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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第5章―追憶の旅路―
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01 灼熱の都へ ㉑

 

「はっはっはっ、そんなことがあったとは」


 珍しく声をあげて笑うザザに加えて、リィンなどは腹を抱えて笑い転げている。


 何度となくイスカーンを訪れているらしい一座は、当然ながらオルシーファン家のことを知っており、リアから事の顛末(てんまつ)を聞いてこの有様だった。


 ここまで来ると、しょんぼりと肩を落とすリアが哀れに思えて来て、俺は先輩を振り返って声を潜めた。


「先輩、どうにかならないんですか。先輩の身分証なら、どんな場所でも一発でしょ」

「僕は今回、一応お忍びだからなぁ……よっぽどのことがなければ、アレは出せないよ」


 苦笑する先輩に、俺もリアに対して相当甘くなってるなと思い直す。


「……でも」


 ふと落ちた声に振り返れば、タンジマールが悪戯を思いついたような表情でうっそりと微笑(ほほえ)んだ。それも相当にタチの悪い悪戯だ。


「それなら『なんとか』なるかもしれないよ」


 その翌日、俺達に輪をかけて甘い人種がいることを思い知ることになるのだった。




 *




(……いや、どうしてこうなった)


 キィン、と。

 美しい『魅せる』ための薄刃の剣が鮮やかな音を立て、鋭く貫くような視線に合わせて手首を返す。本来の戦いでは全く不要な(ひね)りを加えながら、踊るように足を滑らせて舞う。


 俺と先輩は今、即席の剣舞を披露していた。


 眼の前では酒宴に(ふけ)るオルシーファン家の重鎮達が揃い踏みし、目の肥えているであろう彼らに素人だとバレやしないかと、涼しい顔を作りながらも背筋を冷や汗が伝う。


(さすが先輩、無駄に多芸だ……)


 本職にも引けを取らないような堂々たる立ち回りで、戦場で使うための技を『美』にまで押し上げている。俺はそれを鏡写しに真似をしているだけで、心底精一杯である。オルシーファン家のお歴々も全く気付かない様子で、酒を楽しみながら政治と商売の話に勤しんでいる。


 どうしてこうなったのか、は勿論リアがオルシーファン家に乗り込むにあたって、タンジマールの一座が手を貸してくれることになったのであり。


(……あれが『シド』とやらか)


 お嬢のお目当てのシドニア・オルシーファンは宴の中で独り難しい顔をして、こちらに時折目をやる他は何かを考え込んでいるようだった。


 俺達が出番を終えると、次はお嬢の番で、しかしシドニアは俯いたまま気付く様子はなかった……しかし。


 ふわり、と。

 お嬢が緩やかに手を振って、ご自慢の魔法で出来た精巧な鳥を現出させた瞬間、確かに鼻をひくりと動かしたシドニアがハッと顔を上げた。見開かれた虹色の双眸(そうぼう)に、お嬢がパチリとウインクを飛ばしてみせる。そして少年の横顔に、ようやく笑みが浮かんだ。


 ひらりひらりと、どこで習って来たのか美しい舞を見せながら、お嬢は水の鳥をさながら生きているかのように操る。魔法を使える者は限られていることもあり、このような芸に使われることもないからか、目の肥えた貴族達も息を飲んでその様に見惚れていた。


 場を支配した小さな魔法使いが、ニコリと笑う。こんな芝居にも手を抜かないお嬢は、どうやら隠しダネを披露するつもりのようだった。



「「「おおっ……」」」



 タンッ、と。

 足が踏み鳴らされてリズムが変わる。変則的で激しいステップを踏みながら、お嬢は指先から勢いよく炎のドラゴンを生み出した。


「魅力的だろう? 私が仕込んだんだ」


 タンジマールが悪戯の成功したような顔で囁き、先輩なんかは首の千切れそうなほど頷きを返しながら、ともすれば声援を送りたいのを必死に我慢しているような顔をした。


 なるほど、タンジマール直々の教えとあってか、素朴ながらも力強い舞は見る者の目を奪う。何よりその楽しそうな笑顔と、幼い容貌に似合わず高度な魔術の披露だけでも、多少は拙いところがあっても補ってあまりあるように思えるのは身内の贔屓目(ひいきめ)だろうか。


 水の鳥と炎のドラゴンは、じゃれ合っているのか戦っているのか、激しく絡み合いながら空間を飛び回る。やがて溶け合って一つの水玉となった二匹は、最後に花のような水飛沫(みずしぶき)を上げて消えた。



 どっと上がる歓声の中で、笑って応える姿は確かに少しだけ遠くに見えた。



 *



「リア」

「シドっ……!」


 駆け寄って抱き合う二人はお似合いのようにも見えたが、そこに恋愛の色はなく、ただただ互いに再会を喜ぶ兄妹(きょうだい)のようにも見えた。


「無事で良かった……もう二度と会えなかったらどうしようって」

「……そうだな、こうして会えて本当に嬉しい。少し背が伸びたか?」


 あたかも本当の兄妹かのような距離感で背を測るシドニアに、先輩が居場所をとられたかのような不服そうな顔をしている。子どもじゃないんだからと思いつつも、確かに不思議な二人だなとも思う。まるで共通点など無さそうな凸凹コンビで、それなのに少ない言葉だけですべてが通じる仲のようだった。







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