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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第5章―追憶の旅路―
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01 灼熱の都へ ⑲

 

 先輩は、しばらく黙って焚き火を見つめていたが、やがて決然とした瞳でザザを見据えた。


「ザザ、あなた方にリアを任せたいと言ったら?」

「それは、リア嬢が決めることですな」


 かなりの決意をもって口にしただろう言葉をバッサリと切り捨てられ、先輩は目をパチクリさせてから撃沈した。


「そう……そうですよね」


 ザザも意地悪から言ったわけではないのか、先輩の落ち込みように少し慌てた様子で隣へと場所を移すと、優しい口調で言葉を続けた。


「私もタンジマールも、おそらくは他の団員も彼女のことを気に入ってますし、出来ることならずっと旅をしたいと思ってはいる……ですが、大事なのはリア嬢の意思でしょう」


 ザザの穏やかな声に落ち着きを取り戻したのか、先輩は深々と息を吐き出して首を横に振った。


「僕も分かってはいるんです。でも、最近のリアは本当に楽しそうで……ずっとこうして、いろんな場所を旅しながら彼女の才能を発揮できて、陽の当たる場所でみんなから愛される、そんな生き方のほうが幸せなんじゃないかって思うようになって」


 俺達は詳しい事情を彼らに話したわけではないけれど、きっとタンジマールもザザも俺達がただの巡礼者などではなくて、少々『訳あり』な連中なのだと気付いてる。それでも受け入れてくれている(ふところ)の広い彼らは、まるで親か何かのようにリアを優しく見守っていた。


 今も先輩の話を聞きながら、彼よりよっぽどリアのことが『見えている』ザザは、小さな苦笑を浮かべながら先輩を見据えた。


「リア嬢と、そのことについて話はされましたかな?」

「……いえ、怖くて聞けなくて。肯定されるのも、否定されるのも、僕は怖い」


 か細い声で呟いた先輩に、初めて彼の弱さを目の当たりにしたような気がした。


「リアはきっと、迷わず僕と一緒に来てくれる。だけど、それを僕が望んでいるから……いつのまにか彼女の意思が、義務感によって急き立てられるものになってないかって」

「馬鹿な奴だ、目の前にある愛も信じられないなんて」


 不意に高いような低いような、甘やかで不思議な声が降ってくる。タンジマールだ。


「タンジマール、もうリア嬢とのお話はよろしいのですか」

「ああ。リィンに連れてかれてしまったけどね」


 魅力的な笑みを落としたタンジマールは、ついと先輩に真剣な瞳を向けた。


「ウチは、いくらでもリアの面倒を見る覚悟があるよ」

「……どうして、そこまで」

「彼女が真剣に、楽しんでくれているからね」


 出会って間もない子ども一人を預かる覚悟、というのは俺には想像もつかなかった。


「でも、彼女自身がそれを望んでいない。リアには覚悟がある……何かは知らないけど、おそらくはアンタに関わることで、全てをやり遂げる覚悟がね。その覚悟を受け止める器が、アンタの中にまだ育っていないんじゃないか?」


 トン、と軽く胸を指先で突かれて、先輩が心臓を貫かれたような表情を浮かべた。


「そう、か……そうなのかも、しれない」


 何かが抜け落ちたように呟き目を伏せた先輩に、タンジマールとザザは視線を交わして先輩の肩を叩いた。


「ま、今日は大人同士で呑もうじゃないか」

貴方(あなた)の話も、いつか聞いてみたいと思ってましたからね」


 そんなお人好しの群れに苦笑して、俺は静かに席を立った。先輩が何を抱えているのか詳しくは知らないけれど、あの二人に任せておけば大丈夫だろうと思ったから。


 茜色に染まる世界の向こうは、既に夜の薄青に塗り替えられて、真白い月が出ていた。


「愛する覚悟……愛される覚悟、ね……」


 それは、愛することよりずっと難しいのかもしれない、と思う。


「ユミルにも、分からないの?」


 樹上から聞こえた声に、思わずビクリとして振り仰ぐ。俺にさえ気配を悟らせない身のこなしに、本当に彼女は何者なんだろうと思う。


「お嬢、驚かせないでくださいよ。リィンに連れてかれたんじゃなかったんですか」

「そのリィンが、クインシーに連れてかれちゃったの」

「あぁ、あの二人……良い感じですからね」


 言ってから『お嬢にはまだ早かったかな』と考えるあたり、俺も大概彼女のことを甘やかし気味になってきていると思う。すると意外にも、リアは難しい表情で俺の隣へと降り立った。


「愛には色々な種類があって、恋と愛は違う時もあるって……ユミルには、違いが分かる?」

「……お嬢は、普通は年食ってから気付くだろう、親とか兄弟とか、そういうもんへの愛に早く気付いちまったんじゃないですか。だから多分、まだ恋に出会ってないだけですよ」


 珍しく困り顔のリアに、珍しく俺も真面目に返してやれば、さらに複雑な表情が帰る。


「そう、タンジマールもそう言ってた。まだ私が出会ってないだけって……でも私は、多分出会っていたのに気付かなくて、傷付けてしまったの」

「だから、会えなかった?」


 図星と言わんばかりに目を見開いたリアに、俺は笑って腕を組んだ。


「それぐらい、見てれば分かりますよ。アグナスティアで、誰かを探してる感じだったでしょう……街中なんかで、会える相手じゃないのに。違いますか」

「ユミルって、魔法使いだった?」

「それなら良かったんですがね……俺から一つ言っておくとすれば、大事な相手は生きてるうちに会っておくことですよ。いつ死ぬか、いつ会えなくなるか、誰にも分からないんだから」







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