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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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00 序 ④

 ギルフォード公が静かな声で、最悪に限りなく近い現状を分析する。しかしながら、それに対して動揺するような可愛い精神の持ち主が、この場にいるはずもなく。


「ディートハルト閣下、兵の練度に関しての所感を頂けますか」

「現実的に考えて、歩兵や騎兵はどれだけ練度を上げたとしても、スプリガルに対抗出来るとは考え難い。また、今の時代の兵の半数以上が、大小の小競り合いには負けなしであるものの、国の総力を挙げた文字通り命懸けの全面戦争を経験した事がない。シンシアにおける衛兵の被害状況は、それを如実に反映したものであると言えるだろう」


 フィニアスの淡々とした問い掛けに、ディートハルト将軍は普段の(わだかま)りを横に置き、現実に則した答えを即座に返した。王はそれを聞き、少し考えた後で口を開いた。


「ギルフォード公、国庫の状況を」


「御意。ここ数年は特に大きな流行(はや)(やまい)や飢饉などもなく、末端の村々における技術導入も成果を見せ始めており、税収は安定しています。貿易関係も、国家間また個人間共に緩やかながらも成長を続け、多少の期間に渡ってゼクトとの通商が滞ろうとも、大きな問題はないと言えるでしょう。エルディネ始まって以来、現時点が最も資金は潤沢であり、何か事を起こすのであれば今を置いて他には無いかと」


 ギルフォード公はそこまで告げ、ブラッドフォード公が希望に満ちた表情で身を乗り出すのを視界に入れると、頭痛を堪えるように顔を引きつらせて付け加えた。


「……無論、剰余金は基本的に都市の整備や土地開発など、国家の維持を中心とした諸事業に回しておりますので、どこかで調整は必要となって参りますが」


 ギルフォード公の言葉を受けて、フィニアスは打って変わって真剣な表情で告げた。


「ゼクトとの関係性維持を念頭に置くのであれば、大軍をもってして叩き潰すのではなく、威嚇程度で追い返すのが賢明でしょう。実際問題、兵力を大幅に分散するだけの余力を、我々は有しておりませんし……そうですね、騎士団の戦力拡充は少しずつでも進めるべきです。平時であればともかく、戦に備えるのであれば圧倒的に兵数も武具も不足しています。対レストニア戦を考えるのであれば、大量の軍を送り込むにはメスティア渓谷を抜ける他に手立てが無いのは、スプリガルとザイロスの他に生きてアドラ山脈を越えられる生物が存在しないため、あちらも条件は同じ事。であれば、やはりレストニア側の動きを待つ他にありません。これまでの『小競り合い』を踏まえれば、帝国が魔物を主戦力として用いている可能性は大いにあります。対人戦よりも、そちらに訓練の比重を置くべきかと」


 滔々(とうとう)と語られるフィニアスの言葉を聞きながら、ディートハルト将軍と配下の騎士団長らが視線を交わす。この困難な状況を打開する、魔法の一手は流石の軍事顧問たるフィニアスでも(ひね)り出せないかと、一同が思い始めた矢先だった。


「さて、そちらをお任せ出来るのであれば、ゼクトとクラリスの小競り合いの方は私の方で『なんとか』しておきましょう。多少の兵はお借りする事になりますが……構いません?」


 その言葉に、部屋中の面々が表情を引き()らせる羽目になった。この魔法使いは、基本的に大変腰が重いものの、やると言ったら本当にやるのだ。実際、ゼクト程度の一つや二つ、単独で制圧出来てしまうのだろう。連れて行く兵は、どう考えてもフィニアス本人のストッパー程度の役にしか立たないはずである。


「ディートハルト」


 一気に頭の痛い問題が一つ解消する一声を逃さず、王はディートハルト将軍を呼んだ。


「御意。第一騎士団に通達、魔法師の戦力状況を詳細に把握し、魔物の出没する領の諸侯に協力を要請の上、これまでの情報を元にスプリガルに抗する策を整えよ。第二騎士団に通達、募兵……最悪の場合は徴兵の準備を。予算に関しては、ギルフォード公の指示に従え。第三騎士団に通達、フィニアス殿を戦力に加えた実戦を想定し、連携と戦力の増強に注力の上ゼクトとの開戦に備えよ」


「「「はっ!」」」


 (かかと)を打ち鳴らし、完璧な騎士礼を取った三人の騎士団長は、そのまま王の御前(ごぜん)を足早に辞した。その後姿を見送る暇もなく、フィニアスはギルフォード公に向き直る。


「ギルフォード公、表向きにクラリスとの連絡を密に取る手立てを整えて頂けますか。それに丁度よろしいですから、対ゼクト戦の名目で貴族連中から出資を募って下さい。その際、増税は極力抑える方針である、と王宮の方針を明確に。民を悪戯(いたずら)に苦しめてはなりませんから。納得させるための見返りは……そうですね、停戦時に通商条約の更新を迫り、ゼクトとクラリスから長期に渡って利益が取れるような構造を作ってしまいましょう。付随して、貴族の貿易事業参入権拡大を認める代わりに、ちゃっかり街道と運河の普請を義務化してしまえば採算も取れます。その布石として、ゼクトに対する貿易制限と、周辺諸国に対して幾つかの品目に関する関税の見直しを……詳細は追ってお伝えします」


「承った」




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