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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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01 伸ばす手の先へ ⑥

『とある(とりで)への潜入作戦が与えられた。潜入期間は短く、開戦の迫る敵地において出来る事は限られている。自国への貢献のため、貴様は何を為す?』


 これは魔法使いである限り、常に考えているべき問題の一つだと言えるだろう。例え何を研究していたとしても、全ては己が国の発展と勝利に捧げるため。魔法使いが最も重用されるのは、いついかなる時代においても『戦時』に他ならない。


 この問いに正解は無いけれど、その魔法使いの頭の中身を知るには最適な質問だ。個人の魔法適正とか、性格が如実(にょじつ)に出るだろう……マスター・リカルド好みの回答なら、砦の中にえげつない罠を大量に仕掛けておくとか、大規模魔法陣の下準備を済ませておくとかか。




『……分かりません。でも戦わずに済むなら、それが最善ではないでしょうか。そのためになら、なんだってやると思います』


 空白のような沈黙の後、部屋は笑いの渦に呑まれた。周囲の笑い声を一斉に浴びながら、僕はズルズルと椅子に沈み込んだ。これは、駄目だ……魔法使いとしての能力以前の問題だと、これだけ多くの者の目の前で証明されてしまった。


 この講義は必要な『位階』が高く設定されている故に、受講者の能力は必然的に高い。彼らならば、マスター・リカルドの質問が段階的に『易しく』なっていたことに気付いただろう。いつもの意地の悪い質問でなく、そんな初歩的な問いにすらマトモに答えられない無能なのだと、そんな烙印(らくいん)を押されたにも等しかった。


『その判断の幼稚さは、この部屋の状況が示す通りだ。あの研究室にありがちな、情弱と人脈の無さで無階層に甘んじているのかと思えば、単なる無知な子供だったとは……とんだ期待外れと言った所か』


 嘲笑を一身に浴びながら、彼女は青ざめた表情で立ち尽くしていた。




『何をしている。ここは貴様の居るべき場所ではない……それも分からないか、凡愚め』


 吐き捨てるように教室の扉を示されて、一瞬だけ深い緑の瞳が揺れるのが見えた気がした。それも束の間、次の瞬間には逃げるように出て行った彼女の背中を、失笑が追いかけて行く。その姿は滑稽で、僕の生活と立場を乱したヤツには良い薬で、一緒になって笑ってやればよかったのに、何故か替わりに爆発寸前までどす黒い怒りが湧き上がって来て。


『大分時間を無駄にしてしまった……これだから無能な(やから)を排除しろと、あれほど言っているのに老害共は。学びの機会を均等になどと綺麗事を……努力しない馬鹿に、有能な者と同じ権利を与えることが間違っている。イゾルデの民である自尊心も持たないクズめ』





 ああ……クソっ


《バァンッッ!!》



 気付けば、椅子を壁に向かってブチ投げていた。僕が力任せに打ち出した魔力の塊と共に風を巻き込んだ頑丈な鋼欅(はがねけやき)の椅子は、不朽の城と呼ばれ傷一つ付かないと有名な学院の壁に深く深くめり込んだ。何かが爆発したような轟音に、吐き気がするようなクスクス笑いも収まり、部屋中がシンと静まり返る……そうだ、それで良い。


 僕はさすがに絶句しているマスター・リカルドの前へとツカツカと歩み寄り、三つ目の問いの答えを宙にザッと浮かび上がらせると、その鼻先に叩きつけてやった。驚愕に見開かれた瞳が、眩く輝く青白い光の文字達でかき消されていく。いつもスカしているこの男の、そんな顔が見れただけでも幾分か胸の空いたような思いがして、振り返らず部屋を後にした。


 乱雑に扉を閉めて、カツカツと靴音も高く渡廊(わたろう)を歩く。


(やって……しまったぁぁぁああっ!!)


 内心で、そんな叫び声を盛大にぶち挙げながら。


 折角ずっと、人前でキレ散らかさないように気を付けてたって言うのに!兄上にも散々『短気を起こさないように』と釘を刺されていたのに!それもよりによって、自分絡みのことではなく、あの気に喰わないポッと出の『姉弟子』のことで……


 ガックリと肩を落としながらも、それでも不思議と内心スッキリしている自分がいた。ずっと、あいつらに目にもの見せてやりたいと思っていたんだし、予定が少し早まって少しばかりやり方が雑だっただけで。マスター・リカルドの言葉も、間違っていないのは分かっていても、どうしてもあの()(ざま)だけは許せなかった。


(……何も知らないヤツが、言っていい言葉じゃない)




 ここ数日、不本意ながらも昼も夜も……あろうことか寝食も共にして、アイツが努力もしないでコネと運だけでこの学院都市に乗り込んで来たワケじゃないことくらい、僕だって理解し始めていた。


 ……勘違いしないで欲しいんだけど別に僕は強制してないし、イゾルデの人々がみんな男女で雑魚寝(ざこね)生活なんて野蛮なことをしてるワケでもない。むしろイゾルデに在籍する学徒は、あって無いような居住費さえ払えば誰でも付属の寮を利用する事が出来る。僕はイチイチ遠くの寮から研究室まで移動する時間がもったいなくて、研究室に隣接してる仮眠室……と言うか、もともと倉庫だったのを適当に寝床として整えただけの場所で生活してる。


 そして僕がここで生活してることを知った途端、迷わず雑魚寝を選択するあたりが、本当にアイツの理解出来ないところなのであって。次の日には、どこから調達してきたのか(わら)の小山と毛布とで、こじんまりとした寝床が出来上がっていた。躊躇(ためら)いがなさすぎる。




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