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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第1章―嘆きの旅人―
21/277

05 祈る者 ①

 *


05 祈る者


それだけは、嘘じゃなかった


 *



「リア、大きくなったねーほら、たかいたかーい!」

「たかいたかーい!」


 ほんの少し前まで片手で軽々持ち上げられるくらい(そんな事しないけど)小さくて軽かったのに、冬の間中会わなかっただけでズッシリと両手に余るくらい大きくなっている。あ、女の子にズッシリ、とか言う表現はマズかったかな。でも、こんなに小っちゃいんだから、いいよね?スクスク成長して大きくなるのは、良い事だし。

 彼女の『お父さん』であるネイト……ナサニエルはこう言う遊びとか絶対にしなそうだし、新鮮なのかいつも無邪気に喜んでくれるのが嬉しい。僕には兄と弟しかいないけど、妹とかいたらこんな感じだったのかな、なんて思う。いや、いたとしても滅多に会わせてなんかもらえなかっただろうし、こうやって遊んだりなんてもっての他だっただろう。


「お空を飛んじゃうぞー!」

「きゃー!」


 リアを高く抱き上げたままクルクルと辺りを走り回れば、歓声を上げながら両手を広げて鳥がするみたいに羽ばたくマネをする。手に預けられた重みと熱がこんなにも心地良いものだなんて、知らなかった。


 今回は本当に用事があったから、フィニアス殿もガルシアもドタバタと去って行ったけど、二人ともリアの可愛さを知ったらそれこそしょっちゅう会いに来て、僕からリアを横取りしてしまうに違いない。独り占め出来るのは今だけだと思っているから、自然とリアと遊ぶのにも熱が入る。

 そろそろ腕が疲れて来た所でリアを下ろして、ニコニコとこちらを見上げて手を伸ばしてくる姿に、思わず抱き締めようとした所でストップがかかった。


「ライ。リアを抱き締めるならば、まずは旅の埃を落とせ」

「……はい」


 なんだか、前に会った時よりも『お父さん』感が増してないかなネイト。まあ、そんな軽口を叩いたら冷水をぶっかけられそう(実際ぶっかけられた事あるんだよね)だから大人しくグイと押し付けられた桶を受け取って塔の裏手に回る。


「さっさと服を脱いで寄越せ」


 何だか追い()ぎみたいな恐ろしい事を言いながら、ネイトが手を差し出す。正直、もうすぐ春って言ってもまだ全然寒いんだよね……と心の中で嘆きながら、こう言うのって勢いだからと手早く服を脱いで行く。

 脱いでみると分かるけど、何だかイヤな臭いのする服を申し訳ない気持ちで(ただし躊躇いなく)ネイトの手にポイポイと押し付けて最後に革の手袋を外せば、代わりに桶を水で満たして清潔な手布を渡してくれる。気付けば湯気の立っている桶に、おや、と思いながら手を浸けてみると温かい。こういう所、優しいよねと思いながら「ありがとう」と微笑めば、フンと鼻を鳴らす音が返って来る。


 もはや慣れた道とは言っても、王都からここルーベン辺境伯領まではかなりの距離があるし、冬の間中は別の所で『仕事』があったから王都の更に先、遠くの国から旅をして来ている。旅の最中は気が抜けないし、ネイトみたいに高位の魔法使いでもないから迂闊に水浴びなんてすれば確実に凍死、する前に心臓が麻痺して死ぬだろう。

 久方振りの熱いお湯で全身を擦れば、びっくりするくらいに垢が出たし、思っていたよりもずっと自分が疲れていた事に気付く。冬場のお湯ってこんなに気持ち良いんだ、って涙が出そうになりながら、リアに病気でもさせたら大変だと全力で汚れを落としにかかった。


 頭はガシガシ洗って他はつま先までゴシゴシ拭いて、これで文句はないだろうとネイトの方を向いた時には、これが僕の全身にこびりついてたのかと顔が引きつるくらいに桶の中のお湯は真っ黒になっていた。とりあえず、証拠を隠滅するみたくお湯は捨てておく事にする。


「どうかな?」


 振り返ってネイトに尋ねれば、彼はざっと僕の全身に目を走らせた後、頭からお湯をぶっかけて来た。


(あ、それでもぶっかけては来るんだ……)


 彼の魔法は、いつだって前触れナシに来る。ただ何となく予想していた僕は、目を閉じて呼吸を止めながらもお湯が流れているうちにと、仕上げに全身を(こす)っておく。お湯が止まったな、と言う感覚と共に目を開ければ、ネイトは『一先ず及第点』と言う表情で頷いて、僕の身体の表面から完全に水を消し飛ばした。本当、こういう所が器用だよね……

 お許しと共に差し出された服は、元はこういう色だったんだってくらいキレイになっていて、もちろん破れやほつれまではそのままだけど、汚れと言う汚れが完全に一掃されていた。いつも思うんだけど、全く何の匂いもしない服って何だか不思議な感じだと、そんな事を考えながら袖を通すとサラサラとした布の感覚が心地良い。


 至れり尽くせりだなぁと思いながらも、この後ここぞとばかりにこき使われるのが分かっているため申し訳無さはあまり感じない。


「ありがとう、ネイト。よし、お父さんのお墨付きも出たし、リアと遊っ」


 グッ、と首根っこを猫みたいに引っ掴まれて、全力で引き戻される。ギギギと音が鳴りそうな感じで何とか首を動かして背後を振り返れば、ネイトがいつもの無表情で僕を見下ろしていた。


「お前はまず、メンテナンスだ。遊ぶのは後にしなさい」


 気付いているのかいないのか、完全に『お父さんモード』になっているネイトが、小さな子供にでも言い聞かせるように言い放って、ネイトより図体のデカいはずの僕をズルズルと引きずり始める。



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