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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第5章―追憶の旅路―
275/277

02 赤と灰の大地を超えて ①

 

 *



 02 赤と灰の大地を超えて


 いつでも一緒の友達と

 いつまでも一緒とは限らない

 それでも通じてるもの

 それを信じられるかどうか



 *



 どこまでも赤い砂漠の上を、小さなスナトカゲが駆けて行く。


 初めて見た時には心を浮き立たせてくれた砂の海も、そのうねりが少しずつ形を変えて行くほかには何も変化がなく、どこか乾いた気分にさせていく。


 口の中はカラカラで、口元を覆っていても入り込んでくる砂がジャリジャリと気持ち悪い。それでも貴重な水を一人だけいっぱいに呑むことも出来なくて、自然と無口になりながら長い長い灼熱の道なき道を行く。


 ロロ兄さんも暑さにやられるかと思いきや、意外と大丈夫そうな感じで足を進めているけれど、やっぱり無口であることに変わりはない。


(ただ、いま気になるのは……)


 隣を行くシドのことだ。シドも元々無口だけれど、都を出てから一言も喋っていない。黒い体表で、物語に出てくるドラゴンに似たスケルツォに(またが)り、(くれない)のターバンを口元まで引き上げた姿はなんだか知らない人みたいにも見えて。


 やがて陽が落ちて空が暗くなる頃、時間をはかったようにオアシスへと辿り着いた一行は、いつも通りに野営の支度を始めた。少しずつみんなに活気が戻って来るのを眺めながら、私はスケルツォに水を飲ませているシドのそばに駆け寄った。


「リア」

「シド……本当に良かったの?」


 言ってから、言葉が足りなすぎることに気付く。ただ、それだけで意味を理解してくれたシドは、頷いて口元のターバンを引き下げた。


「むしろ、感謝している。貴族の警護などと、面倒な仕事を引き受けてくれて」

「警護するのは、主にライとユミルだけどね……だから、帰り道はシド一人になっちゃうよ」


 シドは「そういうことか」と呟いて、口元を緩めた。


「心配してくれるのはありがたいが、俺はイゾルデからも一人で帰ったからな。隣国のクラリスからならば道も良く知っている。ただ行きの口実が欲しかっただけだ……そのあたりは、兄上も承知の上だろう」

「そっか」


 少しだけ安心した私は、木にスケルツォを繋いだシドと一緒に、みんなから少しだけ離れて腰掛けた。ほんの少し会わずに離れていただけなのに、前よりずっと大人びたシドを横目に、何を話せば良いのか分からないなんて初めてだと思った。


「……婚約者さんのこと、心配?」

「ナターシャか……正直に言えば、彼女は俺がいなくても大丈夫だろうと思っている。ただ、両国の先々のことを話したくて……いや違うな、お前相手に(つくろ)っても仕方ない。ただ、会いたかった」


 その言葉に小さな熱が(とも)った気がして、ハッと顔を上げる。シドは虹色の瞳を夕焼けに滲ませて、どこか遠くの誰かを見つめていた。


「好き、だから?」

「どう、なんだろうな。俺達は好き合って出会ったわけじゃなくて、子供の頃から決められた政略結婚だった。でも、そうだな……彼女のことは、運命を共にする人だと思っている」


 シドが口にした言葉は、その意味と共にとても「しっくりくる」言葉だと思った。


「お前と、こんな話をする日が来るとはな。何かあったか?」

「……シエロが、私のこと好きだって」


 シドは少しだけ目を見開いて、すぐに納得したように頷いた。


「まあ、そうだろうな。ただ、こんなにも早く認めるとは思わなかった」

「でも、私には恋とか愛とか……その時にはよく分からなかったの」


 少し考え込んだシドは、小さく首を傾げて言った。


「今なら分かるのか?」

「今も分かってない、と思う。でも、これを読めば分かるかも」


 私は(ふところ)から例の、エルが書いた手記を出して夕陽にかざした。


「それは?」

「私のお母さん……アリステア姫様のことを、エルが書いてるの」


 私の言葉を噛み砕くように目を閉じたシドは、理解したように頷いた。


「驚かないのね」

「まあ、お前とシエロは良く似てるからな」


 そんなことを言われたのは初めてで、少し照れくさいけれど素直に嬉しいと思った。


「あまり、おいそれとは口にしない方が良い事実だろうが」

「それも最近分かってきた……シドだから話したの」


 シドは深々と頷いて承知すると、私の手元の手記に視線を落とした。


「それで、それを読めば分かるのか。愛について」

「うん……きっとエルは、お母さんのことを愛してたから」



 *








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