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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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02 紐解く七色の導 ①

02 紐解く七色の導



 そしてまた星の見えない夜は明ける

 未知の光をガラスのリボンでつかまえにいこう

 新しい世界への切符を手にして



 *



 (つか)んだ――


 すっかり慣れ親しんだ大廊下を駆け抜けながら、心が浮き立つのを抑えられなかった。クモの巣に引っかかってグチャグチャになって、途方に暮れて『終わり』を覚悟し始めていたのが、気まぐれな手に救われた気分だった。


 この場所に来てからずっと、私の頭には灰色の霧がかかっていて、どっちに向かって進めばいいのか、そもそも進めるのかどうかすら分からなかった。ルーベンの村の人達が、私を見る時の……そう、この白い髪を見る時みたいな目とはまた違って、魔法科棟の人達の視線はなんだか怖くて。


 あの視線の前にさらされると、頭が真っ白になって上手に息ができなくなる。どこにいても、何をしてても視線は追いかけてきて、ひそひそと静かに笑っている。この場所では何もかもが平等で公正だと聞いていたのに、教室ひとつ入ることは許されなくて、何も教わることが出来なくて、何が悪いのかも分からないままにただ時間だけが過ぎていく。


 私はきっと、覚悟が足りてなかったんだと思う。ただ一つだけ立ち入ることを許された魔法科附属図書館も、頼みの綱だったフィニアス師の研究室にも、ライの呪いを解くための手がかりも、病気の進行を食い止める方法が()ってる書物もなくて、むしろエルが持ってる医学書の方がずっと役に立っていたくらいだった。それでもエルとフィニアス師が、魔法科棟に行くべきだと判断したんだから、諦めずに頑張っていればきっと何かが掴めると思って、手当たり次第に本のページをめくって……それでも、何もかもが上手くいかなくなって。


 これまでずっと、私の前にはエルがいて、ライがいて……時々シアお姉ちゃんとかフィニアス師がいて、学び方も学ぶ事も、進むべき方向はいつだって与えられていた。誰も知らない『何か』を求めて歩き出すことが、こんなにも不安だなんて知らなかった。あの恐ろしい視線に呑まれて初めて、私が今までどれだけ大切に護られてきたのかを知った。




(……そして今度は、シエロが私を助けてくれた)


 エルともフィニアス師とも……それからユーリとも、全然違う。私にとって、シエロは何もかもが初めて接する立場の人だった。大人じゃないけど、子供でもなくて、私の兄弟子だけど、そう呼ばれることをとても嫌がるし、何かを命令したり教えたりもしない。シエロはとっても気難しくて、ときどき意地悪で、私に興味なんて毛ほどもないみたいに振る舞うのに、実は私のことをとても気にかけてくれていることが最近になってやっと分かってきた。


 言葉は厳しいけど理不尽なことは言わないし、正解は教えてくれなくても自分自身の行動で示してくれる。イヤそうな顔はするけど、私がシエロを見て余さず学び取ろうと、後について回っても怒ったりしないし、私のことを悪意ある言葉で囁いている人がいれば、さり気なく遠ざけてくれたりする。ちょっとチグハグだけど、とても優しい人なんだと思う。




(もし、ユーリが生きてたら)


 あれくらいの歳だったのかな、と考えることもあるけど、分からない。最後に見たユーリの姿はハッキリ覚えているはずなのに、記憶の中で揺らめきながら、ひどく大人びていたようにも思えるし、私が思っているよりも幼かったような気がする時もある。最近になって、ようやくユーリのことを少し落ち着いて考えられるようになってきたばかりだったから。


 これまでの私にとって年の近い人はユーリだけで、何もかもが違うシエロの存在でいっぱいいっぱいになってるのかもしれなかった。ライのこと、ユーリのこと……そして、私自身のこと。考えるべきことも、やらなくちゃいけないことも有りすぎて、それなのに何もかもが上手くいかなくて、焦りばかりが先立って。きっと、自分も周囲のことも大事に出来てなかったし、シエロにも沢山迷惑をかけていたんだと思う。


 それなのに今、確かにシエロは手を差し伸べてくれた。注意深く言葉を選びながら、少し……ううん、かなり意地悪を()()ぜて、大きすぎるくらいのヒントを与えてくれた。シエロがあんなに慎重になるなんて、何か危険な橋を渡らせてしまっていたのかもしれない。


(だからこそ、前に進まなくちゃ――)


 ううん、ようやく進めるんだ。本当は自分の足で立って進まなくちゃいけないのに、出だしから(つまづ)いてズルっ子することになっちゃったけど……シエロに『ありがとう』を言うためにも、彼に恥じない妹弟子(?)であるためにも、今は前へ。




《今日ハ随分とキゲンが良イナ》


 バサリ、と。


 耳慣れた羽音を響かせて、その見た目に反した柔らかい着地が、優しく私の肩に載せられた。なんだか、久々にナジークの声を聞いたせいか、安心して涙がこぼれそうになる。ここのところ、私が余裕を無くして書物に没頭しているのを、ただ静かに寄り添ってくれていた。


《……うん!どこに行けばいいのか、やっと分かったから。シエロがね、助けてくれたの》

《アノ坊主が、カ……ヨカッタな》


 クワァ


 欠伸(あくび)混じりの鳴き声を返しながらも、優しく(くちばし)をすり寄せてくれるナジークに、するすると頭を撫でれば気持ちよさそうに目を閉じる。


《少し寝てる?》

《いヤ、イツ助けガ必要にナルとモ知れんカラな》


 そう言って胸を張るナジークに、ここへ来てからどれだけ助けられたか分からなかった。シエロ(いわ)く、動物を魔法科棟に持ち込むなんて非常識極まりない行為で、私がナジークを連れて歩いているのが黙認されているのは、彼がワタリガラスであるかららしい。




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