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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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03 勝利への渇望 ⑩





「……ちょっと。なんか最後の方『マスター・リカルド、良い人かも』とか思って、(ほだ)されてんじゃないの?」

「うっ……」


 あまりに的確な指摘に言葉を詰まらせると、シエロは呆れ果てたと言わんばかりの表情を浮かべて口を開いた。


「お前って、頭良いクセに単純バカ?半刻で訳したとしても書き取りきれない課題を、第二階位の試練として課すとか嫌がらせに決まってるでしょ。しかも内容聞く限り、恐らく太古の昔にエルフが記したって言われてる、魔法理論の教典写本だと思うけど……そんなの、第五階位(レプラ)の僕達でも最近扱い始めたばかりだから。つまり、マスター・リカルドはお前を落とす気満々だったってこと」


 緑の宝石がきらめくピンを弄ぶように手の平で転がしながら、シエロは皮肉たっぷりにそう言った。


「でも、ちゃんと第二階位にしてくれましたよ?」

「それは、お前の回答がカンペキすぎて、ケチの付け所が無かったんでしょ。第二階位の試練は、ただ『古の言葉の力量を試す』ってことだけが決まってて、それぞれのマスターに内容や裁量は(ゆだ)ねられてる。ただ、不正を防ぐためにもマスターが提示した問題文と、受験者の回答はマスター間で共有されることになってんの。今頃マスター・リカルドが出した鬼畜問題とお前の非常識な完答っぷりに、二重の意味で目を回してると思うけど」


 それは私を遠回しに褒めてくれているのか、それとも単純に(けな)しているのか微妙なところだな、と最近ようやく少しずつ分かるようになってきたはずである、シエロの皮肉に頭を悩ませた。




「まあ、いけ好かないマスター・リカルドに一杯食わせられたんだから……良くやったんじゃないの」


 珍しく分かりやすいシエロの褒め言葉に、思わず笑顔が湧き上がる。そんな私に、どこか生暖かい視線を送りながら、シエロがペラリと私の鼻先に一枚の紙を突きつけた。


「それで、ひとまず講義を受ける資格が手に入る第二階位に上がって、それで満足出来なかったワケ?出世欲の浮き沈みが激しすぎるんじゃないの、お前」


 シエロの手にあるのは、顔も知らない『学院長』から送られて来た通達だった。長々と格式張った文章が続くが、ざっくりと要約すると『貴殿等の要請により、第二階位(ゼクス)・レイリアと第五階位(レプラ)・セルギウスの決闘に伴い、レイリアの第三階位(トリル)昇格の試練挑戦を認めるものとする』と言ったことが書かれていて。


「それが他薦(たせん)、らしくて」

「は……?」


 思わずと言った風に間の抜けた声をあげて、たっぷり数秒は思考を停止させた後に、それでも私の一言だけで状況が飲み込めたのか、シエロは納得したように頷いた。




「第七階位からの特権で、本来は最低でも半年の実戦演習を積んでからでないと受けられない第三階位昇格試験を、演習を免除して受験させることが出来るんだよ。本来は、即戦力になる学生を自分の研究室に引き抜くか、目をかけてる奴の位階に色をつけてやるための制度なんだけど……そう言う使い方も、あるワケだ」


 温度のない笑顔を浮かべて、何か『悪いこと』を考えている様子のシエロに、思わず背筋がゾクリとするのを感じた。


「第三階位昇格のための試練は、試験官もしくは試験官の認めた者との立ち会いの上で、十分な成績を残すこと。ここで不合格となった場合、更に半年の実戦演習が義務付けられる。実戦経験のないお前を公衆の面前でボコボコにして、他のマスターからの印象を悪くした上で、確実に半年以上を第二階位で足踏みさせようって魂胆か。どうせ、マスター・フィニアスを良く思っていないマスターの仕業だろうけど、そのセルギウスって奴も良く受けたもんだな……で、誰コイツ」

「その……順序が逆で、まずこの人に決闘を申し込まれたんです。知らない人、なんですけど」

「は……?」


 今度こそ、本気で意味が分からないと言う表情で固まったシエロに、私は溜め息を吐きながら経緯を説明した。本当にたったの一日で、どうしてこうなったんだろう、と思いながら。









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