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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第4章―真実の書― 地下迷宮篇
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02 地下大空洞の試練 ㊸

 

 最初の一歩を踏み出した瞬間、ひりつくような熱を感じた。


 本当に温度が高いというよりも、死地に踏み込んだ時に駆け抜ける危機感が、肌の上を焼いていく感覚。森の中で自分よりも強大な相手、熊とか大鹿とか……彼らを一人で相手にした時よりも、ずっと異質で重い圧を感じる。


(それでも今は、背中を預けられる人がいる)


 だから、これは孤独な戦いではなくて――群れでの『狩り』だ。


 地面を蹴って駆け出せば、動きを止めてずっと溜めていた力を吐き出すかのように、ゴーレムが私を目指して例の光線を放って来る。


「ハッ……!」


 腰元を狙った嫌な線を避け、くるりと宙返りをしたところに上の方から光が降って来る。


(でも、ゴーレムの目から攻撃が放たれると分かってれば……っ!)


 決して攻撃の動線を見逃さないように目を見開き、宙空で身を(よじ)りながらスレスレの位置を抜けて行く光線をやり過ごす。


 断続的に放たれる攻撃の呼吸に合わせ、軽く腰を落として後ろ向きに宙返りを繰り返せば、あっという間にゴーレムの膝下(ひざもと)までたどり着いてしまう。タイミング良く訪れてくれたらしい『息切れ』に、そのまま弱点の頭を目指して飛び上がろうとすれば、今度はめちゃくちゃに振りかぶられた拳が私を襲った。


「リアっ!」


 焦ったようなシエロの声に親指を立てて、そのまま眼の前の拳を蹴りつけて後ろへと飛び退(すさ)る。そのまま追撃するように繰り出された拳を見切り、軽く避けながら前へ前へと向かう。


「そんな雑な攻撃じゃ、当たらないんだからっ――!」


 ちょうど良いところへやって来た攻撃にヒラリと飛び乗って、二度目ともなれば慣れた要領でゴーレムの腕を駆け上がる。ついさっき危険なところまで登られたのを覚えているのか、激しく上体を揺らしながら壁に激突する、なんて今までにない芸当を始めたゴーレムに、いつの間にか口元に笑みを浮かべている自分がいた。


 そう来なくちゃと、シエロに聞かれたら怒られそうなことを考えながら、とっかかりの良い肘の突起にしがみついてやり過ごす。私が梃子(てこ)でも動かないと分かると、勢いよく腕を振り上げて投げ飛ばそうとしてくる。


《ヴァトー!》


 その力に逆らわず、投げ出された宙を駆ける。


 踏みつけた風の(きざはし)を登り、儀仗を掲げて()り上げた術が部屋中を満たすのを感じた。


《アレリオ・ヴィーア、トラーデ・ガロ・ナ・コンセオ》


 背後から凛としたシエロの詠唱が聴こえて、私の構築した術式の中に彼の魔力が流れ込んで来るのを感じた。


 そう、私達が考え出した対抗策……それは印の位置が分かるシエロに戦うのが難しくて、前に出て戦うのが得意な私に印が見えないなら、二人の魔法を組み合わせれば良いじゃないと言うことで。


 正確にはシエロが私の術式に正確な位置を『書き込む』ことで、一つの術に完成させるという離れ(わざ)をしようとしている。理論的には可能なはず……いつも通り、ぶっつけ本番なだけで。本当、シエロには悪いことをする。


 それでも。


《テンス・エーデ・ルキア》


 決して信頼を裏切らない声が、私達の術式を完成させる。(たが)いなく配されたルーンが光り輝き、私の背中を押す。


 ()け、と――


「はァァあああッ……!」


 繰り出した拳に、全ての力を乗せる。


 届け、どうか。


《《リベル――!》》


 2つの声が重なり、高い天井を()くように鳴り響く。


 今や違いなく分かる場所を目指し、力の限り叩きつけた拳の先――その奥で、見えない印が(はじ)け飛んだのが分かった。


《グォオオオオオオオン――ッ》


 耳を(つんざ)く咆哮と共に、膝をついたゴーレムの瞳から光が失われていく。


「……ごめん」


 ただ、外敵から主たる『何か』を護ろうとしただけの守護者に、眠りを妨げて破壊したことへの謝罪を告げる。その声が届いたのかどうかは分からないけれど、ゴーレムは地響きを立てながらゆっくりと崩れ落ちた。


「終わっ、た……?」


 気の抜けたようなシエロの声を振り返り、私はホッと息を吐き出しながら頷いた。


「終わったよ」


 この時、私達は開いたはずの扉へと、すぐに手をかけなければいけなかった。未だかつてない一つの危難を乗り切ったことで、私達は完全に油断していた。


 絶対に、忘れるべきではなかったのに――ここが、試練の迷宮であることを。この怪物の腹の中で、私達はどこまでも異分子なのだということを。


「っ、リアッ――!」

「え――」


 瞬きの、瞬間だった。


 突き飛ばされる感覚と共に、あの時の光景が脳裏に蘇る。


(う、そ……)


 あのどこまでも遠い、ベールの向こう。どれだけ伸ばしても届かなかった指先。


 音にならない悲鳴と絶望。砂になって消えていった、大切な思い出。


(やめて)


 倒したはずのゴーレムと、また異なる巨大な腕が私の大事な人を襲おうとしている。ぐったりと横たわったシエロに、気付けば身体が動いていた。


「っく、かはッ……!」


 咄嗟(とっさ)に儀仗で受け止めた攻撃に、正面から襲った衝撃が受け身も取れない私を吹き飛ばす。無様(ぶざま)に床を転がった私が見たものは、広い空間を埋め尽くすように雪崩(なだ)れ込んでくる、無数のゴーレム達の群れだった。







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