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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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02 紐解く七色の導 ③

《確か……隠されたものを見つける時には、あまりに整い過ぎてて逆に不自然なものに注目すべし……だっけ》


 これは相手の嘘や隠し事を見抜く時の注意点だったと思うけど、探しもののヒントを見つける時にだって使えるはずだ、と信じたい。


《そんなの、もう》

《コレしカ、無いダロうナ》


 誰も居ないのを良いことに、ナジークがバサリと羽を広げて天井近くを鮮やかに滑空する。そこに広がるのは、きっかり8×8の64マスの枠で埋められた正方形の天井と、そこに深い蒼の優美な字で紡がれた聖句(せいく)の群れ。


『今この時、この場所より、そなたの神へと立ち(かえ)れ』

『言葉よ、(あまね)く真実であれ。祈りよ、常に正しくあれ。さすれば開かれん』

『死を恐れるな、生はそなたの物ではない。災厄を恐れるな、安寧はこの果てにある』

『我は祈り、我は暴く。見よ、この光こそが死の勝利である……』


 その美しいながらも、どこか不穏さを孕んだ言葉達を眺めながら、私は頷いた。




「やっぱり、魔法っぽくない」


 フィニアス師の蔵書で知ったことだけれど、今この学院で……すなわち、この世界で主流派となっている魔法は、いわゆる現行の宗教とは根本的に相容(あいい)れないものであるらしく、とにかく神だのなんだのの概念が魔法・魔術に登場することは、まずないらしい。


(それに、この天井)


 魔法陣を描く上での基礎中の基礎として叩き込まれた、線で表現される対象の形状はそれぞれに意味を持っていて、矩形(くけい)……中でも全ての辺と角の等しい正方形は、現実を規定する枠組みや秩序を示唆しているとのこと。最も魔法的ではない……故にこそ、魔法に必要とされるもので、概念を現実化するために必須の形状なのだとフィニアス師は言っていた。


 手がかりは、間違いなくこの聖句にある。そう確信して、首が痛くなるくらいに天井を見上げて考え込む。頭文字(かしらもじ)を取って、適当に並び替える?でも、規則性もないのに64文字を並び替えて、意味の通る文章にするなんて合理的じゃない。


「でも、この言葉、どこかで見たことが……」


 ハッとして、目を(またた)かせる。そうだ……図書館でなければならない理由。記憶を頼りに、以前読み漁った魔導書を手に取り内表紙(うちびょうし)を開く。


(あった……)


 表題の下に、優美な文字で書き加えられた一文。




『32:扉は開かれた。約束の鐘は鳴り、時は眠る。運命(さだめ)を背負い歩むが良い……』


 天井に書かれた文章の一つと一致し、次の手がかりが図書館の蔵書そのものであることを理解する。それならば、と素直に振られた番号のページを開き、目に飛び込んで来た鮮やかな色と『正解』に思わず溜め息がこぼれるのを感じた。


 高価な装飾写本に特有の、鮮やかな色使いで彩られた文章の中、くっきりと際立つ深い蒼で記された(いにしえ)の言葉『ケイディオ』……意味は『真実』


 天井に記された聖句と同じ色で記された『真実』の語を、ヒラリと手を振って打ち上げる。光る銀色の文字で宙に浮いた手がかりの欠片に、背中を押されて前に進む。図書館中の書物を広げ、天井に掲げられた64のマス目を埋め終わる頃には、それらを番号の順に今一度並べ変えれば良いのだと理解出来ていた。




「これは終わりであり、始まりである。光は分かたれ、故に完全となった。永遠の花が導く果てに、真実へと至る扉がある。秩序より旅立ち、円環の神秘を求めよ。力を示し、未知を(のぞ)むそなたに問う。この道行きに、何を望むか?」


 なんとか最後まで噛まずに読み上げて、私は呆然と立ち尽くした。


「意味、わかんない……」

「カぁぁああぁ……」


 情けない鳴き声を挙げながら、フヨフヨと飛んでいたナジークが落ちてくる。ぽすり、と両手で受け止めると、ぐったりしたナジークが呆れたように告げた。


《ココまデ読み解イて置いテ、何故分かラないッ》

《そう、言われても……》


 難しい言葉すぎて分からない、というか表現が抽象的すぎて分からない、かもしれない。何が分からないのか、もう分からない。


《字義通リに、考えルナ。底意地ノ悪イ、謎掛けトデモ思うンだナ。フィニアスのヨウに》

《マスターの……》


 フィニアス師は、存在そのものが回りくどくて謎掛けみたいな人だから、その例えはとてもとても納得がいった。こんなことを話し合ってる、なんてフィニアス師に知れたらと思うだけでも、目の笑ってない笑顔が思い浮かんで恐ろしかったけど。




「言葉通りに考えない……そうか、完全と永遠と円環」


 私が呟いた言葉に、ナジークがまた満足そうに喉を鳴らす。


 この三つは、どれも関連している言葉だ。円環は多分、そのままの意味じゃないけどヒントの言葉になってて、魔法陣の上では混沌と完全という両極端の意味を持つ。終わりがない図形でもあるから、転じて永遠も意味するようになった……


《だから、終わりであり、始まりでもあるんだ……!この部屋に、円とか花とかある?》

《ソレなラ、コッチだナ》


 ナジークの翼が指し示した先の書棚には、やはり繊細な幾何学模様が彫り込まれており、その中に円の中心に七芒星(しちぼうせい)を配した図案が見つかった。確かに、言われて見れば花みたいだし、なにより七芒星は『光』を象徴する図案で、転じて光の照らす知恵や真実を意味する。


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