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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第2章―真実の書― 旅立ち篇
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07 人間である、ということ ⑤

「あっ、相場ならライに聞いたことあります。沢山の人がその値段なら買ってもいい、って思える値段のことですよね」


 私の答えに、フィニアス師は腕組みをしながら何となく頷いた。


「まあ、厳密に言えば少し違いますが、その認識で構いません。では、ここから導かれる買い物の極意は?」

「相場を知ること」

「良く出来ました」


 フィニアス師は(かす)かに笑いながら、手の平の上に魔法みたく三枚の硬貨を広げた。


「この薄く暗い色をした金属片が賤貨、こちらの白っぽい硬貨がディナリ銀貨、最後にミレニア金貨です。エルディネ王国発行のものですが、鋳造技術と財力を持つ国は近隣に少ないので、大抵の国で通用します」


 ピン、と爪先で賤貨を(はじ)いて、慌てる私の手の平に落とす。


「重さを覚えておきなさい。賤貨は公的に発行されているものでなく、単なる金属片ですので詐欺に遭う場合がありますから。ディナリは重さの単位でもあります……賤貨五枚でディナリ銀貨一枚の重さにならなければ、受け取ってはもらえません」


 ザラリと五枚の賤貨と、一枚のディナリ銀貨が私の手に乗せられる。


「最後にミレニア金貨ですが、こちらは露天などで使うことはありませんね。貴族と商人のための貨幣だと考えてよろしいでしょう……因みに60ディナリで1ミレニアと等価です」

「賤貨五枚で1ディナリ、60ディナリで1ミレニア」


 私が頭に刻み込むように繰り返すと、フィニアス師は頷いて続きを語った。


「それでは、応用編です。君が狩った獣の毛皮を取ってありますね?」

「はい」

「売って来なさい。出来るだけ高く」


 ニッコリと微笑んだフィニアス師の指し示す先には、狙いすましたように毛皮を売る店があった。


「返事は」

「りょ、了解です、マスター……」


 カクカクと頷いて、そろそろと露天に近付いていく。そして、ハタと立ち止まって気付いた……相場って、聞かないと分からないんじゃないだろうか。でも出来るだけ得したいなら、売りたい人間に買いたい人間が正しい相場を教えてくれるわけないし……なんてウンウン唸っているうちに、お店に用があるらしいおばさんが、さっさと私を追い抜いて行ってしまう。


「いらっしゃい」

「これ、おいくら?」

「10ディナリだね」


 おばさんの全身にサッと目を走らせた店の人が、ポンと即答する。


「ちょっと、吹っ掛けすぎじゃないの。この前は6ディナリだったのに」

「寒けりゃ、毛皮が高くなるのは当たり前だろ?」

「それにしたって高すぎるよ。7ディナリ」

「9ディナリと賤貨1枚。今の時期、どこも品薄だからねぇ。これ以上は負けられないよ」


 結局、おばさんはその値段で買って行った。その後にも何人かお客さんはやってきて、私の持っている毛皮が大体どれくらいで売れそうなのか見当はついた。


(よし!)


 相場は、分かった。後は……


《ロロ兄さん、怖いお顔しててね》

成程(なるほど)、任せろ》


 アッフ、と抑えた声で()えた兄さんに頷きを返して、私は決然と露天に乗り込んでいった。店主のおじさんは、まず私を見て片眉を上げ、次にロロ兄さんに気付いて顔を引きつらせ、最後に私に視線を戻してニッコリと笑顔を浮かべた。


「お嬢ちゃん、カリスウルフなんて珍しい護衛をつけてるね。お父さんのお使いかい?」


 何だか別種のオオカミと兄さんを取り違えてるみたいだけど、変に訂正しない方がいいだろう……兄さんの方は、ちょっとイヤそうな顔してるけど。


「そんなところです。この毛皮を、買ってほしくて」


 私が台の上に毛皮を並べると、おじさんはザッと状態を確認した後、またパッと告げた。


「3ディナリだね」

「……子供だと思って、あまり見くびらないで頂きたいですね」


 出来るだけ表情を消して、フィニアス師の真似(まね)をしてみると、おじさんの頬がピクリと震えた。


「先程のお客さん達とのやり取りを聞いていたので、あなたが考えている『相場』は知ってます。この店に置いてある他の毛皮の状態を見る限り、私のものが劣っているとは思えませんし、加工もほとんど必要ないはずです。枚数と大きさを兼ね合わせて考えても、売値12ディナリは(かた)いでしょう。それを四分の一の価格で買い叩くとは……ここは、詐欺師(さぎし)の店だと触れ回って欲しいのですか?」

「グルルルルルルッ……」


 私の言葉に合わせて、兄さんが低く唸って威嚇(いかく)してくれる。


「い、いや……お嬢ちゃんを試しただけだ。6ディナリでどうだろう」

「10ディナリ」

「こっちの(もう)けが無くなっちまうよ、お嬢ちゃん商売ってもんを知らないね。こっちは高い税金とショバ代はらって営業してるんだ、どんなに値切っても7ディナリだね」


 嘘の見抜き方なら、ライに教わって知ってる。私はおじさんの目を見てニッコリと笑った。


「8ディナリと賤貨3枚……まあ、他にもお店は沢山ありますし」

「あぁもう、それでいいよ!」


 叩きつけるように銀貨を積まれて、私は頷いて受け取った銀貨を兄さんに預けた。


「まいどあり」


 どうやら決まった挨拶みたいだから言ってみたら、おじさんには渋い顔で肩をすくめられただけだった。



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