表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第5章―追憶の旅路―
266/277

01 灼熱の都へ ⑭

 

「ちょっと、お嬢!」


 背中に焦ったようなユミルの声が聞こえたけれど、今は一歩も退()きたくはなかった。


 私の言葉に座長……タンジマールは、さっきまでの優し気な表情から一転、鋭く品定めするような瞳で私を見据えた。


「へぇ、お嬢さんの細腕で、一体何が出来るって言うんだい? 見れば分かるだろうけど、ウチは一流揃いでね、生半可な芸じゃ間に合ってるよ」

「弓になら覚えがあります」


 そう告げて、背中に背負った弓矢を素早くつがえると、手近な木に連続で三本の矢を撃ち込んだ。


 座長は少しだけ驚いたような顔で矢を見に行くと、確かに三本とも同じ場所へと刺さっていることを確認して頷いた。


「確かに、大した腕だ。だけどもちょっと見栄(みば)えがね……」

「ナイフなら?」


 使い慣れたナイフをすらりと抜き、勢い良く投げた刃が彼女の髪を(かす)めた。


 弓矢と同じ場所に刺さったナイフに目を丸くしている座長へ、畳み掛けるようにパチリと指を(はじ)いて炎の玉を三つ宙に浮かべる。


「魔法もこの通り」


 ちょっとぎこちないけれど、魔法炎でお手玉をしてみせた私に、座長は素直な笑顔で手を叩いてくれた。


「素晴らしい、とんだびっくり箱だね。そこのお付きは、護衛として雇えば良いのかい?」

「追加でもう一人、頼みますよ」


 ふわりと降って来た優しい声と手の温もりに、私は少しだけホッとして振り返った。


「ライ、もう大丈夫なの?」

「まあ、こってり絞られたけどね。それより、まさか僕がちょっと目を離した隙に、こんな面白いことになってるなんて思わないよ。いつの間に、こんな芸達者になったのかな僕のお姫様は……失礼、彼女の保護者のライナスです」


 遅れて挨拶するライに、座長が苦笑して差し出された手を握り返す。


「これはまた、腕の立ちそうな護衛を二人も引き連れて……面倒事じゃないだろうね」

「いえ、僕が病気がちなもので。三人で教国を目指してまして」

「なるほど『巡礼者』かい、それは無碍(むげ)に出来ないね」


 少し考えこむ素振りを見せる座長に、私はふと思い出して遠慮がちに告げた。


「えーっと、今はいないんですけど街の外にダ……ワーウルフが一匹控えてて」

「採用」


 びしり、と指を突きつけられてパチクリと目を瞬かせる。


「デカい動物ってのは、いるだけで人目を惹くからね。大した給料は出してやれないけど、それでも良いなら次の国まで一緒に来るといい」

「あっ、ありがとうございます!」


 まさか了承されると思っていなかったところに、兄さんが最後のひと押しになってくれたらしい。


(後で見世物になるかもしれないって、謝らないと……)


 そしてその前に、謝らなければならない相手がいる。


「勝手に決めて、ごめんなさい!」


 少し呆れたような表情のユミルに、面白そうに笑んでいるライ。二人とも怒ってはいなそうだったけれど、それでも頭を下げて謝った。


「別に僕は構わないよ、道中はリアの自由に任せてるし。なんだか楽しそうじゃない?」

「全く、先輩はお嬢のことになると甘すぎるんですよ。まあ行き先も同じみたいですし、どのみちお嬢の警護ってことに変わりはないですし、良いですけど」


 深々と溜め息を吐くユミルに、ライが驚いたような表情で振り返る。


「あれ、一緒に来るつもり? さっき陛下から、ユミルの護衛任務は解除って」

「サラッと嘘吐くのやめてもらえます? 陛下はそういうの、お見通しなんで。勅書です」


 (ふところ)から出した紙をひらひらと振るユミルに、ライが珍しく顔を歪めて引ったくる。素早く目を通しながら、その顔がだんだんと生気を失っていくのが、少しだけ可笑(おか)しかった。


「うっわ……つまり?」

「このまま俺も、旅は継続ということです。残念ながらね」

「ほんっとうに残念だよ!」


 叫んで紙を握り潰しそうながらも、勅書であることを思い出してか丁寧に畳む姿に、つい堪えきれず笑ってしまう。


「まあ、良いじゃない。ユミル、いい人だし」

「だ、そうですよ。先輩」

「……いつの間にか仲良くなってないかい、二人とも」


 何があったのかと探るような瞳を向けるライに、私はユミルと顔を見合わせてクスクスと笑い合った。


 何かが大きく変わったわけじゃないけれど、それでも確かに通じ合うものがあった。


「次はイスカーン、ですか……既に遠いですね」

「エルディネが広いからね」


 これからお世話になる一座の(にぎ)やかな荷馬車を見つめて、これからの旅に思いを馳せた。


 イスカーンには、シドがいる。


 シドと別れてからまだそれほど経っていないはずなのに、こんなにも懐かしく感じるのは何故だろう。



(……シエロにも、結局会えなかった)



 会う勇気が、なかったのかもしれない。あの白亜の城の門を叩く、勇気が。


 友を裏切るような気持ちを抱えて、この地を去るのが苦しかった。


 シドにも会うことが出来るのか、得体の知れない不安も渦巻いて。



(それでも、進まなくちゃ)



 あらゆるものが変わってしまうのだとしても、前へ。


 そう心に決めて、新しい居場所へと歩き出した。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ