01 灼熱の都へ ⑱
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「お嬢、お嬢――」
すっかり呼び慣れてしまった呼称を口にしながら、森の中を彷徨う。
(ったく、タンジマールもどうして俺に……)
リアを探すならば、先輩に尋ねた方が早いに決まっているのに、タンジマールはいつも俺をみて悪戯っぽそうな顔で「リアはどこだい?」と探しに行かせる。
結局は俺が先輩に聞いて、二人がかりで探すことになるのだから手間は同じだと思うのだけれども。
(……ただ、俺の方が見つけるの早くなってきてるよな)
それもタンジマールの思惑通りなのかどうかは知らないが、俺はリアを見つけるのがどうにも得意なようだった。秘訣は樹冠だ……人間の目にはなかなか触れない、だけど陽光の暖かく差す、静かな場所。
「あぁ、いた……見つけましたよ、お姫サマ」
彼女が本当に王族の血を引いてる、なんて中々に重くて、しかもまだこの世の誰も知らない秘密を打ち明けられて。あれからまだそれほど日も経っていないのに、ずっと長くこの旅を共にしているような気がする。
当のリアと言えば、いつものように『兄貴』だとかいうバカでかいオオカミと一緒にいて、兄貴の方はナイトよろしく眠るリアを守るようにこちらを見据えていた。
こうして彼女が眠っている姿を見ると、本当に姫様みたいに綺麗な子どもだと思う。中身は半分が天才的でも面倒な研究者で、半分が森の王者的な野生児だと気付いてからは、どんなに見た目が美しくても騙されないぞと思うようになったが。
「こんにちは、ロロ。ちょっとリアを起こしてやっちゃくれませんかね、タンジマールが呼んでるんで」
大抵のことはこのオオカミに言えば何とかなる、と気付いたのは最近のことだ。下手をすれば人間よりも賢くて、時折ぞっとすることもある。
今も溜め息を吐きそうな『やれやれ』といった表情で喉を鳴らし、鼻面で優しく彼女を揺り起こした。
「ん……兄さん? あれ、ユミル」
あっという間に理性を取り戻した寝起きの瞳に、自分がまだ彼女に警戒されていることを知り、少しだけ彼女を可愛く思う自分も大概ゆがんでいると思う。
そう、そうやって警戒しておいた方がいい。俺は任務のために同行しているだけで、決して心を許せる仲間なんかじゃない。
「探しにきてくれたの?」
「タンジマールが呼んでます」
せめて探さなくても済む場所で眠ってくれと言いたいところだけれど、グッとその言葉はいつも飲み込む。矛盾しているようだが、人間を愛してやまない彼女は、人間の多いところだと色々と溜め込みやすい。
彼女には兄貴であるオオカミと森の中で眠る時間が必要なのだと、きっとタンジマールも気付いていて黙認している。
(これから行く、イスカーンとかどうすんの……)
そんなどうしようもないことを思いながら、立ち上がって「ありがとう」と告げたリアの背中を見送る。
「アンタ、砂漠とか適応できるんすか?」
残されたロロというオオカミに問いかけるも、鼻を鳴らされるばかりで良く分からない。
仕方なく首を振って「それじゃ」と、その場を後にすればオオカミも森の奥へと消えて行った。今度は先輩を探さなければと溜め息を吐くと、今日は向こうから俺を見つけてくれた。
「ユミル、リアは見つかったかい?」
「今頃、タンジマールのところですよ」
俺が返せば、思った通り先輩は渋い顔をした。
「なんでだろ……僕が探すと、昔から見つからないんだよね」
それは先輩の探す場所が眩しすぎるからだろう、と思いはするものの口にはしないでおく。先輩はリアに理想を見すぎているところがあるからか、日の当たる場所ばかりを探している。彼女には、ちょっとした木漏れ日だけでいいのに。
「最近のリア、楽しそうだよね」
「お嬢はいつも楽しそうなんで、俺にはよく分かりませんけどね」
リアは狩りの時も、研究の話をする時も、兄貴であるロロの背に揺られて何かを考えている時も、いつだって楽しそうな顔をしている。
ただ、先輩が言いたいのはもっと別のことなんだろうと、さすがの俺も分かっていた。先輩は複雑そうな表情で、黙ったまま野営地に戻った。
一座は宿場町を転々としながら、既にイスカーンとの国境線を目前としていた。そろそろ木もまばらになり始め、岩場が続いた後に砂漠が見えることだろう。
「ザザ」
「あぁ、戻りましたか」
野営地では手品師のザザが魔法のような手際で焚き火を組んでいる最中だった、適当なところに腰掛けた俺達は、焚き火が組まれて俺達の……主にリアの戦果であるヨルカの肉が捌かれていくのを黙って見ていた。
ヨルカは森の外縁に生息する、すばしっこいヤギのような鹿のようなヤツで、なかなか捕まえるのが難しい。それを弓矢で一撃なんだから、全く彼女の狩りの腕は恐ろしいもので。
「何か、悩み事でも?」
あらかたの仕事を終えたザザが、もはや肉をじっくりと焼くだけの段になり、黙りこくった俺達に話を向けた。その苦笑が俺に向いているのを見て、俺も苦笑を返す。
ザザも、悩み事は先輩にあるのだと分かっているのだ。




