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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
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01 不完全な狩人達 ④

《守り手は全ての生き物の頂点に君臨する者。全てのダイアウルフの父であるだけでなく、森に生きる者全てが目となり耳となる。自ら動かずとも手脚となって周囲が動く。オロケウやメクトゥシを見ていれば分かるだろう。それだけの敬意を払われるに値する者だと言うことだ》


 それは何となく分かる、と私は頷いた。オロケウとメクトゥシが他とは『違う』のだと言う事は一目で分かる。普段は父さん、母さんと呼んで甘やかしてもらっているけど、群れのリーダーとして統率しているのを遠くから見たりする時なんかは、実は神様らしいと言われたら信じてしまいそうな重々しさを感じる。実際、それに近い存在なのかもしれない。


《あれを見る限り、守り手としての器が俺にあるとは到底思えない》


 そうかなと首を傾げたくなるけれど、こういうのは自分がどう思っているのかが一番重要なのだと、そう思った瞬間にそれは今の私と同じなんだと気付いて思わず笑ってしまいそうになる。周りがどれだけ褒めてくれても、自分が納得できていないから、褒められるほど自分が悪いことをしているか騙しているみたいな申し訳ない気持ちになってくる。


 兄さんが言ったのとは別の意味なんだろうけれど、確かに似ていると、そう思うと少しだけ気が楽になった。自分のことを外から見ることは出来ないけど、兄さんを通してその目に映る私は、きっと一番真実に近い私だ。本当の自分を直視することは怖いけれど、それでも兄さんの銀色の瞳は綺麗だから、それに吸い寄せられるように覗き込む。


《兄さんだって、たかだか十数年しか生きていないんでしょう?普通のダイアウルフで考えたら立派な一人前なのかもしれないけど、オロケウなんて何十年生きてると思う?》

《……さあ、俺には検討もつかないが》


《私も知らない。想像もつかないくらい、長生きしてる『神狼(しんろう)』と今のちっぽけな私達を比べても仕方ないよ。同じ種族だって、成長はダイアウルフの中でもそれぞれ、でしょ》


 自分の言葉を真似されたことに気付いたのか、兄さんの瞳がハッとしたように揺れ動いた。いつだって私達を見守って導いてくれる存在の兄さんでも、こんな風に心の中で抱えているものもあるんだと思いながら、それを受け止められるくらいには大人に近付けた自分が今だけは少し嬉しいと思う。


《大好きよ、兄さん》


 首筋に抱きついて「くぅぅん」と久々に甘えた鳴き声を落とす。普段はあまり口にすることはないけれど、いま必要なのは『言葉』で届けることだと本能的に感じていた。ううん、伝えたかったんだと思う。伝えたいことは、伝えられる時に。時間は私達が思っているよりもずっと早く、何もかもを押し流していってしまうものだから。


《ありがとう、リア》


 ロロは私の頬をそっと舐めて、気持ちを切り替えるように私の横に立った。その視線の先には解体途中でほったらかしにされた鹿がそのままになっていた。私達は顔を見合わせて苦笑すると、残りの作業を済ませてしまうことにした。とは言っても、私が家に持ち帰る分の部位を切り取ってしまうだけなんだけど。


《はい、おしまい》


 今日の戦果はランプ肉……脂身の少ないお尻の部分のお肉で、量は少ないけど柔らかくて美味しい。後は、あばら骨まわりの肉を少し。大きかった牡鹿は、それだけでも私が持ち帰るには結構の分量になる。


《後は兄さん達で食べてね。あばらの所、ちょっともらっちゃったけど》

《お前の獲物だ。好きにすると良い……ここ数日はオロケウの体調が優れなくてな。代わりに俺が狩りの指揮を執っているが、なかなか上手くいくものでもない。冬支度が全く追いついていない故、鹿一頭でも今はありがたい。これだけの大物ならば、尚更だ。後で群れの者を呼び出しておく。まだ寝坊助どもはようやく起き出した頃だろうからな》


《ふふ。うん、そうして。でも、父さん大丈夫かな?》


 ロロはそこに関しては大して考えることもなく頷いたから、私はホッと胸を撫で下ろした。


《少し体調を崩しているだけだから、大事はない。年甲斐もなく、連日遠出で狩りなどと言う無茶をするからだ。良い薬だろう……小さい弟どもはキャンキャン騒いで煩いから俺が黙らせている。むしろそちらの方が大変だ》


 喉奥で呆れたように唸るロロに、私は思わず噴き出してしまった。


《兄さん、ちゃんと群れのリーダーやれてるよ。心配しなくても》

《……そうだろうか。単純に子供に振り回されているだけのような気もするが》


 育児に手を焼かされる子持ちの狼みたいにボヤくから、ますますおかしくなって笑いが止まらない。そんな私を呆れたように見ていたロロも、少し雰囲気が柔らかくなっていたから、今はそんなに心配しなくても良さそうと安心する。


《まあ、お前も時間が空いたら顔を見せてやるといい。あまりに退屈で日がな一日欠伸ばかりしているからな……メクトゥシには『寝惚(ねぼ)けオオカミ』と蹴っ飛ばされていたが》

《ああ、母さんならやりそう。うん、明日にでも会いにいくよ》


《そうしてやってくれ。オロケウも喜ぶだろう……しかし、この分だとお前も旅立ちの時は近いようだな》


 私はロロの言葉に苦笑して首を横に振った。



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