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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第4章―真実の書― 地下迷宮篇
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02 地下大空洞の試練 ⑰

 

「水の精霊……」


 何か思うところがあったのか、ポツリと呟くリアに僕は頷いて言葉を続けた。


「そ。だから、この髪と瞳の色も……一応は精霊の力を継いでるって証。つまりは王族である証明ってことなワケ」

「……そっか。あんまり実感湧かないけど、あの人がシエロのお父さんなんだね。意識して思い出せば、確かに似てるところあるかも」


 うっかり聞き流してしまいかけたトンデモ発言に、僕はいつもながらギシリと固まることになった。


「え……何かの冗談、じゃないのか。お前のことだもんね……どこで国王なんかに会ったの」

「えっと、王都をお散歩してたらフィニアス師を迎えに来て」

「そのまま連れて行った、と」


 小さく返事を呟くリアに、僕はありそうなことだと思いながら溜め息を吐いた。いつもながら国を守るためなら手段を選ばないと言うべきか、マスター・フィニアスの扱いを良く分かっていると言うべきか。


「……本当は、ここまで一緒に来るはずだったんだけど」


 少し沈んだ声で呟くリアに、ここに来た時のリアがあまりに無知であったのは、自分の父親が彼らの旅程を狂わせたからなのだと今更ながらに知る。


「あぁ……まあ、そのお陰でエルディネが救われたワケか」

「フィニアス師って、やっぱり凄いの?」


 きょとんとした声で尋ねるリアに、僕は相変わらずだなと思いながら分かり切った答えを返した。


「世界最強の魔法使いって呼ばれてるけど……国一つを余裕で滅ぼせる程度には」


 だから国としては絶対に敵に回すわけにはいかない相手で、それなのに彼を喜ばせるものどころか逆鱗(げきりん)さえどこにあるのか分かっていない。そもそも出自すら不明であれば、その圧倒的な力をもって長くエルディネを守って来たと言う実績と、王が信頼していると言う点のみが彼を『軍師』たらしめている。


「あの人は、どっちかと言えばエルディネにとって最強の(ほこ)……人と言うより武器だ。扱いを間違えれば、こちらの命すら危うい諸刃(もろは)の剣。エルディネにとっての救いは、父上が国王であること……かもね」

「フィニアス師と仲が良いってこと?」


 さすがはマスター・フィニアスと家族のような関係を築いてるだけあって、彼のことを良く分かっているなと思わず舌を巻く。もしかしなくても、あの謎が多い魔法使いもリアの目から見れば、僕達が想像するほど複雑な構造はしていないのかもしれない。


「父上はマスター・フィニアスとは、国王として即位するよりも前からの付き合いだと言ってた。兄弟子と言うよりも、師匠のような存在だと」

「エルも似たようなこと言ってたかも……フィニアス師、何歳くらいなんだろ」


 そこは僕も気になるけど想像したくない、と思いながら父上の言葉を頭の奥でなぞる。マスター・フィニアスには、どれだけの礼を尽くしてでも足りないほどの存在だと……その反面で、そうした礼儀だけの関係を乗り越えた者にこそ素顔を見せると。


 人の世には興味がないと言う顔をして、その実は誰よりも情に厚い人物。それは父上との関係以上に、リアとのやり取りを見ていれば良く分かった。だからこそ、彼がエルディネに力を貸す理由には、父上への義理以上のものがあるのではないかと今は思う。


「……ごめん、話が逸れたよね。精霊のお話だった?」

「そう……エルディネにおいて水の精霊の力は、魔法以上に重要なものとして考えられている。精霊に愛された者は、その髪や瞳の色に徴が現れると考えられていて、エルディネ王家では代々伝わる精霊との契約石……サファイアに似た宝石の色彩を基準にして、それに近しい色の子どもが性別に関係なく第一王位継承者として選ばれる。第二位以降は、よほどのことが無ければ普通の王家と同じように序列が決まるけど」


 あまりに意外な選出方法だったのか、背中に負ったリアが驚いたように身じろぎする。


「ちょっと、じっとしててよね」

「あっ、ごめん……でも、見た目だけで選んで色々と大丈夫なの?」


 もっともな疑問に、思わず苦笑がこぼれる。確かに『アレ』を見たことが無ければ、そう思うのも当然だろうと。それでも僕は、知っている……本物の蒼が、どれだけ美しいのかということを。


「皆が見れば、それと分かるんだ……この人は別格だって。僕達のような平凡な人間とは、目に見えないベールの先で輝いていて、世界に愛されていることが分かるんだ」


 そう言えば、と。今でこそ慣れてしまったものの、リアと出会った時にも似たような感覚を覚えていたことを思い出す。どうしようもなく懐かしくて、それでいて自分とは違う存在に抱く、少しだけ恐ろしいような感覚。


「姉上は……アステリア第一王女は、まさしくそういう人だった」


 目を閉じなくても、思い出せる。


 幸せだったあの頃……交わした言葉さえも朧気(おぼろげ)な、幼い僕の目が見た世界の中で、ただ一人だけ混じり気のない美しい蒼の中で輝いていた人。


 もう二度と取り戻すことの出来ない、幸せな家族の肖像の中でしか出会うことの出来ない人。こんなにも鮮明に思い出せる、あの寂しそうな笑顔のことを。







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