03 勝利への渇望 ⑥
「ぷッ……ハハハッ、そう来たか!かなり凄い門番とかっ、良いぞお前気に入った!」
どうやら良く分からないけど私を気に入ってくれたらしい門番さんは、さっきまでのどこか得体の知れない笑みとは打って変わって、からりと気持ちの良い笑顔を浮かべた。
「お前の推測通り、俺はマスターの資格を持ってるし、その義務は果たさなくてはならん。だが、こっちにもお前の要請を断れる『やむを得ない事情』ってのがあるし……」
「えっ……」
それじゃあ、完全に空振りだったのかとガッカリした思いで見上げれば、門番さんはポンと優しく私の肩を叩いた。
「まあ、そんな顔しなさんな。お前は自分の持ってる手札を使って、試練に対して真剣に向き合ってここに来た……そうだろ?だから、それには応えてやらなくちゃな」
のんびりとした口調で呟きながら、彼はパチリと指を鳴らして宙空に羽根ペンとインク壺と羊皮紙を一度に呼び出した。こうして改めて見ると、綺麗に無駄のない魔法を使っているんだなと思わされる。
彼はサラサラと羊皮紙に何かを書き付けたかと思うと、丸めて巻物にした羊皮紙に紐を巻きつけ、今度は赤蝋を呼び出して厳重に封をした。極めつけには中指に嵌めていた大ぶりの指輪を外すと、まだ固まりきっていない封蝋の上からぐっと型をつける。
「格好いい……!」
私が思わず呟くと、門番さんは嬉しそうに頷いて、得意気に封蝋を見せつけてきた。
「だろう?指輪印章だが、初めて見たのか?この複雑なドラゴンの紋様が堪らないよな……まあ、こっちの印章は、あまり使い道がないからここぞって時にな。あんまりホイホイ捺すと、怒られるし。お前、これが見れるってのは相当に幸運だぞ」
「はい!」
ほくほくと巻物を受け取り、精巧な封蝋の意匠を惚れ惚れと眺める。これが、ドラゴン。いつか、ユーリが話してくれた物語の中でしか聞いたことのない、伝説の……そして、悲しい運命を辿った種族。
「と、大事なのは中身の方だ。こいつは紹介状ってやつで、この学院に限らず魔法使いだとか……面倒くさい大人社会の中では、これが無くちゃ何も始まらん。大事なことだから、しっかり覚えとけよ。コネは大事に、だ」
「はい」
しっかりと頷いた私に、赤い門番さんはイタズラっぽく笑った。
「これを北塔の二階、端から三番目の教室にいるリカルドと言うマスターに渡せ。気難しい男だが、フィニアスと上手くやってるお前さんなら……まあ、大丈夫だろ」
どことなく不安の残る物言いだったけれど、私は「ありがとうございます」と心からの思いで告げた。本当に、門番さんが助けてくれなかったら、振り出しに戻るところだったかもしれない。
「まあ、俺が直接に手助けしてやれることは少ないが、それでもここの学徒の一人としてお前を応援しているからな。魔法使いとして……一人の研究者として、お前がどこまで行けるのか、楽しみにしとくよ」
「はい……!」
また一歩、前に進むための勇気をもらえた気がした。こうして、背中を押してくれる人がいる。少しずつでも、歩けてる……未来は、きっと明るい。
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