03 勝利への渇望 ⑭
「これが普通の相手であったのならば、入学したての同胞を見せしめのように叩き潰すなど、何が決闘か恥を知れと貴様を詰り……もしコレに傷の一つでも付こうものなら、貴族として生まれたことを後悔させてやるところだが」
一瞬だけ私を振り返り口の端だけで笑ったシエロは、すぐにセルギウスさんへと向き直ると、また一歩前へと踏み出して彼に迫った。シエロの気迫に呑まれてか、一歩も動けずに立ち尽くす彼に対し、シエロは呼吸も触れ合うほど近くで凄絶に笑う。
「生憎、コレは貴様らのちゃちな尺度で測れるような器の持ち主ではなくてな……一先ず、ご愁傷様とだけ言っておこう。貴様がコレに勝利する可能性など、万に一つも有り得ん。精々無様に闘技場の土を舐めた後で、相手の力量を見誤ったことを悔いるが良い」
「っ――」
怒りのあまり顔がどす黒くなるほど血を上らせたセルギウスさんが、衝動に任せてか何かを言おうと口を開いた瞬間だった。
「おぉい、盛り上がってるところ悪いんだが、そろそろ時間なんでな。始めて良いか?」
プツリ、と。爆発しそうな程に高まっていた緊張の糸を、呆気なく断ち切って現れたのは……
「赤い門番さん……!」
「はいはい『実は凄い門番さん』ですよっと……本当、お前は相変わらずだな?ちょっとは俺の正体とか気にしろよ。お前の『兄弟子』の顔が、凄いことになってんぞ」
そう言われてシエロを見上げれば、私を見下ろす瞳とぶつかった。その表情が必死に笑いを堪えるような、残念なものを見るような、どこか恐れ多いようなとグチャグチャに切り替わり、シエロはどうしちゃったんだろうと首を傾げる。
「っ、何者だ貴様は……!」
突然の乱入に、セルギウスさんが尤もな発言を落とす。
「あぁ?傷付くな……これでも一度は会ってるはずなんだが。こいつの言った通り『門番さん』だよ。因みにこの決闘の審判であり、責任者でもある。ほら、関係のない奴は散った散った。見届けたいなら、観客席に行っとけ」
妙な威圧感をもって笑う『門番さん』に、セルギウスさんも黙り込み、私の側に立っていたシドとシエロは踵を返す。
「……僕にあれだけ言わせといて、負けたら承知しないから」
すれ違い際にシエロが残していった言葉に、どうしようもなく胸が熱くなる。私は大丈夫だと、胸を張って伝えたい。決闘という言葉の重さと、周囲の圧におされていただけで、目の前の相手がロロ兄さんより強いとは到底思えなかった。
これは、狩りだ。そう思えば、私は決して狩られる側などではなく、目の前の男は屠るべき獲物に過ぎなかった。
「あのひ弱そうな人間相手に、リアが負けると思うのか?」
「……思わないけど、お前も大概に酷いよね」
シドの囁きと、それに返すシエロの呆れたような声が、のんびりと背後から聞こえてくる。その会話に、セルギウスさんはますます額に青筋の本数を増やして、門番さんはどこか和やかにそれらを見守っているように見えた。
「お前達、今回の決闘の方式は至って単純。相手を降参させるか、気絶させたならば勝利。ただし、相手が死に至るような攻撃をした場合は、その時点で敗北とみなす。それ以外ならば、どんな手を使って、どんなことをしても構わない」
門番さんの言葉に、調子を取り戻したかのように目を輝かせたセルギウスさんが、嬉しそうな表情で舌なめずりをした。その表情に、どことなく寒気がするけれど、気持ちは至って落ち着いていた。シドとシエロのお陰だな、と思う。
「それでは……これより第二階位・レイリアと、第五階位・セルギウスの決闘を執り行う。双方、構えよ」
その声に、セルギウスさんがスラリと剣を抜いて構える。エルディネの魔法使いは、その殆どが貴族である故に、剣を主武器として戦う者が多いとフィニアス師が言っていた。ただ、今向き合っている彼の立ち姿は、シアお姉ちゃんに比べれば隙だらけだし、ライみたいな何が飛び出して来るか分からない底知れなさもない。
魔法だってフィニアス師やエルほど凄いはずもないし、身のこなしや身体能力一つとってもオロケウやメクトゥシみたいな獣の王に勝てるはずもない。私は、いつだって決して独りなんかじゃない……私を育ててくれた全てが力になって、私を支えてる。
(負ける気が、まるでしない――!)
息を一つ、吐き出して。思わず笑みが零れた。
《シーラ・サンシア!》
力を、示せ――開戦の言葉が、高らかに響くと同時に地面を蹴った。
その言葉通り、勝ち取ってみせよう。反撃の、時間だ――
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