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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第5章―追憶の旅路―
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01 灼熱の都へ ④

 

「そう?」


 ユミルは頷きながら、急に良く回り始めた口で機嫌よく語った。


「道中も話を聞いてましたけど、さすがは学院帰りなだけあって博識ですし、かと言ってそれをひけらかすでもなし。先輩のことを大事にしてて、先輩もお嬢を大事にしてるのが伝わって来て、良い二人組だなと思わされるわけですよ」


 そんな風に言われて嬉しくないわけがなく、私はニコニコしながら彼の話を聞いていた。


「それで、そろそろ旅の目的を教えてもらえませんかね。二人の様子を見るに先輩の言う『愛の逃避行』ってのはなさそうだし、お嬢が深い理由もなしに病弱な先輩を旧エルフ領なんて遠くまで連れ出すとも思えませんし」

「ライから聞いてないのに、ついてきてたの?」


 私が驚いて問い返すと、ユミルは疲れたような表情で頬を掻いた。


「旅に随行し、見届けよってのが御下命(ごかめい)なもんで。そこに疑問を挟まないのが、良い仕事人ってやつですよ……ってのはともかく、実際のところは先輩が何も理由を告げずに、あらゆる仕事を放り出してバカみたいな置手紙なんかしたのが悪いんですけどね。場合によっては、実力行使で引き返させるのも俺の役目ですよ。気が重いというか、荷が重いというか」

「それは、なんというか……」


 お疲れ様、と心の中で呟きながら『仕事』というのは大変なものなんだなと思う。


「別に隠すようなことでもないと思うから言うけど、今回の旅はライの病気を治す手がかり探しなんだ」

「先輩の病気を、治す……そんなこと出来るんですか? あれって先輩の家に代々伝わる」


 ある程度の事情を知ってるらしいユミルに頷いて、私はこれまでのいきさつをザックリと語って聞かせた。ライの病気が実は複雑な(いにしえ)の呪いによって引き起こされていること、それを解くために学院へ行ったこと、さすがに『真実の書』のことはボカしたけれど、呪いを解くために必要な手段が分かったこと。


「今なら延命の手段も分かってるけど、それだと根本的な解決にはならない。呪いを解くためには失われた七つの種族の儀式を受けなくちゃいけなくて、まずは場所の分かってるエルフの都から行こうかなと」

「『まず』にしては遠すぎる……そんな途方もない話、お嬢も先輩も信じてるんですか」


 私はその言葉に微笑(ほほえ)んで、少しだけ『真実の書』のことを考えた。


「たとえ突拍子もないように見えても、初めて(つか)んだ手がかりだから。何よりライが『生きたい』と思ってくれるなら、行くべきだと思ったの」

「生きたい、ですか……あの先輩が」


 私が頷くと、ユミルは途方に暮れたような表情で溜め息を吐いた。


「その話、信じるかどうかはともかくとして、二人の事情は分かりました。どのみち生きててもらわないと任務も遂行できないんで、陛下もお許しになるでしょう。ひとまずは引き返さずに済みそうですけど、俺の方はこれからの長い旅程を考えてゲッソリですね」


 大袈裟(おおげさ)に肩を落としてみせるユミルに、思わずくすくす笑っていると、恨みがましそうな視線がかえってくる。


「なんて言うか、お嬢は軽装で旅慣れしてる感じですよね」

「そう? ライほどじゃないと思うけど」

「あの人は異常です」


 バッサリと切り捨てたユミルに、やっぱりそうなんだと笑う。


「前にフィニアス師と旅した時に、魔法使いをやってたら大抵のものは必要ないって分かったからかな」

「フィニアス師って……マスター・フィニアスのことっすか。アンタの人脈どうなってんです、本当に。前々から時折あの人が雲隠れするって、俺らの間で評判になってましたけど」


 どこでもあの人は有名人なんだなぁ、と思っていると、不意に真剣な表情でユミルが声を(ひそ)めた。


「……最初の質問に戻るようですけど、お嬢は怖くないんですか。家族がいつ死ぬかも分からないのに、旅をするってのは」

「怖いよ?」


 私が淡々と答えれば、ユミルの方が痛そうな顔をして息を飲んだ。


「それでも、私が治すって決めたから」

「もし、治らなかったら」


 その言葉に、胸の奥の柔らかい部分を刺されたような気がした。それでも、決意が揺らぐことはなかった。私は既に、大切なものを置き去りにしてきた。後はもう、前に進み続けるだけだ。旅の果てを、見届けるまで。


「それは考えてなかったけど、最後まで足掻(あが)くと思う。エルならきっと、そうするから」

「エルって言うと、見送りに出て来られなかったって言う」

「うん、私の家族……私はあの人を、見捨てて来たの」



 この旅は、私の罪から始まる旅。


 痛かった。寒かった。返事をしてほしかった。私を見てほしかった。


 見ていられなかったから、逃げ出した。そのことをきっと、ライも分かってる。だから何も聞かずに、何も言わずに、一緒に旅の計画を立ててくれた。


 そんな私の抱えた何もかもは知らないユミルは、それでも言葉の断片から何かを察したのか、静かな沈黙に寄り添ってくれた。


「……俺、想像してたよりアンタと分かり合えそうですよ」

「そっか」


 私達は顔を見合わせて声もなく苦笑すると、どちらからともなく手を差し出した。


「これからの旅、よろしくね。ユミル」

「こちらこそです、お嬢」


 堅く握りあった手は、思っていたよりずっと暖かくて。生きている人間の温度がした。







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