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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第1章―嘆きの旅人―
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07 約束が果たされる時 ④

『ライっ!』

『リア、少し離れて居なさい』


 名を叫んで駆け寄ろうとするリアを押し留め、髪を振り乱して呻き声を漏らしながら痛みに耐える姿に、心を殺して観察と安全の確保に努める。崩れ落ちたまま痙攣する身体を念のため横向きにし、呼吸が止まればすぐ対処が出来るように備える。一先ずは息が出来るようにと胸元を緩め、彼が怪我などする事の無いように近場の椅子や障害物を避けておく。


 心境としては背中でもさすってやりたい所だが、下手に触れると余計に痛がる故に発作中は、万が一呼吸や心臓が停止した時に備えてただ見守ってやる事しか出来ない。こうして呪いに痛めつけられて藻掻き苦しむ姿を見る度に、彼が常に死の淵で佇んでいる存在であることを思い知らされる。己のしている事など、単なる自己満足のその場しのぎでしかなく、ただ徒に友を苦しめているだけなのだと嘲笑われているようで。


『ライ、いたいの?』


 獣のような呻き声を挙げながら、無意識に助けを求めて彷徨う友の手を握ってやる事も出来ず、立ち尽くす私にリアが問いかける。その瞳は泣きそうな色に揺れていて、ライが痛いと叫ぶ度に、ビクリと全身が慄く。

 フラフラと彼に歩み寄るリアに気付き、慌てて押し留めようとした所で声が聞こえた。


『だい、じょぶ……だよ、リア』


 荒い息と呻き声の隙間に、ライはかすれた声で必死に言葉を紡いでいた。意識を保つだけでも精一杯の状況であるはずなのに、改めてこの男の精神力に恐れのようなものを抱いた。以前、どれだけの痛みなのだとライに聞いた事がある。彼はへらりと笑って『細剣でズタズタにされた時くらいかな』と言っていたが、この男が実際に細剣で負わされたばかりの傷を見た事があったし、その時治療したのも私であったため全く笑えなかった。


『心臓が、ね……ちょーっと、わるくって、さ……くっ、はは。よくある、ことだよ』


 全身に滝のような汗をかきながら、ひゅうひゅうと酸素を求めて苦し気な息を重ねながら、それでもライは笑う。それでも心臓を掻きむしる手は、白くなる程に強く握り締められていて、全身を走る痛みで無意識に身体が跳ねる。

 不意にリアの手が伸ばされて、小さな手が心臓を握りしめる震えるライの手に重ねられた。一瞬だけ痛みに漏れた声を精神力で抑えつけたライは、薄く目を開けてリアを見上げた。


『リ、ア……?』


 その声に応えるように、リアが祈るように目を閉じた、その瞬間だった。



 光が、そこにあった。目を刺すような眩い光ではなく、包み込むような優しい光が。



 一瞬とも永遠とも思えるような時間の中に瞬いた光は、目を見開くライの胸へと吸い込まれるようにして消えて行った。


『リアっ』


 フラリ、と倒れ込むリアを駆け寄って支え、素早く呼吸と状態を確認して安堵の息を吐く。


『……眠っているだけだ』


 私の言葉に、床に伏したまま泣きそうな表情でリアを見ていたライが、長く穏やかな息を吐き出した。



『あ、れ……?』



 何かが抜け落ちたかのような声で、ライが呟いた。


『息が、できる……痛いけど、痛くない』


 私は彼が発作の直後に身体を起こして、普通に言葉を発していると言う異常事態にようやく気付いた。抱きかかえたままのリアを、そろそろ片付けようかとすら考えていた揺り籠に一先ず寝かせると、すぐにライの触診を始めた。


(痛みから出る汗の分泌は止まっている。変に強張っている箇所もない……脈拍は正常、とは言い難いが、この男のしかも発作後である事を鑑みれば安定し過ぎているくらいか)


 いつもはぞっとする程に冷たい指先も、少なくとも私の体温と然程(さほど)変わらないくらいには上がっているようにも思えた。それでも十二分に低い事は確かだが。


『痛みはどうだ』


 指先から徐々に心臓へと辿って行き、痛みの程度を確かめさせる。


『指先から腕は、ピリピリ痺れてるくらいの軽い感じ。肩は……っ、ちょっとそこは痛かったかな。でも、いつもそこの関節動かせないくらいに痛いのと比べると、全然マシだね。あと、心臓は押さなくても相変わらず痛いよ』


 心臓は避けて、今度は脚の爪先から辿るも腕と同じような反応が帰る。


『腹部は。押しても問題ないか』

『うん、ちょっと押してみて。っつ……ああ、でも、前みたいに触っただけで気絶するくらいの痛みじゃないね』


 力無く笑う姿を、私は信じられない思いで見つめていた。実際、触れただけで痛みに絶え切れずに気を失う姿を、幾度となく見せつけられている身としては。


『……あの光は』

『君に分からないなら、僕には分からないけど』


 そう肩を竦めると、ハッとしたような表情で心臓に手をやった。


『そう言えば、ここに』


 慌てたようにチュニックを脱ぎ捨てたライの左胸に現れたものに、私達は息を呑んで顔を見合わせた。


『ダエグ……』

『君、リアにルーンなんて教えた?』




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