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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第4章―真実の書― 地下迷宮篇
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02 地下大空洞の試練 ㊷

 

 本当に、これまで文献を見ても()っていないようなことばかりが起きて、自分が思っている以上に疲弊しているのを感じていた。


(でも、今までだってずっとそうだった)


 外の世界でどうやって歩くのが『普通』なのかとか、誰も知らないものをどうやって見つけたら良いのかとか。それだけじゃない、私が育った森の中だって『絶対』なんてものは存在しなくて、毎日何かが昨日とは違っていて……それでも上手くやっていた。


(上手くやれてたんだ)


 シエロの言う通り、私はきっとこんな風に追い詰められた時、本当なら強くあれるはずで。


「……やってみせるよ、今だけでも」


 深く細く息を吐き出せば、自然と背筋が伸びて視界が広がったような気がした。


「さっきの反応、新しい攻撃が始まっちゃったけど……きっと引き金になる『何か』があったってことだよね」

「お前がアレの頭の上に乗った瞬間、挙動がおかしくなった。ずっと見てたから、間違いはないはず。ここからは見えないだけで、弱点はあったってことか……僕としたことが、未知の出来事続きで冷静さを欠いてる。気を付けないと」


 どこか恥じ入るように(つぶや)く横顔に、私もシエロに頼ってばかりじゃなくて、もっとしっかりしなくちゃと改めて思う。


「でも、頭の上には何も無かったよ?」

「……それも、隠されているとしたら?」


 私は目を閉じて少しだけ考えて、ふと思い至りアッと声をあげた。


「さっき生身でパンチした時、空洞みたいな音してた。じゃあ、アレの内側に?」

「お前の無謀な行動も、無駄じゃなかったってこと」


 嬉しそうにニヤリと笑うシエロが、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。そういう顔をしてると年相応の、良い意味で子供っぽくて胸の奥があったかくなる。


「そうと決まれば、行ってく、ウッ」


 野良猫みたいに首根っこを引っつかまれて、思わずあらぬ声が出そうになる。


「お前は考えなしにすぐ突進しない。さっきから追加された危険な光線攻撃も、まだ見切れてないんだし。大体、場所は分かったとして攻撃を通さない金属に守られてる印を、どうやって消すつもりなわけ?」

「う……考えてなかった、けど」


 シエロは「この脳筋娘」と良く分からない言葉をボヤいて、再びゴーレムへと視線を戻した。細められた瞳の奥には、きっと私には見えないものが見えていて。


「それって、訓練したら見えるようになる?」

「急になに……まあ、お前なら余裕で出来そうだけど。出来そうなのが、(しゃく)(さわ)る」


 心底嫌そうな顔をしながらも私を手招きしたシエロは、隣に立ってゴーレムの頭の中でも少しだけ右寄りの部分を指さしながら、くるくると指先を緩やかに回し始めた。


「このゴーレムは魔法魔術とは違う原理と力で動いてるから、僕も構造まで把握出来てるわけじゃないけど。お前のお陰で『存在してる』ってことが認識出来たら、急に視えるようになった。性質(タチ)の悪いことに、不規則な動きで場所を変えてる」

「そんなこと、出来るの?」

「出来ないって言いたいとこだけど、とっくに僕達の常識は通用してない……視える?」


 シエロの指先に従って意識を集中させていると、時折『それっぽいもの』がボンヤリ見えるような気がするけれど、すぐに(もや)がかかったように消えてしまう。


「なんか、誰かに邪魔されてるみたいに見えなくなる」

「言わんとしていることは分かるけど、ハッキリとはさすがのお前も無理か。僕の瞳は生まれつき適正があるらしいけど、見えるからと言ってお前みたいな芸当は無理だし」


 その言葉に、シエロが私みたいにゴーレムの肩をよじ登って、拳で語っている姿を思い浮かべてみる……絶対に、ない。


「私がやるよ?」

「まあ、遠当ての要領でお前なら何とかしちゃうかもしれないけど……だからって、攻撃を当てる時に印の正確な場所が分からないと駄目、って問題が解決できるわけじゃない」

「遠当て」


 聞いたことはないけれど、ちょっとワクワクする感じの言葉を繰り返せば、シエロが視線を彷徨(さまよ)わせながらもボソボソと説明してくれる。


「それ、出来るかも」

「自分で言ってて、そうじゃないかと思ったよ……」


 何故かゲッソリした表情のシエロに、これからして欲しいことを耳打ちすると、目を丸くした後で更にゲンナリしたような表情になった。


「あのねえ、正気で言ってる? まあ、出来るかもしれないけど……命懸(いのちが)けなの、分かってる?」

「でも、やるしかないよ」


 覚悟はもう、決まってる。


「……信じるの、僕を」

「シエロのことなら、とっくに信じてる」


 何かを堪えるようにぎゅっと目を閉じたシエロは、次の瞬間には決意を秘めた瞳を瞬かせていた。そろそろと伸ばされた腕に、自然と飛び込んでいる自分がいた。


(……あったかい)


 なんだか、家族みたいだと思う。そう思ってから『真実の書』が告げた私の名前を思い出して、もしかしたら本当に家族なのかもしれないと、そうだったら嬉しいと思う。


「死んだら、承知しない」

「分かってる」


 私の言葉に、ぎゅっと強く抱き締めたシエロは、何もかもを振り切ったような表情でスルリと腕を解いた。


「何があっても、護るから」


 そう呟いて身を(ひるがえ)したシエロの背中は、いつもよりずっと大きく見えて。


 どうしてか伸ばしそうになった手を、ぐっと握り込んで決然と標的を見据える。


《ゴォォォ……》


 獲物が穴蔵から出てくるのを待ち構えるような姿に、マスター・リカルドから貰った儀仗(ぎじょう)を振り抜いて、手に吸い付くような木の温もりに力の(めぐ)りをはっきりと感じた。



 行こう――私達なら、負けない。







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