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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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03 勝利への渇望 ④


「……だから、昨日まで第一階位に上がれなくて(くすぶ)ってたヤツが、指示を『読み取れた』ことがまずおかしいってこと、いい加減に気付けば?あれ全部『古の言葉』で書かれてたはずでしょ……基本的に、貴族の子弟でも学院に来たばかりじゃ、パッと見で全ての指示を読み取るのは知識量からして無理。全部の指示をガリガリ書き取って、何冊も見当違いの魔導書のページを(めく)って、ようやく一文を訳せるワケ」


 つらつらと並べられた言葉に、まだ私が何を指摘されているのか分からない顔をしているのが伝わったのか、シエロは呆れた表情で深々と溜め息を吐いた。


「つまり、あの階層の謎解きの役割は学院附属図書館の使い方と、魔導書の物量に慣れるためにあるってこと。専属のマスター・フィニアスが不在の状態で、つい昨日まで魔法魔術学院の存在も知らずに無階層でウロチョロしてた子供が、実は第一階層を楽々突破できるだけの『言葉』の知識を持ってました、なんて非常識をお前はやってのけたの」


 疲れたようなシエロの説明に、私はようやく事の重大さに気付いて天を仰いだ。あれだけエルにもフィニアス師にも、私が『言葉』を人並み以上に理解できることを隠せって言われてたのに。




《アノ程度ならバ、問題無イ。目ノ前の坊主ガ想像シている何倍モ、オ前の知識ハ深イ》


 頭の中に響いて来たナジークの声に、思わず目を瞬かせる。


《今回バレたモノなド、所詮ハ学院の誰モが調べレバ読み解けル程度だカラな》


 落ち着き払ったナジークの態度に、焦りのあまりにそれこそ『あらぬこと』を口走りそうになっていた頭が、すっと冷えるのを感じた。確かに、その通りだった。私が他の人と比べて、どれくらい『言葉』を理解しているのか今は比べることができないけど、まだ私は第二階位に至るための謎解きに触れただけだ。そんなもの、この学院の人達はとっくに突破してるのであって。


《ありがと、ナジーク》


 私がそっと彼の羽を撫でると、ナジークは翼を広げて「クワァアッ」と鳴いた。その鳴き声にビクリと肩を震わせて顔を引きつらせたシエロは、ナジークの存在に落ち着かない様子のまま言葉を続けた。


「……お前の知識の偏りは今に始まった話じゃないし、別に良いけど。それで、マスターはいないしコネもないお前が、どうやって第二階位の『あの』試験をクリアしたのか、同門の僕にはタネ明かしをしておくべきだよね?」

「あ、それは第一階層の『門番さん』にお願いしました」


 あっさりと告げた私の言葉に、その時シエロが浮かべた表情を、きっと忘れることはないだろう。具体的にどんな顔だったかは、兄弟子の名誉のために避けておくことにする。





『師を(たず)ねよ、試しの時が来た』


 青く美しい魔法の炎が照らす中、秘密の小部屋の中心に金色(こんじき)の文字が現れ、消えていく。新たな指示を与えられた私は、思わずナジークと顔を見合わせた。


《マスター、いないんだけど》

《……ダナ》


 悲しい沈黙が、落ちた。


 フィニアス師が不在であることは最初から分かり切っていたけど、ちょうど気分的に盛り上がっていたところに、カンペキな形で出鼻を(くじ)かれた気分だった。まさか、いつ戻って来るとも知れないフィニアス師を、いつまでも待っていることも出来ない。


《これって、自分が師事してるマスターじゃなくても良いのかな》

《ウム……師、トしカ指示ガ無かッタからナ》


 そもそも、ついさっき『誓約書』で読んだ限りでは、講義に参加出来るのは最低でも第二階位からとあった。この試練を受ける第一階位の人間が、最初から特定のマスターに師事していることが前提なのか、それとも『師を訪ねる』ことそのものが試練の一貫なのか。


《どっちみち、私が頼れそうな人なんて限られてるんだし、当たって砕けろだよね!》

《イヤ、砕ケてドウすルんだ……》


 呆れたような調子で私の頭にベシャリと沈みこむナジークに、私は笑いながら心底から彼がいてくれて良かったと思った。




 小部屋の壁に触れ、この数時間ですっかり慣れた『裏の廊下』……あの広大な地下図書館へと続く道へと抜ける。目的地に到達するためには、ここを通って行った方が早い。そこには講義の休憩時間を除いて閑散とした表の廊下が嘘のように、魔法使い達が行き交いあるいは(たたず)んで、今この瞬間も銘々に魔術の研鑽(けんさん)を積んでいた。


(私も、早く追いつきたい)


 あの地下図書館を目にして、私がこれまで触れて来たのは魔導の世界の片鱗に過ぎないのだと、今では確信している。この階層を駆け抜けて、まずは講義を受ける権利を手にしなければ、何も始まらない。私の足は、迷わずに図書館へと向いていた……ここではない、通い慣れた地上の『魔法科附属図書館』へと。







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