表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
108/277

07 人間である、ということ ⑩

「知ってるって……おじさんが王様だ、ってこと?普通じゃない髪の色って、精霊の加護を受けている場合がほとんどだってエルが言ってたもの。気付かない方がおかしいよ」

「そ、そうか……」


「何より、フィニアス師に命令できる人なんて、王様以外にいると思う?」

「有り得んな」


 シアお姉ちゃんは即答すると、自分で自分の答えに頭を抱えた。


「あの方は……本っ当に、毎度の事ながら胃が痛くなる。国王陛下相手でさえ、あの態度……いや、まだ私相手の方がお優しいようにすら思える」

「実際シアお姉ちゃんは、エルの身内枠(みうちわく)って認識されてると思うよ。約束は絶対に守るフィニアス師が、私のこと預けていくくらいだし」


「私が、ネイトの、身内……」


 私の話を聞いているのかいないのか、遠い目になってしまうお姉ちゃんを遠慮なくゆさゆさと揺さぶる。昔からシアお姉ちゃんは、エルの話が絡むと色々な『タガ』が(はず)れちゃうんだって、ライが言っていた。その対処法は、それはもう山程教わっている。


「っと、済まない。積もる話もあるが、まずは責を果たさなければな。話はライからの長ったらしい恨み言……もとい、書簡で聞いている。今さら私が反対しても、詮無(せんな)いことだ。どうせ、ライの馬鹿が散々に(わめ)き散らして、泣いて縋って困らせただろう」

「あはは」


 全くもってその通りで、私はもう乾いた笑いを漏らすしかなかった。どちらからともなく歩き出しながら、私は完全に軽装のお姉ちゃんが少し心配になって見上げた。


「お姉ちゃん……フィニアス師はああ言ってたけど、本当に大丈夫?」

「うん?ああ、騎士団の任の事か。陛下が問題ないと判断されたのだから、私は玉命(ぎょくめい)に従うまでだ……何より、フィニアス様がいらっしゃるのだから、私一人欠けようと何も問題はない」


 シアお姉ちゃんって、エルディネで一番の軍隊である騎士団の副長?とかいう、結構偉い人だったと思うんだけど、この国の国防はいったいどうなってるんだろう……なんて、仕事に関わることはさすがに聞けない。


「えっと、お仕事のこともそうだけど……いきなり旅に出て大丈夫かな、って意味で」


 私の質問に、お姉ちゃんは目を瞬かせると、不思議そうな表情で返した。


「別に、旅などとは言っても……転移門を使うのだし、一日と少し程度の野宿だろう。そんな、大げさな支度は要らん。心配無用、私がしっかりと送り届けるから、安心してほしい」

「う、うん。ありがとう」


 頼りになりすぎる勇ましい言葉に頷いて、健脚(けんきゃく)なシアお姉ちゃんの後ろを早足で追いかけた。そのまま坂を上がり、来た時とは違う小さな門からアグナスティアを出た私達は、王都から伸びる運河を(さかのぼ)ること数分で、不思議な円形の空間に出た。


 無骨な鉄柵で囲まれたそこには、ひどく警戒した面持ちの衛兵が早足で歩き回っていて、ダイアウルフのロロ兄さんを連れた見るからに怪しい私に視線が突き刺さる。ただ、それも一瞬の事で、シアお姉ちゃんが視界に入った瞬間、全ての兵がピタリと動きを止めて一斉に(かかと)を打ち鳴らすと、キレイに揃った礼を取った。


「副長殿!」

「良い、危急の時だ!各々(おのおの)、職務に戻れ!」


 彼女が声を張り上げると、それぞれが駆け足で方々に散らばって行く。お互いに慣れているのか、お姉ちゃんは気にしない様子で鉄柵の中に入ると、そこで一番立派な鎧を着ている男の人に話しかけた。


「『門』を使いたい。それから、駿馬(しゅんめ)を一頭貸してくれ」

「はっ!」


 即座に連れて来られた栗毛の馬は、見るからに速そうな見た目をしていて、さすが王国軍と変なところで感動してしまう。


「こっちだ、リア」


 先に立って歩くシアお姉ちゃんに、私は兄さんと、それからナジークと顔を見合わせて頷き合った。重厚な木の塀で厳重に囲まれた場所を通り抜け、お姉ちゃんが扉を開けた先には……ただ、扉があった。


(でも、ただの扉じゃない)


 白銀に輝くその扉は、どこにも繋がれておらず、地面から少し浮いているようにさえ見える。明らかに、自然には存在しない異質な存在。


 この世にたった一つだけ残ると言われる、転移門。遥か古の時代に、失われた魔法で生み出されたものであり、かつては世界中に点在し稼働していたものが、今はこれとイゾルデにほど近い一対(いっつい)の門を除いては使えなくなってしまったと言う。


 本来なら、ここから後七日は行かねばならない道のりを、一瞬にして詰める驚異的な技術。エルも……フィニアス師でさえも手が届かないと言う魔術の結晶に、心奪われて見とれた。


(この、先に……また新しい世界が、待ってる)


 旅に出た時のような、行く先の見えない不安がなくなったわけじゃない。それでも、私がどこにいても、どんなときも、大切なものは変わらないって今なら分かるから。



《見失わない……星は、そこにあるもの》

《アァ》

《我々もいる》


 ありがとう、をこめて笑い合う。


「準備は出来たか」


 問いかける声に、私は胸を張って頷いた。


「いつでも」




 扉が、開く。




 こぼれ落ちた白く、眩い光に手を伸ばす。

 何度でも、手が届くまで、届く限り。

 この時の狭間を駆けて行く――




《……セレニウム・イゾルデ!》




 全ての叡智が集う地で、運命が私を待っている。










お気に召して頂けましたらブクマ・評価★★★★★お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ