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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第4章―真実の書― 地下迷宮篇
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02 地下大空洞の試練 ㊶

 

 やっぱり(こら)えきれずに振り返ると、険しい表情で眉を寄せたシエロが忙しなく空色の瞳を彷徨(さまよ)わせていて。恐らく魔力痕跡を探しているのだろうけれど、こんな全身が魔法も物理攻撃も効かないような相手に、そもそも弱点なんか無いのではと首を傾げる。


「……ちょっ、余所見(よそみ)しないで!」

「っ、ととっ」


 シエロの鋭い声に従って、振り下ろされる拳を真正面から捉え――跳んだ。


「はッ――!」


 どこまでも凶悪で堅牢な金属塊は、時機さえ見誤らなければ良い足場になる。助走が足りずに少しだけバランスを崩しながらも、なんとか敵の拳を蹴りつけて宙を駆けた。


 きっと幻聴ではない、どこまでも呆れたような溜め息が追いかけて来て、シエロには心配かけるなぁと頬を掻く。


「ありがとー」

「全く、お前は……良いから、弱点探し手伝って」

「コレに弱点なんかあるの?」


 私が疑問に思っていたことを問いかけると、シエロは一瞬だけ確かに絶句すると、微かに唸り声をあげながら口を開いた。振り返ってはいないけれど、シエロがどんな顔をしているのか手に取るように分かる気がした。


「そうだった……お前は色々と規格外だから忘れがちだけど、あれこれ基礎すっ飛ばして来てるんだった。僕も人のこと言えた口じゃないけど、お前も帰ったらちゃんと勉強しなおしなよね」

「シエロっ、前見て……まえッ!」

「……っち」


 シエロが指を鳴らして緊急用の陣を敷くと、ゴーレムの足元に氷の波が走る。足を取られたゴーレムは倒れないまでもバランスを崩して、その巨体に振り回された拳はあらぬ方向に空振(からぶ)っていった。


(さっすが)


 もう少し効率ってものを考えて生きろと口酸(くちす)っぱく言われてる身としては、この最小限の力でその場に応じた適切な魔法を使う戦い方を、ぜひとも見習わなくちゃいけないと思う。思ってはいるのだけれど、いつでも最大出力の私には遠い道のりだ。


 軽々と危険な局面を切り抜けたシエロは、浅く息を吐いて油断なくゴーレムに視線を戻しながら、話の途中だったのを思い出したのか口を開いた。


「手短に説明すると、魔道具には一定の規則性みたいなものが出る。それは兵器とかだと特に顕著だけど、これはお前でも分かるでしょ」

「量産化しやすくして、誰でも扱えるようにするため?」

「よくできました」


 ぱちぱちと控えめに手を叩くシエロに、なんだか唐突に授業が始まってしまったなと思う。こんな時だけど、シエロって先生に向いている気がする……前から思ってはいたけど、学院のマスター達って自分の研究の話をする時には饒舌(じょうぜつ)なんだけど、時には決して人に教えるのが上手とは言えない人もいるし。


「まあ、ゴーレムは厳密に言えば魔道具には当たらないし、そのへんは錬金術に通じてるお前の方が詳しいでしょ。それに眼の前のコイツも、魔法魔術とは異なる(ことわり)から生み出されてる……けど、今は置いておく。とにかく人間が生み出した兵器には規則性が生まれるし、製作者は出来るだけそれを隠そうとする。構造が分かれば、対応するのも簡単になるからね」

「それが弱点になるってこと?」


 問い返して眼の前の敵をまじまじと見つめるけれど、規則性を探そうにもゴーレムは一体しかいないから、どうしようもないように思える。私の問いかけに、シエロは頷いて難しい表情を浮かべた。


「そう。文献を読む限りゴーレムの場合はもっと単純で、魔力の供給源になる使役者(しえきしゃ)とを繋ぐ印がついてるはず。これを崩せば再起不能にすることができる、と思うんだけど」

「了解っ!」


 突破口はあると聞いて俄然(がぜん)やる気の出た私は、威勢よく返事を返して眼の前の獰猛(どうもう)な金属塊に向き直った。妖しく光る紅の瞳が私のことを認識しているのかは分からないけれど、挑発するようにニッと笑ってみせる。


 心なしか乱暴な動きで拳を振るったゴーレムに、さっきと同じ要領で地面を蹴りつけ、今度は上へ上へと駆けて行く。ゴーレムも獲物が自分に登って来ることは予想していなかったのか、何が起こっているのか分からないとでも言うように戸惑った揺れが伝わって来る。


(よしよし、狙い通り……って、うわっ)


 腕を伝って肩へ、それから頭へと登った瞬間、がくりと動きを一瞬だけ止めたゴーレムは、不穏な音を立てて熱を持ち始めた。


(これ、は――)


 ハッとした私は、目を見開いて叫んだ。


「シエロ、離れて!」


 ブゥン、と――

 本当は音も無かったのかもしれない。


 私の声に全力で『真実の書』のある区画へと飛び込んだシエロの、足先を(かす)めるようにして目も(くら)むような閃光が駆けた。


 静かに、それでいて暴力的に走った光の線は、石壁や床を抉るように傷付けて消えた。呆然としている私を振り落とし、何事も無かったかのように元の挙動へと戻ったゴーレムに、ハッと気付いてシエロの元へと駆け寄る。


「ここ、もしかして安全圏?」

「扉からは遠いけどね」


 ゴーレムは確かに、この『真実の書』がある区画を避けているのか、こんなにも激しい攻撃が続いているのに壇には傷一つ付いていなかった。いったい何が起きているのかと、考える間もなくゴーレムが再び動きを止め、新たに組み込まれてしまったらしい攻撃――あの、全てを焼き尽くす閃光を縦横無尽に撒き散らすのを見て、私達は思わず顔を見合わせた。


「……聞いてないぞ、あんなの」

「聞いてないねぇ……」







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