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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第1章―嘆きの旅人―
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05 祈る者 ②

「ちょ、リアと遊ばせてくれるんじゃなかったのかいっ?」

「だから、それを後にしろと言っている。そんなに元気が有り余っていると言うのなら、後で精々こき使ってやるから楽しみにしていろ」

「なっ」


 目を白黒させる僕に、見下ろしてくるネイトの顔が悪いことでも企んでいるみたいに笑った、ような気がした。


「そもそも、リアはお前と遊んでやるほど暇ではない。もうそろそろ遊び相手が来るだろう……ほら、あれだ」


 前の方を顎で指し示した先に、少し長い金髪を結んだ姿の誰かが駆けてくる……あれは青年、いやまだ少年か。


「リアーっ」


 すっと響いた声に、私達の周りを楽しそうに歩き回っていたリアが、パッと顔を上げて嬉しそうな顔をする。


「ユーリっ」


 スルリと私の横をすり抜けて、パタパタと駆けていくリアの背中を呆然と見送る。何だかいま、すっごくフラれた気分だ。駆け寄るリアを慣れた様子で抱き留めて、手を引いて一緒に歩き出した少年は、礼儀正しくこちらにペコリと会釈をして行った。ネイトも慣れた感じで頷いているから、きっといつものやり取りなんだろう……なんだろうけど!


「……僕は一ヶ月に一回しか会えないのに」


 ぶちぶちと呟けば、今度は鼻で笑ったような声が頭の上から降って来て、ますますヘコむ。


「そんな笑ってて、知らないからね?リアはきっと、すぐお嫁に行っちゃうんだろうから、君がその時になって泣き崩れて呑んだくれても、慰めてなんかやらないんだから」


 随分と具体的な想像になっちゃったけど、これじゃ僕の方が酒瓶抱えて大泣きしそうな気がしてイヤだ。


「行くか」


 間を置かずにバッサリと切り捨てた言葉に、僕は耳を疑って未だに僕を引きずって歩くネイトをまじまじと見つめた。そう言えば、体力あったね……


「あれは、精々まだ年の頃は二つか三つと言った所だろう。すぐには行かん」


 僕の視線をうざったがるように眉を(しか)めて淡々と言葉を落とすネイトに、ああそう言う事ねと思いながらも、これはきっとリアの夫になる男は大変だろうなぁと他人事(ひとごと)ながらも遠い目をしておく。だって『世界最強の魔法使い』を相手にしなくちゃいけないんだから……最凶とか最恐とか言った方が正しいかもしれないけど。


 ……だって『あの時』だって、ネイトを止められた人間なんて誰一人いなかった。誰もが恐れる魔法使いであり、ネイトが心の底では尊敬してる兄弟子のフィニアス殿だって、ただ見ている事しか出来なかった。彼の心を繋ぎ止めておくストッパーが存在しなければ、この世界はふとした瞬間に呆気なく壊れてしまうだろう。


(リアが、その一つになってくれればいいんだけど)


 今回、フィニアス殿とガルシアが様子を見に来たのも、もちろん帝国の偵察と言う目的もあったけどリアという不確定要素が現れた今、ネイトを放って置いても大丈夫かどうかを自分の目で見て確かめる事にあった。


 我々エルディネ王国にとって、今最も脅威である存在は敵国レストニアなどではなく、他でもないネイト……ナサニエル・ギルフォードそのものだ。いつ起こり得るか分からない爆弾を何とかする方法があるのならば、確実な方法を模索し続けるのが我々の使命……そう押し付けられているけどね、みんな勘違いしてるみたいだけどネイトだって人間なんだよと溜め息を吐きたくなる。確実な方法、なんて一生かけても見つかるワケないじゃないか。


 いや、僕達は『確実な方法』をかつて手にしていたはずだった。それをむざむざ失ってしまったばかりに、むしろ失ってしまったからこそ、いま彼が脅威となっていると言うのに。誰もがネイトを戦略上のコマとして考え、感情のない化け物だと思って話を進めたがる。でも、誰よりも感情に揺れ動かされやすい男だからこそ、あんな事になったんじゃないのか。


 僕とガルシアは、フィニアス殿ほどじゃないけどネイトとの付き合いは長い方だし、いざと言う時には背中の預けられる親友……いや、戦友でもあると思ってる。彼が信頼出来る男で、こっちがビックリさせられるくらい打算を考えないまっすぐな人間で、顔には出さないけど情に熱いのだと言う事も知っている。明らかにネイトを人間扱いしていないような言葉を聞くと、胸が痛むし言い返したくなる。


 ネイトには幸せになって欲しいと思ってるし、出来る事なら中央政界のいざこざだとか、人間同士の醜い争いだとか、それこそ戦争なんかには巻き込まれないで、このままこんな感じの田舎にでも引き籠もって静かに暮らして欲しいとすら思う。まあ、正直このレストニア帝国との境界である最重要拠点に、こんな目立つ馬鹿デカい塔が建っている限り無理な話だとは思うけど。


 レストニアとの地続きでの国境って、ここルーベン辺境伯領のあるメスティア渓谷と後もう一つの更に道が険しい峡谷を除けば、見上げても果てが遥か遠く、険しく獣だらけのアドラ山脈が立ち塞がっているだけ。もしも帝国軍がエルディネ王国に攻め込もうと思えば、必ずどちらかの谷を通らなくちゃいけない。その内の一つに立ち塞がるのがネイトの住む黒鉄の塔、と言うワケなのであって。


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