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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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04 見送る背中 ⑩


 *


 それは私がマスター・リカルドの研究室に転がり込んで、最初は問答無用で『出て行け』と放り出していたマスターが根負けし、正式に私を弟子にして……少しずつお互いの存在に慣れ始めて来た頃のこと。


 今日みたいに実験をしていた私は、今日よりも酷い失敗をやらかして、マスターにこってりと絞られて。


此度(こたび)の失態、理由は分かっているだろう」

「……視線、を気にし過ぎてだと思います」


 私が目を泳がせながら恐る恐る告げると、マスター・リカルドはついさっきまでの怒りを収めて頷きを返した。


 魔法は当人の精神状態でカンタンに左右されて、発動しなくなったり酷い時には暴発したりする。そして最近の私が魔法を失敗させるのは、決まって誰かの『視線』を受けた時だった。


 マスターはそれを見抜いていて、私が魔法を発動させようとする時には、その日の実験では私の動きの全てをわざと注視していた。だからこそ、大きな事故になる前に、私の失敗した魔法を収束するなんて芸当が出来たんだろうけど。


「自覚は、あるようだな?」

「今までは、こんなことってなかったんですけど……」


 思わず声が小さくなるのを自分でも感じながら呟くと、マスターは少し考え込む素振りを見せてから口を開いた。


「それは貴様が人間の悪意に……いや、そもそも人間に慣れていない所為(せい)だろう」


 確かにその通りだけど、どうしてマスターがそのことを知ってるんだろう、と首を傾げて見上げる。


「……見ていれば、分かる。故にこそ、貴様はこの場所に向いていないと思っていた」

「それって、今は違うってことですか?」


 マスターは、それには応えずに私を見下ろした。


「戦いの時にはあれだけ殺気立ちながらも、的確に魔法を操れる割には、何故平常時になると視線を向けられるだけで途端に使い物にならなくなる?」


 私はマスターの問いかけに考え込んで、これだ、と手を叩いた。


「じっと視線を向けるのって『お前を狙っているぞ』って意味じゃないですか」

「……少なくとも私の知る文化圏において、多くの場合はそうではないが」


 人の事をじろりと見つめる癖のあるマスター・リカルドは、さり気なく私から視線を逸らしつつそう言った。


「私の知る世界では、そうだったんです!だから、視線を向けられてるって感じると、それに対して反応しちゃうって言うのはあると思います」

「貴様の場合は、それに加えて精神的外傷なども関係していそうなものだが……」

「精神的、がいしょう?」


 私が首を傾げると、マスターはどこか苦い表情になって、おざなりに手を振った。


「……まあ、良い。視線に対して敏感であるのは、良い事だ。それが良い(たぐい)のものか、悪意を持ったものか見分けられる場合は、特に。ただし貴様は、視線に対して身体や頭の動きが鈍くなるのが問題だ。戦場において、それは致命的な隙となり得る」


 まだ本物の戦場に立ったことのない私には、具体的な想像はつかなかった。でもマスターの言いたいことは、なんとなく分かる。このまま『誰か』の視線に怯えたままなんて、この世界を生きて行こうと思うなら、ここで絶対に乗り越えておくべきだった。


 うんうんと唸りながら小っぽけな頭で考えて、そんなことで解決策が思いつくはずもなくて、私は恐る恐るマスターを見上げて首を傾げた。



「えっと……どうすればいいんでしょう?」



「慣れろ」



 *




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