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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第4章―真実の書― 地下迷宮篇
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02 地下大空洞の試練 ㉑


 *


 遥か(いにしえ)の時代、まだエルフやドワーフといった神秘が当たり前のように存在し、人間と「共存」していた頃の話。世界に争いはなく、永遠の命と絶大なる力を持つドラゴンの叡智によって、それぞれの種族は緩やかな交流を持ちながら豊かに暮らしていた。


 中でも精霊に愛された人間たちが、自然を味方につけて大きな集落を作り始めていた頃、風の力を持つ集落と交流の深い小さな村、その(はた)の山小屋にエルダーと言う少年が生まれた。集落からは離れた生活を送りながらも、父と母と妹の四人で幸せに暮らしていた少年には、他の者達には秘密の友……風の集落を守護するドラゴンが話し相手だった。


 世界のあらゆるものを目にし、長い生のうちの一時を気まぐれに人間と寄り添うドラゴンは、その威容も恐れることなく(なつ)いた子どもを慈しんだ。ドラゴンはエルダーに自らが生きる空をも()ける風の力と、生きとし生ける全てのものと心を交わすための『言葉』を与え、そして木こりの息子である彼には想像も及ばないような広い世界のことを語って聞かせた。


 少年はドラゴンの語る美しい世界に憧れを抱き、物語の中の英雄達のような剣士となり、いつの日か旅に出ることを夢見るようになった。彼は力を求めて隣町の剣士に師事し、ドラゴンの加護と生来の才能によって、たちまち師を超える剣の使い手となった。エルダーは家族を養いつつ、旅の路銀を調達すべく町で()いた仕事も軌道に乗り、順風満帆の人生を送り始めた一方で、世界の行末には暗雲が垂れ込め始めていた。


 精霊の加護をもって勢力を拡大しつつあった人間の集落は、人々を養うために森を切り拓いて地を耕し、土地や作物を巡って相争うようになって行った。ある時、風の集落にほど近い場所で勢力を広げていた闇の精霊に加護を受けた民が、超えてはならない一線であるドラゴンの縄張りで力を使い、森から光を奪って灰に()し、(おびただ)しい数の人や動物を(あや)めた。怒り狂ったドラゴンは報復のために暴れ回り、損なわれた森を逃げ帰る闇の民を捕えて『呪われよ』と吠えた……そして、彼らはその通りになった。


 森の異変を知らされ、エルダーが隣町から家に帰り着いた時には、全てが終わった後であった。森の端に(たたず)む山小屋は見るも無惨に潰され、家族の誰一人として助からなかったこと、そして彼らの命を奪ったのが友であったはずのドラゴンであることだけが確かだった。


 エルダーは怒りに燃える瞳で空を()めつけ、森を侵された嘆きに吠えながら空を翔けるかつての友に向かい『堕ちよ』と叫んだ……そして、その通りになった。エルダーが気付いた時には友の首は落ち、血塗れた剣だけが手の中にあった。全てを失った男は傷付いた身体で風の集落を目指したが、風の民は彼らを守護するドラゴンを殺めた男を憎み、また恐れて村から追い返した。


 朽ち果てた森を歩む男は行く宛てもなく倒れ伏し、偵察に来た水の民に連れ帰られて、(おさ)の家で匿われることとなった。長の若き息子イーラと、美しい水の乙女エディスの献身的な介抱により息を吹き返したエルダーは、水の集落に身を置き傷を癒やす中でエディスと結ばれる。全てを忘れて平穏な暮らしを夢見始めた男だったが、そんな日々も長くは続かず、同胞を奪われたドラゴン達が血眼(ちまなこ)になってエルダーを探していると言う話を耳にする。


 元よりドラゴンと関係の薄かった水の民は、集落に迷惑をかけまいと身重のエディスを連れて出て行こうとするエルダーを引き止め、理想に燃える長を筆頭に武器を取りドラゴンへと立ち向かった。当然ながら僅かな手勢では、ドラゴンに(かな)うはずもなく叩き潰され、逃げ帰る民を護るべく立ちはだかった長は命を落としてしまう。


 復讐に燃える長の息子イーラと、水の民に大恩あるエルダーは共に立ち上がり、イーラは人の数と知恵の力をもって、エルダーはその身に宿した剣と『言葉』の力をもって戦い、数多の犠牲を出しながらも(つい)にはドラゴンを滅ぼしてしまった。彼らの断末魔によって世界は引き裂かれ、天は剥がれて森は焦土と化した。流された血と怨嗟(えんさ)の声は前線を紅く染め上げ、今は熱砂の支配する不毛の地として知られている。


 傷に塗れながらもドラゴンを(ほふ)り尽くしたエルダーは、その最後の一頭に鉤爪を立てられ『永遠に呪いあれ』と血を(いまし)められた。その『言葉』によって全てのドラゴンの怨念を一身に受けたエルダーは、それでも死に至ることなく戦場に立ち尽くした。彼を最後に守ったのは、かつての友……彼が最初に殺したドラゴンの与えた加護と祈りであったのだ。


 戦は終わりを告げ、後には荒れ果てた世界だけが残った。初めて一つの種族として手を取り合った人間達は、ほんの一時ではあるが肩を叩いて勝利を喜び合った。しかしながら残された僅かな資源と豊かな土地を巡り、新たな争いが起きるまでそう長くはかからなかった。エルフやドワーフを始めとした古の種族は、人間の愚かしさを(わら)って身を隠すようになり、人類の勝利の立役者であるエルダーは疲れ果て、水の民の長となったイーラに全てを……生まれた子と妻さえも託して旅に出た。


 イーラは最後まで人類のために戦い抜いた英雄に敬意を表し、彼の血筋と残された民を守り続けることを誓った。


 一つの伝説の終わりと、エルディネの始まりである。


 ――異伝・エルディネ建国記より



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