっているガラスに反射してキラキラと光り、やっていることは積み木遊びであるのにどうしようもなく美しい。

 光の精霊の加護を受けているから、というのもあるのかも知れないが、リアは光り輝く美しいものを好む。普通の子供が何を好むのかは知らないが、まあ……好きなものくらいは好きにさせてやりたいと思う。


「遊び終わったら、きちんと片付けておきなさい。私は食事を作ってくる」

「あい!」


 と、元気な返事は良いものの台所は一つ階が違う故、さすがにこの歳の子供を一人きりにしておく訳にもいかず。こう言う時の対処法は決めてある。しかし、いつもは呼ばずともまとわり付いてくる小動物が、最近は滅法おとなしく近寄って来ない。


「……ラス」


 あまり呼びつけるのも悪いが、背に腹は代えられない。静かに名前を呼べば、恐る恐る、と言った感じにウサギの鼻先が本棚の陰から現れた。何故そんな所にいる。


「悪いが、また子守りを頼めるか。何かあったら呼んで欲しい」


 屈んで声を掛ければ、にじにじと本体が姿を現す。ラスは気を付けていなければ踏み潰してしまいそうなくらいに小さなウサギで、長い付き合いになるが全く成長しない。フェザーラビットと言う種族であり、アッシュグレーの柔らかな毛並みに小さな身体、何よりも背中に生えた翼が特徴的な生き物である。因みに飛距離は短いものの、ちゃんと飛べる。

 そんな愛らしい見た目をしているものの、実を言えばコレの中身、というか魂は犬だ。それも黒い体躯に赤い瞳を持ち、炎を吐き人をも喰い殺す、ヘルハウンドと言うかなり(いか)つい犬の魂が封じられている。否、封じられていると言うのは語弊であり、自ら進んでウサギの身体に収まっている。


 かつて、ヘルハウンドなる存在など知らなかった私は、道端で黒い犬が明らかに人に負わされたと思しき剣の傷で死にかけているのを見掛け(今になって思えば討伐されただけに違いない)気まぐれで傷を手当し命を救った。それが恩義を感じたらしく、私に付き従うことになった訳だが、この件以降は無闇に野生の獣に手を出さないと心に誓っている。これ以上、とんでもない代物に懐かれたくはない。

 ともあれ、私の従魔の如き存在となったヘルハウンド……ラスにも寿命があったらしく、数年前に出先で天寿を全うすることになった。ここからが驚かされる話で、彼は死の間際にヘルハウンドとしての自分の肉体を捨て、近場の適当な動物の魂を奪って乗っ取るという死霊術じみた芸当をやってのけた。それが今のフェザーラビットである。


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