03 勝利への渇望 ⑤
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「……んで、どうして俺の所を訪ねて来ることになるんだよ」
柘榴石の瞳が、ウンザリした表情を浮かべている。私とナジークがやって来たのは、つい数時間前に別れたばかりの『門番さん』の部屋だった。正直、魔法科附属図書館の仕掛けがもう一度発動するかどうかは賭けだったけれど、何の問題もなく七色の七芒星の魔法陣と白い扉は出現し、数時間前と全く同じ手順でこの殺風景な石壁の部屋に辿り着いたのであって。
「いえ、この学院で頼れる人が『門番さん』以外に思いつかなかったので」
「だからって、その日のうちに戻って来るヤツがあるかっ!普通は一度通り過ぎた階層に、もう一度戻ろうとか考えないだろ……折角、格好つけて退場したのに台無しじゃねえか!クソ、前々から思ってたが仕掛けに課題点がありすぎる……とは言え、下手に手ぇ加えるのもなぁ」
今ではブツブツと何かを呟く程度には落ち着いているけれど、本当に私が訪ねて来ることは想定外だったのか、私が再び入り口から『落ちて』きた時の彼の驚きっぷりと言ったら……言葉にならないような顔をしていた。
「まぁいい。お前が第二階層に続く扉を開いたことは、こっちでも把握している。早い話、俺に何を頼みたいんだ?」
「次の階層に進むための『試練』を下さい。出された指示は『師を訪ねよ』なので、マスターの資格を持ってるなら研究室にいなくてもいい、ですよね?」
「しがない門番が、マスター資格なんざ持ってると思うか?」
ニヤリと笑って言うこの人は、絶対に分かっていて言っている。ライがたまに仕掛けてくる意地悪とか、フィニアス師のネチネチと皮肉を並べる感じとも違う感じだ。一歩外に出るだけで、色んな人がいるんだなと思いながら求められた根拠を説明する。
「誓約には第七階位以上の者は学院内でマスターとしての資格を得ると共に、権利と義務が生じるとありました。その中に、自分より下の位階の者を教え導くこと……そして、やむを得ない事情を除いて『試練』にまつわる要請を拒んではならないとあったはず」
面白がるようなニヤニヤ顔を崩さない『門番さん』に、そもそも私に位階を示すピンを見せつけるようにして記憶に残したのは、他でもないこの人だったのだと気付く。もしかしたら本当は、この展開も織り込み済みだったのかもしれないけれど。
「第一階位の試練で私を導いたのは七色の光。学院内でこれまで目にしたピンの色は、私の無色を除けば赤橙黄緑青藍紫で、人数比的にも光の分散の順でも恐らく位階の順序はその通り。つまり、紫のピンを持ってる『門番さん』は、第八階位の魔法使いだってことになります」
だから私が『試練』を求めるなら、この人は断ることができない……はず。どうだ、と言う思いでジッと彼を見つめると、柘榴色をした瞳は更に笑みを深めた。
「それなら、お前の導き出した俺の正体は?」
「正体……?」
そんなもの、今更確認する必要があるのだろうか、と内心で首を捻りながら自信を持って頷いた。
「あなたは『しがない門番さん』ではなく、実は『かなり凄い門番さん』だったと言うことです」
「は……?」
門番さんは、そんな間の抜けたような声をあげて、数秒くらい固まっていた。
「カァアァァ……」
バサバサヨロヨロと私の肩からずり落ちかけたナジークが、情けない鳴き声をあげながら翼で目を覆った。目も当てられない、とでも言いたいんだろうか。




